第5話 心の隙間
人を好きになる事がこんなにも辛く苦しい事だとは思ってもみなかった。
人を好きになった事がないわけではない。
それなりに恋愛もしてきたはずだった…。
苦しく辛い時、優しいものに心が動く。
私は慎太郎への思いや悩みを例の店で仲良くなった
涼によくしていた。
涼は私より5つ年上でその店のオーナーだった。
面白く優しい涼は夜中にでも泣いて電話をかける私を
いつも励ましてくれていた。
慎太郎に出会って1年が過ぎた頃
私は慎太郎とよりも頻繁に涼と会うようになっていた。
この人は私を自由にしてくれる。
いつも私より一歩先を歩き私を引っ張ってくれた。
その頃から自然に二人の間で慎太郎の話が出る事はなくなっていた。
涼はいろんな所に私を誘い連れて行ってくれた。
慎太郎の気まぐれに振り回される私がなんとか
バランスが保てていたのも涼のおかげだ。
そんな時、由美が私にこんな事を言った。
「念のため言っておくけど
涼さんはダメだよ!」
「なんで?」
「あの人、頼まれれば誰とでもヤルらしいよ。」
「…。」
私は由美の言葉が信じられなかった。
涼と私にはそんな関係は一度なかった。
しかし、私たちの関係は一気にみんなに広がり
いつの間にか慎太郎の耳にも入っていた。
慎太郎が言わない限り私は言う気はなかった。
自由気ままに行きたい時に行きたい所に行く人。
そんな彼に私は正直疲れていた。
好きなだけでなく意地だけだとさえ思った。
そんな涼との関係が2ヶ月を過ぎた時
私の携帯がなった。
慎太郎からだった。
「はい?」
「おう!」
「どうしたの急に」
「…」
「時間あったからさぁ〜」
「うん」
「おまえ、涼さんと仲イイらしいな?」
「うん、」
正直に認める私。
「涼さんはイイ人やで。」
「うん。」
「実は俺あの店やめるねん。」
「えっ!!そーなんだ。」
「うん。
だから、おまえの涼さんには会うな。」
「…」
{だから}という意味では全然繋がらないのに
強引にこじつける。
私の中の薄れかけていた彼への思いが一気に甦る。
「うん。わかった。
慎くんが言うならそうする。」
「よし。」
たった5分の電話で私の傾きかけた気持ちは元に戻った。
やっぱり私に魔法をかけられるのは彼しかいない。