午後の部
午後の部は、演劇部の独壇場である。関わりのない生徒にとっては、とても暇な時間だ。僕的には、たまに吹奏楽部の演奏による劇中歌が入るので、それがあるだけマシかなという感じ。今年の演劇は恋愛ものか…恋愛、か……。『愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない』とか劇中歌だったらいいのにな…。…んな訳ないよな…。
暇な時間は終わった。会場は、異様な熱気が覆っている。合唱・新聞の順位発表である。
合唱の表彰は、各学年の優秀賞1クラス、そして最優秀賞がそれ以外のクラスから1つ。それと、特別賞として伴奏者賞1人、指揮者賞1人もある。新聞は合唱の特別賞を除いた表彰と同じ。
校長による長ったらしい講評が終わり、いざ順位発表…。
「えー、1年優秀賞……3組。」
ぅぉぉぉぉ…、と歓声らしきものが上がる。3組、てことは夢々子と代祐か。さて、次は2年部…。頼む、呼ばれないでくれ…。そうしないと、最優秀賞は獲れない。
「2年優秀賞……1組。」
よし。大丈夫だ。希望はある。希望しかない。
「3年優秀賞…3組。」
わぁぁぁぁぁーーー!!!ものすごい歓声だ。さすが3年生。
「それでは、最優秀賞……。」
うぉぉ!?と期待と不安の入り混じった声が響く。
「…の前に、特別賞ですね。」
あぁぁ…、と落胆と苦笑の混じった声。どうやらこれは夏中祭の表彰の定番のくだりらしい。よく考えたら、あの時の僕はバカだったのかな。魅穂が伴奏だからって、張り切って手をあげた。男子の中では、一番音楽のセンスはある(と思う)。けれど、指揮なんて経験ゼロだ。魅穂から手を取って指揮棒の振り方を教えてもらった、3週間前の昼休み。あれが僕の中の何かを呼び覚ましてくれた。あの優しい手つきを、忘れない。忘れたくない。それ以来、感情をこめて体全体で必死に手を振った。魅穂に誉められた、5日前の放課後。僕の中の竜は、最高潮まで昇っていった。天井を知らずに昇っていき、本番でついに僕の体から飛び出した。魅穂のピアノと絡み合い、最高の形で合唱を終えられた。僕は魅穂の為に、指揮者章を獲るんだ。熱心に指揮を教えてくれて、ここまで高めてくれた魅穂の為に。いつしか恋して破れた、魅穂の為に。バカらしいプライドかも知れないけど、ね…。
「では、伴奏者賞から…伴奏者賞、2年4組、田中魅穂さん。」
おぉ!!さすが魅穂。さて、指揮者賞…、頼むぞ…。
「次に、指揮者賞…2年4組、中崎田沢湖くん。」
よっしゃぁぁ!!わぁぁぁ!と周りからも歓声があがる。嬉しくて、立ち上がって後ろの人とハイタッチ。よし、やった、やったぞぉぉ!魅穂、ありがとう、本当に、ありがとう…。やべぇ、なんか涙出そう。途中で、先に呼ばれた魅穂に追い付く。
「あーれぇ?泣いてない?」
「泣いては…ないよ。けど、嬉しいよ…。その…ありがとう。」
「ふふ、あの時と変わってないね。ほんと素直に顔に出るし。こっちこそ、ありがとう。それと、おめでとう。」
小声でささやきあったこの会話が、僕の宝物になった。記憶の中に、きっとずっと残るだろう。
ステージの上で、最優秀賞の発表を待つ。妙に冷静になった頭が、目の前にずらっと並ぶ新聞を見て感想を述べている。
「では、最優秀賞の発表にいきます。」
お、来たか。頼む、呼ばれて…。
「最優秀賞…2年4組。」
真っ先に3年の席から「ぅええぇぇ?」という驚きの声。それから2年4組の席で歓声が炸裂する。「うおおおおお!!」「ひゃぁぁぁ!!」ステージの上でも、隣の魅穂と笑いあった。これだよ、これを求めてたんだよ、この瞬間を…!!
「次に、新聞コンクール。1年優秀賞…3組。」
おおぉ、とざわめく。
「2年優秀賞…2組。」
ほぉ、2組か…。意外だな。
「3年優秀賞…3組。」
そして、会場のボルテージが上がる。2年4組総ナメを期待する視線、それを阻止しようと願う人達。ついに、発表される。
「では、最優秀賞…2年4組!」
よぁああし!!ふぉおおおおおおお!!きゃぁぁぁ!!様々な歓声が入り乱れ、表現できないような喜びに包まれた。
「良かったね、田沢湖。」
魅穂がささやいてくる。
「あぁ。…最高だ。」
喜びに浸りながら、3枚の賞状を受け取る。拍手を受ける。僕はその時どんな顔をしていたかはわからない。ただ、4組全員で1つの思いを分かち合えたのは確かだ。…最高だ。




