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映画館の入り口でスティングとサンドラと別れて、二人ともコートを脱ぎながら指定されたブースに向かう。必要最低限に落とされた照明の下で、少し不安そうな表情に気付いたのか、しつらえられたソファに座るなりローレンスがスティールの腰を抱き寄せた。
まだシールドは下りていない。
それでも耳元に唇を寄せて低く囁く。
「僕はきみになにも捨ててほしくはないよ。今のままのきみを大事に想っているから……だから、比べて選んだりとか、そんな事はしなくていいから。」
歩きながら隣で百面相している少女に何か思う所があったのだろう、いつものように何でもないことのように口にする。
本当は、シャールより自分を、そしてスティングよりも自分を選んでくれていることが嬉しくて。けれどそれで相手との関係をゼロにして欲しいとかそんな事は望んでいないのだと。
大事なことは口にしなければ伝わらないと知っているからこそ。
「ローレンス、どうして……」
唇を震わせて、スティールは青年を見上げた。
自分の欲しい言葉をそんなにタイミング良く与えてくれるのか。
ローレンスは帽子とサングラスを外してテーブルに置き、きちんと目を合わせる。
「僕は付き合いの長さではシャールにもスティングにも負けるけど、それなりに人生経験もあるしスティールがどんなことを考えているかとか何となく判るよ……」
「何となくじゃなくて、多分いつも的確すぎるんだけど……っ」
そんなにあたし顔に出ているかなぁと、情けない顔になるスティール。
くすりと笑いながらローレンスは頷いて、こういうの以心伝心って言うんだよとご満悦だ。
むうう、と悔しがりながらも、やっぱりそういう風に気持ちが通じているのは純粋に嬉しい。
時間が来たのか、プライバシー硝子も兼ねたスクリーンがブースを覆っていく。照明は完全に落ちて、スクリーンやコンソールのスイッチ類が放つ僅かな明かりのみに包まれて、完全に二人だけの空間が出来上がる。
「ローレンス、あたしね……」
ん? と顔を覗き込む青年にひたと目を合わせて。
「冬の休暇始まったら、おうちに遊びに行ってもいいかなあ?」
切れ長の目を見張って、今日初めて驚きの表情になるローレンス。
「……それは、願っても無いことだけど、」
やや戸惑いながらも、こちらもその真意を測ろうと深く瞳を覗き込んで。
「僕の部屋に来るっていう意味、本当に解ってる?」
真剣な声で問うた。
スティールは開きかけた口を結んで、頬を染めて頷いた。
「あたし、男の人の部屋なんて、スティングくらいしか知らないけど……でも、ていうか……だからその……それは物の数に入らないから初めてだけど、その……二人でゆっくりしたいし、で、あの、」
しどろもどろに説明する唇を青年の唇で一瞬だけ塞がれて、そしてまた至近距離から囁かれる。
「この先に進んでもいい、て意味に受け取っちゃうけど」
皮膚を掠める声に、体が震えた。
「まだ、先の話だし、やっぱり夜は駄目だけど……」
やや婉曲的に、けれど否定はしないで答えると、強く抱擁されて息も出来なくなる。
いつの間にか映画が始まっていたけれど、二人にはただのBGMになってしまっていた。
苦しそうな少女に気付いて腕を緩めてローレンスは謝罪し、それ以上は追及せずに座り直してスクリーンに目を向けた。
ほっとしながらも予想外に抱擁を解かれた事に一抹の寂しさを憶えて、スティールは自分からローレンスの腕に抱きつくようにしてその肩に頭を預けた。応じるようにローレンスも反対側の手をスティールの手に重ねた。
きっとお互いの気持ちは通じていると思った。
この手を、離したくないと思っていた。
ストーリーは一応ここで終わりです。
変な終わり方でごめんなさい。しばらくこんな日常が続きます。
次回にこの二人の初エッチ話をUPしてから、水花執筆のお話を連載します。
若干文体などが変わりますが、「きみのためにできること」を二人で書いていたので、続編のシリーズは以前のようにリレー形式にはしないで話ごとに別々に書き進めました。そうしたら文章が全然違ってしまったという・・・(元々書き方が違う二人がそれぞれに合わせて書いていたので)
水花は、このシリーズの最もシリアスで大変なところを書いてくれています。引き続き読んで頂けると嬉しいです(=´∇`=)
2012/11/22
追記。随分経ったのでもうご覧になっている方は少ないのですが、懸賞応募用に改稿してラストにもう一章追加しているところです。他作品の連載の合間にちびちび執筆しているので遅くなりますが、いつか改稿バージョンに差し替えますので気長にお付き合い頂けると嬉しく思います。
2012/11/29 改稿
最終章はもうしばらくお待ち下さい。
今更ですが・・・・・・上記初えっち話はR18なので月光さんにあります。指定年齢以上の方、よろしければv