プロローグ
新作です。続くかどうかは分かりません。皆さんが読んでくれたら続くと思います。
よければ誤字脱字の指摘などしてもらえると幸いです。
修正しました
「くそっ。どうなっていやがんだ!」
俺こと陶山明はそう怒鳴った。
というのも今、俺は草原のど真ん中で、澄み切った青空の下武器を持って甲冑を身につけ、血生臭く、戦っていたからだ。しかもその相手は怪物ではない。
「おらおらおらおら! 村人なめんなよ!」
そう言ったのは昨日まで、ただ村の入り口で樽に、腰掛けながら村の名前しか喋らなかった村人Aだった。彼は無精髭を生やし、麻の布で出来た簡素な服を着て、村の特産の葡萄酒ばかりを飲んでいたはずだったのに今は鍬を持って乱暴に振りまわしていた。
「くっ」
もう何人もの村人を斬ってきた俺はさすがに疲れていたので、その村人が繰り出す力ある一撃に対し、苦戦していた。
鍬と剣、鉄のこすれあう音が草原に響く。見れば他の仲間もいきなり変貌した村人たちに、俺と同じように苦戦しているようだった。
「行け 術魔法伍式 死神の鎌!」
俺は直感でその魔術士の一撃を受けたら跡形も泣く自分が消滅することを理解し叫んだ。
「皆よけろ!」
それから、俺はつばぜり合いをしていた鍬を力いっぱい弾き飛ばし、なりふりかまわず、さっと横に転がった。
そしてそれと同時に魔術士の手にしている杖も、振り下ろされた。
その一筋の風の鎌は、草原を一直線に高速で進み、草や土を巻き上げながら、ちょうど俺が先ほどまでいたところを過ぎた。それから盛大な爆発と閃光が後方で生じ、俺が起き上がると、さっきまで俺がいたところは根こそぎなくなっていた。
「くそっ。はずしたか……」
「はずしたか、じゃねぇよ! お前自分の仲間巻き込んでんだぞ!」
というのも先ほども陽気な村人Aの姿は跡形も無くなっていたからだ。
「くっ。下賎な民が私たち高貴な魔術師たちと同列なはずがないだろう。まぁ、死ぬべくして死んだそれだけだ。」
魔術師はそう言って戦っている村人達を見下していた。そしてもちろんそれを聞いて、意思がある村人たちは黙っていなかった。
村人の一人が俺の仲間を鍬で殴り飛ばして、下卑た笑みを浮かべる魔術師の方に向きかえった。
「おい、俺たちのことを下賎だと?お前がそこまでの魔術師になるには、俺たちが宿に泊めてやったり、飯を分け与えてやったりしたからだろうが!
「そんなことは当の昔に忘れたな」
「何だと!? お前、もういっぺん言ってみろ!」
そう言ってその村人は突然魔術師に向かって鋤をもって突撃した。
「全く低脳な村人だ。同じことしか喋らない人間の分際で、この私には向かうとはな。おまえはもはや存在価値はない。消えろ」
そう言ってその魔術師は何かを高速で詠唱したかと思うと、杖を振り上げ、その村人に向けた。
その瞬間、村人の体は一本の鋭い氷塊によって貫かれ、そいつは体を句の字に折り曲げて吹きとんだか、と思うと、草生い茂る地面にどしゃと言う音ともに落ちた。
その音が動き出せないでいたほかの村人の合図となった。
『皆、あいつを殺せ!』
『タケシとマサルのとむらい合戦だ!』
そう叫んだかとおもうと、俺たちと戦っていた多くの村人は全員持っていた武器を空高くに上げて、くるりと向きを変えたかと思うと魔術師に向かって草むらを疾走し始めた。
もちろん俺達はそのときを見逃さなかった。
「今だ!お前ら、逃げるぞ」
「「「おおっ!!」」」
そうして俺は相手に背を向け、全力でもと来た道を引き返し始めた。
後方から魔術師の俺たちを呼び止める声が聞こえたがそれもすぐに村人たちの怒声にかき消された。
…………とまぁちょっと、これではいきなりすぎたかもしれない。だから、ここらで少し自己紹介を含めて説明をさせてもらおう
まず俺は都内の高校に通う一年生で部活には入っていない。いわゆる帰宅部というやつだ。自分で言うのもなんだが、中肉中背で別に女の子にモテまくりって程のイケメンでもないし、かといって見るからにこいつネトゲ厨だな、って外見をしているわけでもない。そしてもちろん友達もいない俺にとって心の慰みは、ここ最近(といっても、半年くらい前)に買ったばかりのVRMMO『モンスター・キングダム』であった。モンスターキングダムは、ユーザーが400万人ほどいると噂されている大人気のゲームで、日本の高校生のほとんどが熱心にこれをプレイしていた。
かく言う俺も一年以上前に高校入学のお祝いということで発売日にゲームショップに朝から並んで親に買ってもらったゲームで、(というのも結構このゲームは、クオリティが高い分、値段もかなり高いのだ)今日まで、俺は学校が終わると、すぐに家に帰ってきて飯の時間まで何時間もこれをプレイし続けるのだ。
