表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/57

六花 騙されるな、私!



「六花、またあなたがアッシュに悪戯したんでしょう!」


 急いで家に戻ると、帰って来た私たち二人を交互に見たお母さんが、直ぐに怒り出した。

 それを俯き加減で聞き、ムッとする。

 確かに私が初めに手を出したんだけど、なんかさ、……どうして頭ごなし? アシュールが発端かもしれないとは思わないの? アシュールにも原因があるかもとは、考えないわけ?

 決め付け、よくない。

 まあ、今回は当たってるけど。


「まったく! お遣い頼んだのに、寄り道して買い物もせずに帰って来るなんて! アッシュくんはここに来たばかりだけど、ちゃんと一人でお遣いできるのよ!?」


 それなのにあなたは何!? と一喝される。

 顔が怖いです、お母さん……。般若もかくやだし。

 というか、アシュールはまだこっちの世界に来て一週間だとか言ってたのに、今日が“初めてのお遣い”じゃないんだ? 一人でお遣いできるって、そういうことだよね?

 それって見ようによっては、アシュールが扱き使われてるってこと? 慣れない世界で一人買い物とか……。同情しちゃいそう。

 もしかして、実は掃除や洗濯もさせられてたり? ……何それ、何てシンデレラ?

 そんなことを現実逃避気味に考えている間にも、お母さんはガミガミとお怒りだ。完全にお説教モードに入ってしまっている。その表情たるや。阿修羅もかくや。

 とはいえ私も自分の非は認めているので、初めは黙って聞いていようと思いました。思ったんだけど……。お母さんのお説教は何せ長い。全身びしょびしょだし、出来れば着替えてからにして欲しい……。

 そうだ、ここは私も意地悪な姉役として(アシュールの方が私より年上に見えるけど)、シンデレラを盾にしよう……! そう思った私が、どうにかしてくれ、と縋るように隣に居たアシュールを見ると……。


 ――……フィッ


 …………。


 ちょっと? 何で視線を逸らすのかな、アシュールさんよ?


「こら六花、聞いてるの!?」


 アシュールの驚きの仕種にポカンとしていたら、またお母さんに怒られた。

 シンデレラ使えねぇ!


「あなたはいつもいつも! 都合の悪いことを後回しにしようとするのは駄目と言っているでしょう!? どうせ今だって“お説教は後にしてよ~”とか思ってるんでしょう!? お母さんはお見通しですからね!」


 いえ違います、ウチに来たシンデレラの有用性の無さに驚いていました。……とは流石に言えない。

 もう、勘弁してよ……。とりあえず、軽くシャワー浴びて直ぐに買い物行くからさ! お説教はその後で……。はっ! お母さん、流石です……。

 言った通りの思考を辿ってしまった自分に秘かに心の中で打ちひしがれているとは知らず、お母さんはむしろヒートアップしていっている。何だか声が大きくなったような。


「いくらしばらく家に帰ってなかったとは言え異世界人のアッシュくんよりあなたの方がこの辺りのことにも生活にも慣れているんだから、子供みたいなことしていないでちゃんとお世話をしてあげなきゃいけないの、わかるでしょう!?

 そもそも……――ああ、ごめんなさいね、アッシュくん。あなたは悪くないから、気にしなくていいのよ? 先にお風呂に入って来なさい。直ぐに着替えを持って行ってあげるからね」


 って、ちょっと待った! 何故にアシュールに責任は無いことになっているんだ! むしろアシュールがやり返して来なければ今の惨状は無いんだってば!

 しかも先に解放するとか……! 私の方が女の子で、長時間全身ずぶ濡れじゃ身体に良くないでしょう!?


「おか――」

「むつ?」


 抗議しようとしたのに、それを察したお母さんの鋭い視線と声で捻じ伏せられてしまった。その視線の鋭さといったら。ついに仁王像。

 しかし発言もさせてもらえないって……私、可哀相。

 可哀相な私に救済を!

 私もなんとか解放して欲しい一心で、もう一度アシュールに視線を向ける。アシュールが言えばお母さんも折れてくれるだろう。

 シンデレラ、今度こそ助けろ。

 眼力を込めて見つめたのに、そして目が合ったというのにっ。アシュールは視線を逸らしはしなかったものの、今度は感じの悪い片頬笑いを一瞬浮かべた。ニヤ、ってやつ。


 何その顔。


 明らかに小馬鹿にしたよね!?

 鼻で笑ったよね!!??

 フッとか聞こえた気がした!

 この継子!

 使えないシンデレラめ!

 いやむしろあんたこそシンデレラの姉だよ!

 私こそシンデレラだ!

 王子様は何処!!??

 かぼちゃの馬車持って来い!!!


 ああもう、さっきちょっとヤツを見直した私の純粋な心を返して欲しい。手当てもしてあげようと思った私の優しい気持ちを踏み躙るとは……! 繊細な硝子のハートが砕け散ったよ。嘘じゃない。


 まあ頑張れ。みたいな顔をするとはどういうことだ、このやろう!



 しかも、それからアシュールは未だに私へのお説教を続けているお母さんの脇を通り抜けた後、一度振り返ってにっこり。私に向かい軽く手を振って去って行った。もちろんお母さんには見えない位置だ。




 ……。




 マジで。




 ガチで。





 私アイツちょー嫌い!!!







近づいたはずの距離が倍速で遠ざかりました。おかしい。こんなはずでは。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。






↑更新応援してくださる方、お気軽にポチッとお願いします。



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