盾
次の日。島護は学校に来なかった。練習に行くと、由斗が深刻そうな顔でいた。
「無断欠席したから担任が電話かけたら部活嫌だから休みたいらしいって親が答えたんだとよ。おかげで昨日何があったんだってしつこく質問されて面倒でよ…。」
「逃げたか。」
「え?」
「逃げたも同然だろ。1年達はちゃんと、悪い事してるから悪いって言っただけだろ。しかも、正論言ってる相手に暴力をふるう。言葉で責められるのが嫌になったから逃げた。そういうことだろどうせ。」
「お前さ、女子の世話面倒じゃねぇの?」
「え?」
いきなり何を聞いてくるんだという顔で田沢湖が聞き返す。
「言いたいこと言いまくって人のこと考えねぇで行動して。いちいちウザイし。」
「いや、別に?素直でいい子達だと思うが…。」
「まぁ、いいや。」
その時、今日太郎が駆け込んでくる。
「やれやれ面倒臭い事になりやがった…。」
「島護の件だろ?」
「まぁそうだが、そろそろ先生が来て全員でミーティングだと。多分、色々聞かれると思うから覚悟した方いいぞ。」
そういえば、と田沢湖が言う。
「見夜、大丈夫かな…。」
「島護にホウキ投げつけられてか?」
「あぁ。精神的にやられてなきゃいいけど…。」
「無駄に精神面強そうだがな。」
「由斗…んな事言うなよ…。見夜もさ、女子なんだから。少なくとも僕達みたいな男子よりは複雑だと思うぞ。」「まぁ、そうか…。」
(なんか、こんな馬鹿みたいな会話してると前日は普通の日だった気がするな…。)
こんな会話を繰り返している時、1年生が全員一緒に入ってきた。見夜も来てくれた。
「島護さん、いないんですね。」
「あぁ、逃げた。」
「ちゃんと、言いたいことあるんだったら口で言ってもらいたかったです。」
「実は、昨日の夜寝れなかったんだ。島護が部活荒らして逃げてって、一体どうなっちまうのかな、て考えてて。でも、何がどうなろうと1つだけ確かなことがあった。」
少し言葉を区切り、この先の言葉を考えるような仕草をする田沢湖。慎重に、言葉を続ける。
「島護が戻ってくるまで、僕が代理キャプテンだ。だから、僕が荒れきったこの部を立て直す。このままじゃ、居心地悪いでしょ?少しだけ、僕に協力して。」
「1つ、聞きたいんです。」
夢々子が聞いてくる。
「田沢湖さんは、島護さんが戻ってくると思ってるんですか?」
田沢湖は即答する。
「うん。どんな形かは知らないけどね。ただ、心は歪んだままで戻ってくる可能性もある。また、ひどい振る舞いをするかもしれない。その時は…」
「その時は?」
「その時は、どうするんですか?」
「僕が、皆の盾になるだけだよ。少しでも、島護の害が皆に及ぶのを防ぐためにね。」
田沢湖は、覚悟を決めた顔でいた。1年生たちも、田沢湖を信じて、じっと話を聞いていた。