ところで、このゲームは、かなり特殊で、ゲームを買ったときについてくるパソコンに接続するコントローラーで装備した武器を使ってモンスターを狩るのである。しかもそのコントローラーの面白いところは、ボタンは攻撃をかわすためのものがあるだけで、それ自身は振ると武器を振ることになるので戦いは自分でやらなくちゃいけないと言うところだ。他にもこれを作った会社の特徴なのかゲーム内には、『永続終了ボタン』というものがあった。これは普通に終了するものでは無く、字の通り、『永続に』ゲームを『終了』するもので、前に一度このゲームではない他のゲームをやったことがある俺が試しに永続終了ボタンを押して、それから二度と起動することは無かったということを知っている。
またゲーム内には多くの村があってそこで宿に止まってセーブをしたり、モンスターからはぎ倒れたもので武器を作ったりと、なかなかテンプレなゲームなのだが、剣を使って相手を狩る以外にも先ほどいた魔術師を選択することができて、
モンスターは皆かなり手ごわく、1匹1匹狩るのにもかなりの時間を要する。だから今まで多くのゲームをプレイしてきた俺でもこれはかなりクリアするのに時間を要していた。
……と、説明はこれくらいにして、その日俺は学校の終業式を終え、長い長い休みをモンキン(モンスターキングダムの略称)に使おうと、うきうきしながら家に変えてきてパソコンに電源を入れ起動したときのことだった。
突然スタート画面が真っ黒になり、俺が焦ってパソコンを叩くとせかされた様にパソコンはモンキン最強のモンスターであるゼミルレブラが猛々しく描かれている元のモンキンスタート画面に戻り、安心したのもつかの間だった。
俺がスタートボタンを押し、ログインすると、いつも一緒にモンスターを狩るパーティーの仲間達とともに宿で寝ていたはずなのに先ほどの草原に飛ばされていた、というわけだ。
そして話は今に戻る。
その草原は俺たちが、いた村から本当に近かったので、何分か走っているとその村にたどり着いた。
でももうその村はそれまでのゲームの村とは違って人は誰もいなかった。
俺たちに村の名前を言い続けてくれた村人Aも、商店で俺たちにアイテムを売ってくれたおばちゃんも、全員だ。
「全く。どうなっているんだよ。なんで村人に意思がある、というより俺達はあいつらと戦ってんだよ!」
そう言って俺は村の看板を蹴り飛ばした。その看板は木で、出来ていたとはいえ、もう腐っていたので俺が蹴るとすぐにボキッ、と根元から折れて地面に落ちた。
「何やってんだよ。全く。壊れちゃったじゃないか。」
そういって俺の仲間が直そうとしたので、それまで壁にもたれ、目を閉じて、粛々とした様子で、黙っていた別の一人の仲間が、
「やめとけ。もうこの村は廃村だ。だって村人は全員消えたからな」
突然俺たちの会話をさえぎるように大声でそう言って、突然俺たちの元に近づいてきた。そうして地面に落ちていた看板を甲冑で包み込まれた丸太のように太い足で踏みにじって、粉々にした。
「お前! 何してやがる!村人が消えたとも限らないだろう!」
俺はそれを見た瞬間、そう激昂してそいつの胸元を掴んだ。
「あんた何言ってやがる! そういうあんたが一番分かってんだろ! あの魔術師の強さを」
そう言われて俺は言葉を詰まらせた。
俺はあの魔術師の強さを肌で感じていた。確かに村人が何人がかりで挑んだとしてもあれには勝てない。
そうして俺が黙りこんでいると、その男は胸襟を掴んでいた俺の手を払うと、服装を正すこともせず、錯乱した様子で、
「もう俺はやっていられない。こんなゲーム辞めてやる!」
そう言ってその男は目の前に現れた画面を操作すると、ゲーム終了のボタンの下にあるゲーム永続終了のボタンを何のためらいもなく押し、その場から消えた。
「何なんだよ!あいつは。……そういえば他の奴はどうなんだ?」
俺がそう言ってさっと、他の仲間の方を見るとほとんどの奴らがボロボロの体を回復することも無く、ただ俺にすいません。リーダー、とだけ言ってゲーム永続終了のボタンを押した。
俺は泣き崩れた。ゲーム内においても指折りに入るレベルの俺が地面に顔をこすり付けて泣いた。
「くそっ、くそっ! 何で皆でモンスターを勝って大喜びしたときのことを忘れたのかよっ!」
もともと俺はよそ者のソロプレーヤーだったのだが、たまたまある村を通りかかったとき、モンスターを倒せなくて困っているあいつらを見て、俺が助けたのが最初の出会いだった。
俺たちはそのモンスターを倒した後、意気投合し、パーティに入れてもらうどころかリーダーにまで押し上げてもらい、そこからはずっと今日まで一緒に寝食をともにしてきたのだった。
「俺はどうすればいいんだよ……」
「王宮へ向かいましょう」
突然泣き崩れる俺に対してどこからかそんな声がした。
俺は条件反射でそちらを見た。
「リーダー、皆消えた、とは思わないでください」
「そうですよ! リーダー」
そう言ってくれたのは俺に手を差し伸べる2人の少女だった。