WHITESIDE 1-2
~4月17日、クロースマンション、504号室~
「こいつは・・・」
「最悪ですね。」
僕らは、現場を見た途端唖然した。
現場には、火薬の匂いと、血生臭い匂いがしていた。
玄関のほうには、銃痕が幾つも開いている死体と、穴の開いた玄関の扉があった。
どうやら、扉越しに撃たれ、弾丸が貫通したようだ。
しかし、鉄の扉をも貫く銃がどこにあるのかそこが気になるが鬼島たちはリビングに向け歩みを進めた。
リビングは玄関よりも酷かった。何体もの死体が部屋の床に転がっていた。壁には血が大量に付着し、
ある死体は、腹を刃物で突かれたあと、内臓を抉り出されていた。
又ある死体は、斜めに切り裂かれた椅子の足に心臓を一突きされ、何かに切られたのか下半身がない、多分それは、この死体の山から見つかるとは思うが。
「ん?おぉ、やっと来たか、秋山こっち来てくれないか?」
「ったく、なんだよ」秋山さんは、氷川さんに呼ばれ、歩いて行った。
「なぁ、秋山、この死体、違和感を感じないか?」
氷川が死体の山を指さした。
「これは・・・もしかして全部の死体の首から上がないのかよ。」
「あぁ、そうだ。鑑識や、他のやつからも聞いたが、全部無い。」
「畜生!!これじゃぁ、HMCに掛けれないじゃねえか!!」
「HMC」とは、「HUMAN,MEMORY,CHECK」の略称で、被害者の見た死ぬ寸前の光景を再生するものであり、どんな難解な殺人事件ででも犯人を割り出すことが可能なのだ。しかし、これには欠点があり、
被害者の脳が必要で、しかも、脳全体の約65%以上が無事でないと不可能なのだ。
「こいつは長期戦になるかもな・・・」氷川は、唸っていた
「あの、氷川さん」
「ん?どうした?亀島」
「えっと、その、鬼島君が・・・」
「鬼島がどうかし、うぉい!!鬼島お前何やってんだ!!」
「えっ?何って現場の物に触っているだけですけど」
「手袋つけろ!!手袋!!」
僕は、自分の手元を見ると、素手で死体に触れようとしていた。
「おっと、ついうっかり」
僕は、ポケットから白の手袋を取り出し両手にはめた。
「ねぇ、氷川さん、」
「なんだ?鬼島」
「この場所に気になることが二つあります。」
『気になること?あぁ、害者全員の首が無いことか、それなら・・・』
「いえ、そこはわかっています。気になるのは、机の上の血痕が途切れていますよね。」
「あぁ、そうだな。」
鬼島が指さした机の上には、長方形の形に途切れてる血痕があった。
「ここに、何か、そうファイルのような物があったことがわかるんですよ。」
「まぁ、そうだな。しかし、犯人はそんな物持って行ってどうしたいんだろうな?」
「何か、必要な情報があったのかもしれませんね。」
「で、もう一つの気になることってなんだ?」
「えぇ、何故、首が無いということですね」
「そんなの、HMCに掛けさせないためじゃないのか?」
「それなら、頭を持っていた銃で打ち抜くか、切り裂くくらいのことはすると思いますよ」
「ん~、どうしたものかな~こいつは~」
鬼島たちは、一時、本庁に戻り、情報を整理して、出直すことにした。
本部に戻る途中、鬼島の脳裏には、ある光景が映し出された。
高校生最後の夏休みに起きたあの事件、あれはとても酷かった。
思いだすだけで、吐き気がする。ダメだ、ダメだ、あのことは忘れるって決めたろ。あぁ、畜生、なんで思い出しちまうんだよ!!
「おい、鬼島、顔色悪いぞ、どこか痛いのか?」
秋山が訊く
「いえ、問題ありません」
「そうか、無理はするなよ、今日は酷いものを見たんだ。仕方ねぇよ今日は早めに帰ったらどうだ?」
「えぇ、そうですねそうさせてもらいます」
そんな話をしているうちに、本庁についた。
「今回の事件の被害者は全員、花田組の組員だということがわかりました」
亀島が淡々と説明した。
「死体のすべての首が切り落とされ、どこかに運ばれたというのがわかりました。一階に住んでいる。野々村信から、事件の起きた午前9時ごろ、エレベーターから、不審な男が、段ボールを運んでいたと言う証言を聞きました。」
「っていうことは、仏さんたちは、8:30までは生きていた。ということだな。」
犬塚が訊く
「えぇ、すべての死体の死亡推定時刻は、8:40から、8:50の間だということから、8:30分には生きていたということは確実です。ただ・・・」
「ただ、なんですか?亀島さん」
「いやね、防犯カメラの映像も見てみたんだけど、8:30頃に、入口から不審人物が侵入した形跡がないんだよ」
「おい、亀島、そいつは何か?犯人は実は幽霊で、帰りの時だけ、誰かにとりついたって言いたいのかよ?」浦嶌が割って入った。
「そうじゃないんだよ。試しに現場付近を調べてみたけど、脚跡らしきものは現場の入り口前と、現場から、入口に向かうルート以外になかったんだよ」
「厄介な事件ですね。でも、犯人が侵入した方法ならあると思いますよ」
「おい、翔、なら、どうやって犯人は中に侵入したって言うんだよ。」
「簡単ですよ。亀島さん、現場の玄関から、垂直に5階から、屋上までの4階部分の柵を調べて見てください」
「えっ?でもどうしてそんなことをするんだい?まぁ、鑑識のほうに頼んでくるよ」
そう言うと、亀島はいそいそと部屋を出た。
「しかし、なんで、垂直に屋上まで調べる必要があるんだ?」
「あぁ、それは・・・」
「そんなのは簡単よ、秋山。鬼島君、君は柵にきっと、ひっかき傷があると思ってるんでしょ。」
僕が説明する前に、織姫が説明してくれた。
「な~るほど、柵にロープを結んだアンカーを掛けて、そこから、4階まで降りるってすんぽうか、それなら、階段に4階への独立した足跡が、残らないってことか」
「えぇ、そうよ」
織姫の説明が終わるとほぼ同時に、氷川の机の固定電話が鳴った。
氷川は受話器を取ると、右耳に当てた。
「はい、こちら、捜査1課警部の樋川だ。・・・何!わかった、すぐ応援に向かう」
氷川は電話を切ると、椅子に掛けてある黒いコートに袖を通した。
「どうかしたんですか氷川さん?そんなに、焦って」
鬼島が尋ねた。
「どうしたもこうしたもねぇ!JTVがジャックされた!急いで俺たちも向かうぞ!」
「わっ、わかりました」
僕たちが部屋を出ようとしたと、同時に、亀島が帰ってきた。
「あの~、鑑識のほうから連絡だけど・・・」
「亀島さん、今はそれどころじゃありません、事件ですよ。さあさあ、急いだ。急いだ。」
鬼島が、亀島の右肩を握り、ドアの方を向かせると、両手を背中に当て、押した。
「えっ、あっ、ちょっ、おっ押さないで自分で歩けるから~」