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きみをさがしてた  作者: 亨珈
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2

 小春日和の朝だった。綺麗に澄み渡った青空には、山際に僅かな雲が覗くのみで、他には何も光をさえぎるものはない。

 セントラルと呼ばれる居住区一帯は、基本的に三階建て以上の高層建築は認められておらず、自然環境七に対して人工物三となるように絶妙に建物が配置されている。マーケットと呼ばれるショッピングモール地区は地上部分が一階、そして地下は三階まで。その下の階層が利用できるのは、連邦政府管理下の施設のみと規定されているのだった。

 お陰で、肉眼で見える範囲にはまことにのどかな地域となっている。

「うぉーい、おーきてーるかー!」

 十軒ほどの一般的な住宅が隣接する一角で、制服姿の男子が怒鳴っていた。グレーのジャケットとパンツ姿でネクタイはなく、チャイナカラーに似た襟元を緩めてその下のボタンも半分は外したまま。

 脇に抱えたヘルメットには、校章らしき一角獣を模したエンブレムが描かれていて、彼が跨ったままのバイクはタイヤではなくリニアとジェット推進で浮遊し進むタイプのものである。もっとも、安全上の理由から、この世界ではタイヤを備えた乗り物は廃止されており、居住区内のみの移動には乗車人数に合わせたさまざまな形のリニアモーターカーが利用され、遠方には居住区の端から世界各地に繋がっている空中のパイプの中から、定期的に超高速リニアが発着しているのだ。

 少年が乗っているのはその中の二人乗りの跨るタイプのものであり、スポーツの一環として娯楽施設でレースを楽しむことも出来る車種であった。

 少年の視線は、一戸建ての二階の窓に注がれていて、一拍置いて玄関がバタンと開き、少女がまろび出てきた。

「おはよー!待たせた?」

 腰まで伸びた紅茶色の髪は、先っちょがあちこちにはね、寝坊したことが一目瞭然である。

「約束の時間には外に出てろって言っただろ。お前夜更かししすぎ! 何やってんだ、部活もサボって」

 少女より薄く赤みがかった茶──雅にいうなら香色だろう──色のストレートの髪は、なんだか適当に切られているみたいで、これもあちこちはねている……ように見える。が、これは少年のファッションらしく、年寄りにどういわれようときちんと撫で付けるのも揃えるのもよしとしていないようだ。

 元々つり気味の橡色の瞳を更に吊り上げて少女を睨み据えた。

「う。遊んでるわけじゃないもんね。あたしだって色々と忙しいんだいっ」

 少女は唇を尖らせながらも、ごめんごめんと謝罪の言葉を口にしながら、自分のヘルメットをかぶって少年の後ろに跨った。

「ほらほら、遅れるから早く行こうよ」

「誰のせいだと思ってるんだよ」

 少年は仏頂面で自分もヘルメットをかぶると、グリップを握りギアをローに入れて発進した。

 たちまち、家々が流れるように二人の後ろに消えていく。二人が通っている学園までは、バイクでほぼ十五分。まあ大した距離ではないが、歩いて通える距離ではなく、普段少女は自分のリニアカーで通っていた。但しタイヤのない一人乗りの軽自動車が自動運転で通学路を進むようになっており、全く面白みはない。そのため、今日のようにたまーにだが、近所に住む同級生に同乗させてもらっているのだ。生まれた時から付き合いのある幼馴染である。

「久し振りにスティールと登校するような気がする」

 ヘルメットの通信機器が、少年の声を拾い正確に後ろの少女に伝えてきた。

「そうだねー。なんかバタバタしちゃってて、頼むの忘れてたよ」

 スティールもヘルメット越しに返答する。

「で、何やってんだ? 毎日毎日遅くまで」

「ちょっと……捜しもの、かな。砂漠の砂の中から宝石を探してる感じ」

 はぁ、と溜息。これも正確に伝わって。

「はあぁ!?」

 運転席の少年は、驚いたもののすぐに真面目な表情に戻った。

「なんなら俺も手伝うぜ? 何捜してるんだ?」

「ごめん、これはあたしにしか出来ないことなんだ。写真とか、ないし……姿も変わっているかもしれないし……」

「ふうん?」

 なんだか大事なものらしいが、話してくれないなら仕方ない。一抹の寂しさも感じながら、話題を変えた。

「そういや、おまえんとこの鳥、あれつがいなんだろ? 卵産んだら分けてくれよ。あ、勿論卵をじゃなくて雛が大きくなったらだぜ?」

 この世界にはペットショップのような店は存在せず、特別に理由がない限り野生動物の捕獲も禁じられている。個人がペットを得る手段は、伝手とかこねとかレトロな手段のみ。金銭の絡む取引自体が禁止されているのだ。

 スティールは、ひく、と頬を引きつらせた。

 リルとジルファさんが……つがい!!

 この場にリルフィがいたら目玉を突かれかねない。大惨事勃発だ。

 ジルファの方は大喜びで「いいこと言ったな、少年! 気に入ったぞ」とでも言いそうだが。

「えーと、多分すぐには無理……リルが逃げてるから。あはは」

 乾いた笑いを漏らすのを聞いて、少年は残念そうだった。

「二羽とも大きくて綺麗だし、人の言葉聞き分けてるみたいだし、絶対可愛いのになぁ。早く仲良くなってくれねーかな? シャールいなくなって寂しいけど、賑やかしくて良かったよな」

 大きな白い犬が突然消えたことについては、元の飼い主が見つかり、そちらに引き取られたと伝えてある。

 十年も経って引き取るも何もないだろう、と少年や他の友人は怒っていたが、仕方ないことなんだよと無理に納得させた。自然環境の豊かな未開の地だから、なかなか見つからなかったんだよと。

 心配し慰めてくれているのが判るので、スティールはギュッとその背中を抱きしめた。

「ありがとう、スティング」

「お、おう」

 精悍に日焼けした少年の頬が赤くなったことは、背中越しには伝わらない。それでも少年は、誤魔化すかのようについ口を滑らせてしまった。

「なんか、前に乗せた時より、胸が大きくなったような……」

 独り言に近かったのだが、これまた機械は正確だった。

「スティングのスケベーっっ!!」

 後ろで叫びながらも、少女は腕を緩めるわけにはいかず。ましてや運転の邪魔をして二人で転ぶわけにもいかず。

 ヘルメットの外にも漏れるような声で口喧嘩しながら、二人の乗ったバイクは校門をくぐった。


2012/11/25 改稿

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