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三夏 鳴り響くゴング



「どうもありがとう」

「――」

「あ、これ? 食べてみる?」

「――」

「御飯とかとも合うんだけどねー。あ、種あるから気をつけてね」

「……。――ッッ!!!??」

「ハハハ、酸っぱかった? それ、梅干って言うんだよ」


 私はそうめんのつゆに梅干を入れるのが好きだ。しその葉とかもいいけど、やっぱここは梅干だね。そうめんを啜ったときにときどき梅干の果肉が入ってきて、うひゃっ酸っぱ! ってなるのが好き。

 何の話かって?

 いやね、アシュールさんがお醤油を取ってくれたときに私の手元を不思議そうに見ているから何かと思ったら、梅干を見ててね? 和食中心の我が家でこの一週間のうちに一度も遭遇しなかったのかと不思議に思ったんだけど、まあ偶々機会が無かったのかもしれないし、折角だからと勧めてみたわけ。そしたらまあ、予想通りリアクションが面白いの何のって!ハハハハ。

 いやいや、その恨めしそうな顔、堪んないね!(私は断じて“えす”じゃない)


 ん? それより私も家族のことなんて言えない、馴染み過ぎだ、って?

 ……まあ、あれです。

 私、すごく空気を読む子なんです。


 どう見ても、既にアシュールさんはうちの家族にすっかり受け入れられているわけで。その家族が異世界だ庭の上空に穴だと胡散臭いことを言っていたとしても、アシュールさんという人物がここに存在することは事実だ。

 最初はあまりに簡単に信用しているから、一瞬“洗脳”という言葉が頭を過ぎったけど、よく考えてみたらそんなこと有り得なかった。だって、洗脳するなら“異世界”とか“庭の上空に穴”とか、そんな聞くからに怪しげな単語、真っ先に記憶から消すよね? それでもって、もっと(もっと)もらしい理由を捏造するはずだもん。

 常識的に有り得ないことを、洗脳するでもなくすっかり信じ込ませるような技術を持った人物。そう考えると、私がどう足掻いたところで事態が変わるかどうかは怪しい。何せ、堅物なはずの父に信用され、且つイイ笑顔まで引き出しちゃった人なんだ、アシュールさんという人は。

 我が家では一応、父とは絶対の存在なのである。父が黒を白と言ったらそれは白に他ならず、快晴でも雨と言ったら雨なのだ。つまり、父がこの人は異世界人ですが面倒見ます、と言ったらそうするしか無いのである。

 孝太の話なんて信用していなかったけど、父がアシュールさんを受け入れている以上は、私も右に倣えというわけだ。


 だから、ここは場の空気に流されてみようと思ったのです。場というよりも、父の周りの空気だけど。

 まあ、万が一にも彼が私の家族に危害を加えるような怪しい行動を取れば、私だって死ぬ気で抗ってみせますとも。家族を守るために。愛でもって! 勇気を持って! アーン、パーンチッ!


 結局のところ、害が無いならどうでもいいかなあ、と。そう思ったのは否定できないけど。この親にしてこの子あり、的な部分が無いとは言えないけれども。いいや、田舎者は心が広いんですよ。


 そんなわけで、私と家族とプラスいち、の不思議な夏休みは始まったのでした――。




「あ、お母さん、ここにお刺身入れてー。うん、それとそれー」

「――」

「……」

「お刺身うまー。次はそうめんそうめん! ……。 ――ブッッ!!!」


 な、なん――!!?

 どうして私のめんつゆの中に大量のわさびが……っ!!??

 ぎゃーっ!

 鼻にくる!

 目にくる!

 なんか色んな汁が出るーー!

 し、死ぬ……!!!


 少し目を離した隙に、何故か私の梅干入りのめんつゆが大量のわさび入りめんつゆに入れ替わっていた。

 私は海苔を入れるのも好きで梅干入りのめんつゆにも大量に入れる。わさび入りのめんつゆにも同じだけ海苔が浮いていたから、つゆの色のおかしさに気づかず思いっきりそうめんを啜ってしまった。


 ……いやちょっと、マジで。


 鼻痛い。


 ヒーヒー言いながら、何とか落ち着いたとき涙目のまま周りを見渡すと、アシュールさんが口元を押さえているのが目に映った。目が笑ってる。さらに手元には、わさびのチューブ。その隣では弟が隠すことなく爆笑していた。ブハーッだっせー!とか言ってる。

 私は空気を読んだ。いや、察したね。


 ――孝太め! アシュールさんに入れ知恵したな!?


 そのとき私は本気で弟を締めようと決めた。

 孝太、後で裏庭に来い。来なかったら潰す。来ても潰すけど。何を、とは言わないが。当然、ナニを、だ。

 大体、孝太は私がアシュールさんに梅干を勧めたときも黙って見ていたくせに! 同罪じゃないの!?

 しかも、アシュールさんもアシュールさんだ! そういうキャラだったの、この人!? 虫も殺さなそうな綺麗な顔して! 仮にもか弱い乙女に仕返しとか……紳士にあらず!


 このとき、私のアシュールに対する態度の方向性は決まった。

 もう“さん”なんかいらないね。呼び捨てで十分だ。

 アシュール! 容赦しねぇ!

 ……あ。

 か弱い乙女としたことが、ちょっと言葉遣いが。

 とにかく。


 覚えてろ!


 ……。


 いやいや。てへ。






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