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拍手お礼小話 一


後書き欄にささやかなオマケをつけておきました。





【洋服調達の帰路にて(十五話その後)】



 一通りアシュールの服も買えて、これでもうつんつるてんなアシュールを見なくて済むとホッとしながら歩いていた帰り道。


「…………」

「…………」


 なんだかすっごく視線を感じる。

 主に左斜め上あたりから。

 まあ間違いなくアシュールなんだけど。


「…………」

「…………」


 降り注ぐ熱い視線に暫くは耐えていた私だけど、いい加減口元と……アイスを持つ手がジリジリしてきたので、仕方なくアシュールを見上げた。このままじゃ太陽じゃなくアシュールの視線でアイスが溶ける。


「……。――食べる?」

「……」


 短い沈黙の後、アシュールはこっくりと小さく頷いた。

 そんなどこか幼いヤツの仕種に、私は溜息が零れそうになるのをすんでのところで堪えた。頭の中に真っ先に浮かんだのは、ほらみたことか、という言葉だ。

 やっぱり食べたくなったでしょ? だからあのとき駅で素直に自分の分も買えばよかったのに。変な言い訳と私への当て付け(?)で意地を張るからこうなるんだ。繋いだ手を離すだけで片手が空いたというのに、「両手が塞がってますこれじゃアイス食べられないやハハハハハ」みたいな顔しやがって! あ、つい言葉が乱れちゃった失礼。


 結局、不満タラタラながらも優しい私は仕方なくアイスを分けてあげることにした。

 アシュールの手元にアイスを差し出す。あ、全部あげるつもりはないからねっ!


「…………」

「…………」


 しかし。


 ……こやつは何故に手を離さぬのか。


 おいこら黄金率筋肉鎧ヤロウ(駅での罵倒を繋げただけじゃん、というツッコミはなしの方向で!)手を離しやがれ!と、またしてもぶんぶんと手を振る私。こっちも半ば意地であり自棄である。なんとしてでも手を離してやる!

 しかしいくらジタバタしても手は剥がれない。身体を捻り回転を加えてみても、剥がれない。……無駄に社交ダンスのようなターンを決めただけで終わった。恥ずかしすぎる……!


 もうホント、何なのさ!


 手を離さないままアイスをもらおうとか、どんだけ横着!?

 この、私が――いや、六花様が、親鳥のように、甲斐甲斐しく、アイスを、口元に、運んで、食べさせてやる、とでも!!?


 しないっつーのっ!!


 それより本気でそろそろ暑いし! 街からずっと繋ぎっぱなしでちょっと汗ばんできてるんだよ!? そこまでして手を離さない理由って何よ!!?


 ――というか、街では逸れないためかと思ったけど、もうすぐ家だし逸れるわけもないし、手とか繋いだままでいる必要なくない!? むしろもっと前から必要のない行為だったよね!?


 私がそんな衝撃の事実に気づいたとき。


「! ッアー!」


 繋がれた左の手元を見ながら手を剥がすことに集中していた私は、不意に疎かになっていた右手に衝撃がきたことで慌ててバッと見上げたら……アシュールがアイスに齧りついていた。


 ちょ、一口デカイって!! 私のアイスっ!


 大きく削られたアイスに呆然とする私。そして満足顔でぺろりと唇を舐めるアシュール。妙に色っぽいのが余計腹立たしい。下手な女子より唇が瑞々しいとは何事だ! 思わず吸い付きたくなっちゃう★ ……って、ならないし!! なるわけないし!!

 アシュールの横暴にいい加減ムカついた私は無言で思いっきりアシュールに体当たりした。左肩で。タックルというやつですね。ラグビー選手顔負けの激しいやつです。あ、でもこの場合ボール持って無いんでアーリータックル扱いですか反則ですねそうですね。……かまうもんか!!

 しかし、当然のように弾かれる私。何故……!

 それでも懲りずにもう一度、今度は二人の腕の分だけ助走をつけて(手ぇ離してくれないんで)体当たりを試みた。いくらアシュールでもこれは受け止められまい!

 だがしかし。


「っ!!!」


 アシュールがスッと右の肩を引いた所為で、突進対象を失った私は前のめりになった。

 ちょ、危なっ! 急に体勢を変えるとか反則! 卑怯だぞっ!!

 とか自分の反則いやこれラグビーじゃないけどを棚に上げて思ったら、繋いだ手をそのままにアシュールの右手がするりと私の腰に回った。

 アシュールはバランスを崩した私を抱きとめ、そのままタックルの勢いを殺すようにくるりと左回りに一回転した。


 ……ああ、転ばなくてよかった。


 …………。


 っていやいやいやいや!??


 待て待て何この早業! これぞまさに華麗なターンだったんですけどっ!? 社交ダンスなんてどこで習った! ホントなんでも出来ますねムカつきます!


 一瞬の出来事に目を白黒させていた私だけど、改めて考えると体勢は社交ダンスほど美しいものでもない。

 私の左手はアシュールの右手に繋がれたままなので、拘束よろしく自分の背中に回っております。何気に動きを封じられている……。ここまでしても手を離さないアシュールに乾杯、いや完敗。

 アシュールの胸に埋まっていた顔をプハッとばかりに上げ、悔し紛れに睨みあげたら案の定アシュールは満面の笑み。


 だから何の笑顔だよ。


 勝ち誇ってるってか!? お前は俺に踊らされてるんだぜ!的な? いやまさに。まったくその通りですね。……あ、自分で言ってて本気で頭にきた。くそぅっ! いつか絶対泣かす!!! 覚えてろよーっ!!


 三流悪役の捨て台詞を脳内で零しつつ、その後は結局観念して大人しくアシュールにアイスを分け与えながら帰路についたのだった。

 ホント私ってばマリア様ばりn(略。


 せめてもの救いは、残ったアイスの棒にアタリの文字があったことくらいだ。







駅で買ったアイスがアタリだった!

当然、横取りしたアシュールに交換してきてもらいましたよ。

帰宅したアシュールに「もう次からは変な遠慮とかしないように!」と、一応念を押しておく。

遠慮というより、よくわからない駄々を捏ねていただけのような気もするけど、そこは私が大人になります。

ってことで、アシュールからアイスを奪って早速食べようとしたら……。


「……」

「……」


あれれれれ? それ、私のですよね?


「なんで避けるの!」


手を出す私をアシュールはするりと避ける。なんでだ!

憤慨している私をよそに、アシュールはびりりと包装を破き、何故かイイ笑顔でこちらを向いた。


「……すごく、いりません」


背中を駆け抜けた嫌な予感に従って逃走しようとした私の腰を、アシュールはがっちり捕獲した。

うぅぅ、売られる子羊の気分……!


◇◆◇


結局、逃げ損ねた私は、以前の仕返し(お礼?)とばかりに、アシュールに“無理矢理”アイスを食べさせられたのだった。アーメン。



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