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二十二夏 弟の反省、姉の所以 二



「姉ちゃんはさ、何でそんなに人の気持ちがわかんの?」


 突然そんなことを言われて、目を瞬く。……これは褒められたんでしょうか? それとも嫌味……じゃなさそうだな、雰囲気的に。

 よくわからないけど、孝太が微妙に落ち込んでいるようなので苦笑が漏れる。そこまでショックだったの?


「私が? わかってるかな、人の気持ち。言われるほどわかってないと思うけどね?

 でもあえて気持ちがわかるって言うなら、それは孝太の姉だからじゃない?」

「え?」


 自分の名前が飛び出したことに虚を突かれたような顔をする孝太を見て、内心笑いが零れる。だけど孝太の真剣さに応えて、私は考えるように首を捻りながら続けた。


「私は二十歳で、孝太は今十五でしょ? 孝太が生まれたとき、私はもう五歳だった」

「うん。だね」

「もう五歳、って言ったけど、“まだ”五歳でもあったの。それまではお母さんもお父さんも私に掛かりきりだったのに、孝太が生まれたらがらりと変わった。よくある話だけど、私も最初は不満で癇癪起こしたりもしてたんだよね。だけど、いつだったかお母さんが私に言ったの。『あんたが生まれたときもこんなだったんだから』って。そう言われて『こんなってどんな?』って思ってお母さんたちを見てみたら、何だか想像できたんだよね、自分が生まれたときのこと。

 孝太の面倒を見るお母さんとお父さんは大変そうで、でも嬉しそうだった。それからかな? 周りをよく見れば、何か気づかないことが隠れてるんじゃないかって思うようになったんだと思う。半分遊び感覚でね。

 でもそれよりも大きかったのはやっぱり、あんたの面倒を私も見てたからじゃないかな?」


 そういってニヤリと笑ったら、孝太がうげっと嫌そうな顔をした。しばいたろか。感謝をしなさいよ、感謝を。って私がニヤついたからいけないのか。


「生まれてしばらくは当然、あんたは喋ることなんて出来なかったし、喋れるようになっても感情が先走ってわけわかんなかったりしてた。そういうの見てて、この子は今何を考えてるんだろう、とか、何を望んでるんだろう、とか自然と考えるようになったんじゃないかな?」


 私の言うことを聞きながら神妙な顔になる孝太にちょっと笑ってしまう。そんな高尚な話をしてるわけじゃないのにね。


「……じゃあ俺にも妹か弟が出来たら、人の気持ち考えられるようなヤツになんのかな」


 ……なんて単純な思考なんでしょうか、孝太くん。


 流石にそれは十五の男が考えることじゃないんじゃない?

 小学生でももうちょっと発展的なことを考えるだろうに。


 弟の将来が心配になりつつ、そんなお馬鹿な孝太を少しだけ可愛く感じてしまう。どんなに生意気でもお馬鹿でも血の繋がった家族だもんね。――ってクサすぎる! 私クサすぎるから!

 自分の思考に恥ずかしくなった私は、誤魔化すように孝太に囁く。


「よく考えて、孝太。これから妹か弟が出来るってことは、あのお父さんとお母さんが……」

「う、うわああ! 変なこと想像させんなよっ!!!」

「あははははは、ごめんごめん!」


 急に真っ赤になった弟を笑いつつ、腕を引っ張ってさっきまで私が座っていた椅子に孝太を座らせる。椅子の背をくるりと回して机に向かわせた。余計なこと考えてないで、まずは受験生の本分を全うしたまえ、弟よ。


「変なこと考えなくたって、あんたも気をつけてれば人の気持ちもわかるようになるよ。……大体、私だって完全に人の気持ちなんてわからないんだし。とにかく、あんたは真面目に勉強でもしてなさい。もうすぐ朝ごはんだしね」

「……わかったよ」


 ただアシュールの衣装を返せと言いに来ただけなのに変に深いような浅いような話になってしまって、むず痒い気持ちになった。なんか、お父さんといい孝太といい、アシュールが来たことで妙な話ばかりしているような気がする。別にこんなちょっと突っ込んだような話をする家族でもなかったのにな。

 さていい加減私も部屋に戻ろうか、と踵を返したら、ポケットから軽快な音が流れてきて思わず足を止める。メールだ。

 さっと目を通して、直ぐに白けた気持ちになった。


「……壱樹いっきめ。私は伝書鳩じゃないっつうの」


 受信ボックスを開くと、今は県外に出ている例の幼馴染からのメールだった。


 『盆前に帰る。

 むつはもう帰ってるんだろ?

 ついでに母さんに伝えといてくれ。

 よろしく^^』


 確かに隣のおばさんは携帯を持っていないからメールなんて出来ないだろうけど、電話があるでしょ、電話が!

 そういえば去年の夏も私が伝言したんだった、と人遣いの荒い幼馴染を呪っていると、孝太が後ろから人の手元を覗き込んできた。


「イッキ兄帰ってくんの!? やりぃ、サッカー付き合ってもらお!」


 またサッカーかよ。勉強しろよ。

 とは思ったものの。


「お好きにどーぞ。じゃあね、孝太。ちゃんとアレ、早めにアシュールに返しておきなよ?」


 あの親にしてこの子ありだな、とか思いつつ、アシュールの服を指差して念を押してから、私は孝太の部屋を後にした。


 ひと仕事終えた気分で階段を降り、廊下を歩いていたら、片手に着替え(らしきもの)を持ったアシュールが洗面所に向かう姿が見えた。


 ――ちょっ、今から着替えるつもり!?


 鏡のある場所は勘弁してーっ!! と、私は慌ててヤツを追った。






20歳にしてはちょっと擦れたような、しっかりでちゃっかりな思考も持ってる六花が出来上がった理由、でした。

五歳も差がある弟妹がいると、きっと自然と面倒見が良くなったり、人の感情に敏感になったりしますよね。

とはいえ一部の感情には鈍いように見えているかと思いますが。笑


そして新キャラフラグ。


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