落とし穴のような世界
目を開けるとRPGの魔法使いが着るような白衣ローブに
シンプルで何も飾り気のない杖を持った老人が目の前に立っていた。
髪は白髪で腰まで伸びており、あごひげも長く垂れている。
背は私よりも高いようで老人の顔を見ようとすると
自然と顔が上向きになる。優しい雰囲気の老人。
「ようこそ、異世界の住民が多く訪れるフリストへ。」
異世界の住民が多く訪れるフリスト?
どういうことなのだろうか。まさか私の様な強制的に転生させられた被害者が多く訪れる世界なのだろうか?
それとも、異世界との交流が盛んな世界なのだろうか?
「まぁ、異世界から多くの者が訪れるとはいっても、
数年に一人で、この世界へ来るのは簡単じゃが
外の世界へと出るのは難しい。所謂一方通行というやつじゃの。」
外の世界へ出るのは難しいという事は元の世界へ戻ることは難しいけど
戻れる可能性は0ではないということだろうか?
「ワシの名前はリース。異世界から訪れる者たちの世話をしておる。
ある異世界から訪れた者からはチュートリアル役と呼ばれた事もあったのぅ。」
異世界から来る人達の世話係で、チュートリアル役?
つまりこの人からこの世界について様々な事を教えてもらえるということか。起きたときから胸が締め付けられるように痛いのは何故だろうか。
「まず、お主の元居た世界を知らぬワシにはお主を元の世界へ戻すことは出来ぬし、
別に誰かが目的があってお主を召喚したわけではない。
理不尽かも知れんが、お主は偶然この世界へ落っこちて来たのじゃ。」
「落っこちて?」
「来るのは簡単で出るのは難しい世界。まるで落とし穴のようじゃろ?
事実何かに穴に落っこちてこの世界へ訪れる者も多々おった。」
なるほど。穴に落っこちるのは一瞬でその穴から脱出するのは難しい。
確かに的を射た説明かも知れない。
「次に恐らく世界を渡った影響で自分の姿形が変わっている者が多い。
今まで碌に動けず寝たきりであった老婆が精魂逞しい屈強な大男になったり、
逆にそんな大男がせいぜい8歳ぐらいの愛らしい女児になったりと。
じゃからもし、自分の姿が変わっているのであればその新しい姿に
慣れることが一番最初にすることじゃの。」
姿形が変わることが多い、か。
私の場合は穴に落っこちてこの世界へやってきたのではなく、
とある碌でもない神様とその部下である苦労の絶えることがなさそうな
天使によってこの世界へ『転生』させられたわけだから
元の自分と違っているのは当たり前なのだが。
改めて自分の姿をじっくりと見る。
手は家事で荒れてきれいとは言えない以前の私とは違い、
傷一つなく綺麗な肌。次に胸元を見てみるとそこに山があった。
下着のサイズが合っていなければ当然胸が締め付けられるように痛いわけだ。私は背中に手を回し下着のホックを外す。
すると先ほどより山が少し大きくなった。
胸が大きいと足下が見えないと胸に恵まれた友人が言っていたが、
なるほどこうも大きいと足下が本当に見えない。
以前の私だと足下なんて普通に見えたし、胸なんてないに等しかった。
自分の胸の変わりように驚くが、もう少し小さい方が良かった。
身長、体重ははからないことにはわからない。
ふと後ろを見てみるときつね色のしっぽがお尻から生えていた。
触ってみると柔らかく、同時に自分の体の一部であることが感じられた。
まさかと思って頭に手をやるとそこに毛の生えた耳があった。
ということは・・・当然、人間であれば耳があるところには何もなかった。
「さて、お主の今後の事じゃが
手に職を持ちたいと言うのであれば希望に合わせて職を紹介しよう。
未知の世界を冒険したいというのであれば冒険者となる手助けを。
じっくり考えるがいいじゃろう。お主の将来じゃしのぅ。」
この世界にどんな職業があるのか気になるが、
冒険者か。ゲームや物語に出てくるような職業なのだろうか?
身の危険のないであろう職業について悠々自適に暮らすか、
命の危険にさらされるかもしれない冒険者になって
このフリストを冒険するのがいいか、二つに一つか。
さすがにずっとここにおいてもらえるというわけではないだろう。
それなら・・・好奇心のままに冒険が出来る冒険者になろう。
異世界トリップで持ち前のチートを使って最強物を楽しみたかった
あの駄神の思惑にまんまとはまったような気がして癪だが、
天使にもらったチートはそういうものではない。
だから、あの神の思惑通りに進むのではないと信じて
「私、冒険者になります。」
嘘予告
「生まれ代わって前世と違いまさにナイスバディな体を得た真智子。」
「余計なお世話。」
「真智子は小さい頃夢見たあの職を目指す!」
「ま、まさか・・・」
「次回、キャラクターチェンジ第二話
私、アイドルになります!
アイドルを目指す真智子が待ち受ける数々の試練とは?!」
「私にも普通の夢見る少女だった頃があったんです・・・」
久々に筆をまともにとりました。
とはいっても正確にはキーボードを叩きましたというべきでしょうか。
出来る限り、出来る範囲内で頑張っていきたいと思います。
以前の連載も余裕があればブログの方で頑張ろうかな・・・と思ってます。