入学式前の朝
入学式に間に合うように、余裕のある時間に起きて布団を畳み身仕度を済ませ、幼なじみの部屋の前まで来て障子が破れないよう軽くノックする。
「鈴良、準備出来たか?」
『うん。開けていいよー』
「おう。入るぞ」
襖障子の扉を開け、中を見る。
物が片付いていて、相変わらずの小綺麗な部屋だ。
そこらに熊やら人鳥のぬいぐるみがあるくらいが女の子らしいって感じかな。
「似合ってるじゃん」
姿見の前で胸元のリボンの形を調整している鈴良を一瞥してから感想を述べる。
ブレザーの制服で、学校指定のプリーツスカートがひらひらして女の子らしさを醸し出している。
腰辺りの後側にも細い紐で大きくリボンがあり、印象的だ。
何より、肩に着くか着かないかくらいのショートカットの前髪を髪留めで留めているのがいい。顔がばっちり見えるしかわいさが増して見える。
うんうん。女の子はこうでないと。いつもの巫女装束だと、見映えがな。かわいいのだけども。
「んじゃ、行くぞ。巫女さん」
「うん──て、確かに巫女さんだけど、今は普通の女の子だよぉ!」
そんなやり取りをしてからお茶の間に移動すると、先客が居た。自称神様のコトハだ。
その堂々とした佇まいにむしゃむしゃと頬張る食べっぷり。……うん。何度見ても子供だ。
「んぐんぐ──んくっ。今失礼なこと考えんかったか?おぬし」
「さて、ぼくも食べるか」
コトハの正面という定位置に胡座をかいて座る。
「無視をするなー!」
「はいはい。コトハ様、食事はみんな一緒にって何度言ったら気が済むのです?」
「そんなの当に聞き飽きたわ。それより小僧、儂を無視するなと何度も言っておるじゃろっ」
「いただきます。へ?なんか言った?お、この出汁巻き卵、いい味出してるじゃないか。やっぱり日本人は和食だな」
「……ぐぬぬ」
コトハが歯を噛み締め目頭に皺を作る。
なぜかは知らないが、女の子がなんて形相をするのか。まぁ、自称100歳過ぎた神様だしな。女の子ではないかも知れない。
「コトハ様、ご飯のお代わりはいかがですか?」
「(──バキッ)うむ。貰おうか」
「お箸も代えて来ますね」
茶碗を差し出すコトハの逆の手には箸一膳が真っ二つに割れていた。
「あんまり日用品とか無駄にするなよな。この前も皿一枚割ったばかりだろう」
「……それもこれも、おぬしの心無い行動によるものだろうが」
コトハの乱暴な物の扱いを指摘をしたら、思わぬ返答を投げられた。
ぼくの行動が心無い?まさか。全部知った上の行動だって。むしろ愛による心遣いだな。ただしそこに正義はないかもね。
「そう思うのはコトハの心が汚れているからだな」
「儂の心が汚れているじゃと!?よくもそんな戯言を……っ」
「だってそうじゃないか。神様なのに、人のことが信じられないだなんて。それこそ心無い行動だよな。酷な話だぜ」
「……くっ。いいじゃろう。心清き儂じゃ、今回は赦してやる。じゃが、二度はないぞ……小僧」
「おうよ」
白い炊きたてのご飯に味噌汁、秋刀魚の焼き魚に出汁巻き卵。これぞ日本の朝だな。
良きかな、良きかな。
「はい、コトハ様」
「うむ。御苦労」
「じゃ、わたしも。いただきます」
鈴良も食べ始め、いつもの朝食だ。
ひとつ違うとすれば、ぼくも鈴良も制服だってことだな。
新しい学校での生活はどうなることやら。
ちょっとは楽しみにしているぼくだった。
「やはり此奴は反省しているように見えぬ」
「え、なんか言った?」
「なんでもない」
ぼくは気にせず朝食を続けた。