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七夏 ハイスペックなシンデレラ



 翌朝、私は近所のラジオ体操に全力で参加した。

 夏といえばラジオ体操でしょ!


 あーたーらしい朝が来た――

 そーれ、いちっ、にっ、さんっ!


 え? ラジオ体操は小学生のイベントだって?

 莫迦を言わないように。

 ラジオ体操とは、老若男女問わず身体にイイことの代名詞でしょ。

 アレ、全力でやると本気ですっきりするからね。って言っても、私は夏しかやらないけど。だって、ラジオ体操は夏にやってこそ、でしょ? 他の季節にやっても面白くないもの。


 とにかくそんな感じで朝から夏のイベントを満喫した私は汗だくになった。汗だくだけどすっきりした気持ちで家に帰り、直ぐにシャワーを浴びた。しっかり汗を掻いた後のシャワーは最高の瞬間であった。うむ。 

 もちろんヤツとの“お風呂でバッタリ★”イベントなんてありませんでしたとも。

 しっかり『使用中!』という殴り書きの紙を扉に貼り付けておいたので。そういうところは抜かりないのが私だ。

 うっかりシースルー事件どころか、はらりバスタオル事件が起きたなんてことになったら、本気で笑えないしね。

 …………。


 あれ? ところでアシュールって、字は読めるの? 読めなかったら意味なくない!?

 うわあ、今さら気づいても遅いけど、今度ちゃんと確認しなくちゃ!


 昨日“嫌いだ”ということを再確認した(くだん)のアシュールは、私が全力ラジオ体操をしている間、お母さんの朝食の準備を手伝っていたらしい。

 買い物の次は料理。娘の私でさえ実家ではやらないっていうのに。

 あの人、本当にシンデレラなんじゃないの? うちに暖炉はないぞ。


 午前7時過ぎ、私は受験のために遅くまで勉強していたらしい弟を叩き起こし(比喩じゃない)、食卓についた。

 孝太め、7時になっても起きて来ないなんて、夏休みだからって気が緩みすぎじゃない?

 受験勉強のときこそ規則正しい生活がものを言う……と私は思う。

 私が大学受験のときにはきっかり午前0時には就寝し、6時に起きるという生活をしていた。規則正しい生活って、頭の起動が早くなる気がする。集中して勉強するには、朝から晩までびっちりより、きちんと休憩をとって分割してやった方が効率もあがるし。

 まあでもその辺は人それぞれのスタンスがあるから、孝太に対してもあまり口出ししようとは思わないけどね。

 ああ、孝太の所為で脱線しまくった。それより御飯、御飯!


 食卓につくと、白い御飯とお味噌汁、焼き魚など……という完全なる和食が綺麗に並べられていた。

 心躍る朝食だ。いいよね、和食。

 全力ラジオ体操で一汗掻いた私はお腹もぺこぺこで、合掌すると早々に食べ始めた。


「――美味し!」


 アジの塩焼きを突きつつ、至福の時間を過ごす。

 実家って、黙ってても御飯が出てくるからいいよね!

 どうしても自炊をさぼってしまう一人暮らしを一年半も続けると、本当に実家の有り難味がわかる。お母さんって偉大だ。般若や阿修羅や仁王の顔を見せても。……うん、偉大だ。

 美味しい御飯を作ってくれるお母さんに心の中で感謝しながら、インゲンとゴマの和え物に箸を伸ばす。


 ……ん?


 ……何だか視線を感じるんだけど。


 和え物を掴む前にちらりと視線を上げると、そこにはこちらをじーっと見つめるアシュールがいた。


 何ガン飛ばしてんだこんにゃろめ。


 あ、違った。


 何をご覧になっているのかしら、シンデレラ?


 昨日の一件をいまだに根に持っている私が満面の()笑いでにっこり笑ってやると、目が合ったはずのアシュールは何も言わずにフィッと視線を逸らした。


 ちょいと?

 それはあれかい? 昨日の再現かい?

 次は片頬笑いでも披露してくれるって?

 ついでに笑顔で手も振ってくれちゃったり?


 嬉しくないからやめてよね!


 嘘の笑顔さえ引き攣らせる私を余所に、アシュールはまた淡々と自分の食事に戻っていった。

 ホント、何なの?

 …………。

 まさか、今度は和え物にゴマの変わりにからしが投入されているとかじゃないよね!?

 私は慌てて周りを見渡した。

 よし。

 孝太はまだ寝惚けてるし、入れ知恵は無理だな。


「六花、何してるの? また変な事考えているんじゃぁ――」


 和え物に箸を伸ばしたまま少しばかり挙動不審な動きをした私を、怪訝に思ったらしいお母さんが窘めるような声で言って来る。

 いや、私いまは何も悪いことしていませんけど。

 濡れ衣、よくない。

 唇を尖らせる私を余所に、お母さんは何かに気づいたように言った。


「ああ、それ。今日の和え物は、アッシュくんが作ったのよ~。本当、アッシュくんは呑み込みが早くて――」


 なるほど。

 これ、アシュールが作ったんだ。

 どうりで穴が開くほどこっちを見てくるわけだよ。

 自分の作ったものの反応を気にするなんて、アシュールも案外可愛いところがあるじゃないか。

 ちょっと上から目線でそんなことを思いながら、お母さんのアシュールべた褒め徒然話(つれづればなし)をスルーしつつ、和え物を口に運んだ。


 うん、中々美味しい。


 簡単な料理だからそうそう失敗もしないだろうけど、どうもお母さんが話し続けている内容をちょっとだけ拾うと、アシュールは料理自体が初めて、らしい。それにしては上出来だ。

 いいところは素直に褒めるのが私(嘘っぽいとか言わないで)。ということで。


「美味しいじゃん」


 アシュールを見て言えば、何となくホッとしたような、照れたような反応が帰って来た。

 あれだね、こんな綺麗な人に、こんなこと思っちゃいけないんだろうけど。


 ……ちょっと気持ち悪い。


 いやいや、私の心の眼がそう見せているだけだとは思うよ? 一般的には萌える反応なんじゃないかな。相変わらず日焼け知らずで肌は白く肌理細かいし、銀河の瞳は吸い込まれそうな深い色だし。これだけ見目麗しい男が照れてたら、歓喜の悲鳴の一つも上がるだろうと思う。

 ……でもなあ。

 私からすると、昨日の性格悪そうな片頬笑いが頭から離れなくて、今さら照れとか見せられても、みたいな。


 どう反応すべきか私が悩んでいる間にも、アシュールは照れを誤魔化すようにアジの塩焼きに箸をつけている。


 あれ? そういえば、アシュールって箸も使えるの?


 不思議に思って聞いてみたら、何故かお母さんが答えてくれた。

 曰く、初日に教えて、翌日にはマスターした、と。


 ……。


 コイツどんだけハイスペック。


 箸使うのって、そんな一朝一夕で出来ることじゃないよね? それをやってのけちゃうって……。

 買い物だって、慣れない世界の道を直ぐに覚えたわけでしょう?

 もう何か、呆れるしかないというか。生まれ持った才ってやつですかね。はん。

 何事もああでもないこうでもないと試行錯誤しなくちゃ出来ない私はちょっぴりやさぐれた気持ちになった。







六花以上にちょー空気ですが、お父さんも食卓に居ます。

一人黙々と御飯を食べています。父ペース。



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