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唇を軽く開けたまま呆然としているローレンスに、スティールの方も戸惑ってしまう。
「……駄目?」
元々約束して此処に集っているわけではなかったけれど。こうして毎日会っていると愛しさが募るのがわかっていて……それを今更会う間隔を延ばさなければならないなんて酷すぎる。
そしてハタと気付く。
付き合おうと言い出したのはローレンス自身。こうまで気にかかる女性ならば、とことん深く付き合ってみようと決めた。けれどそれは自分の一方的な思いで、少女は自分のことを〈ディーン〉だと思うから近付いて来たのだ。それでもローレンス自身にも好感情があるから付き合いを了承してくれただけで、まだ〈好き〉という感情は互いに発展途上。そして本来ならば友人として終わっていたかもしれない関係を、恋愛関係に変えようと決めたのは自分。ここでくじけていては、きっとこれから先もやっていけないに違いない。
想われる一方の受身の立場でいたからこそ、今回のケースはいろいろと新鮮な気付きが多い。好意を逆手に相手を弄んでいたツケが回ってきたのかもしれないと、不意にそう思った。
知らず苦笑が漏れる。
「どうかした?」
黙ったきりの青年に対応出来ないで不安げな少女。普段口数の多い人間に囲まれていると、こういうときにどうしてよいか判らないのだった。それでも少女を抱きしめる腕は緩んでいないので、体を離そうにも離れられない。
「……そうか」
ようやく聞こえたのはそんな呟き。
「ローレンス?」
「うん」
ぐいと後頭部を持ち上げられて、上からは天使の美貌が被さってくる。渇き気味の唇を潤すかのようについばむように何度も口付けを重ね、舌を絡めては吸われ、スティールはぎゅうとローレンスの腕を掴んだ。
長い口付けの終わりに軽くついばむのはこの青年の癖なのか。しかし今日はそのまま唇がスティールの耳元に寄せられ、舌先が外耳から進入しようとした。
「ん……やっ。」
ぞくりと肌が泡立ち、吐息とともに漏れる声。
至近距離の淫らな音にぞくぞくと背中を駆け上がってくる何か未体験の感覚。
柔らかな舌先は耳朶とその裏もゆっくりと堪能し、腕の中で悶える少女を無視して最後にきつく耳の穴を吸い上げてから離れていった。
軽く息が上がっている少女が無意識にとろんと目を潤ませて青年を見上げた。
ああ、このまま連れて帰ることが出来たらどんなにか。
本気で思ってしまうが、出来ないことは判っている。そういう遊び相手ではないのだ。
「あの……い、今の……は?」
はふ、と息をつきながら脱力してローレンスの胸に体を預けるスティール。
「スキンシップ」
耳元でわざと軽く応えて。
これからは何でもスキンシップの一言で済ませてしまいそうな雰囲気だけれども、それで納得してしまうスティールにも困ったもので。
会える時間が少ないならば、それなりに密度の濃い時間を。友人として他愛のない会話をするよりも、もっと親密になれるように仕向けたら良い。異性としてもっと欲してもらえるように。恋人として認識してもらえるように。
ローレンスの決心には全く気付かないスティールだったけれど、先刻の件は了解なのかなとなんとなく納得して、
「えと、じゃあ水曜日と土曜日で……いい?」
「きみがそういうならば仕方ないね」
「なんかその言い方ひっかかる~っ。あたしだって毎日でも会えたらいいけど、物理的に無理っていうか」
「休日にデートは出来ないの?」
外で会うのは立場上かなり難しいと判っていて、そして少女の行動パターンも知っていてそうもち掛けてみる。見ず知らずの、しかし頻繁に話題に上る〈シャール〉に嫉妬しているのだと自分でも解っているのだ。
もしも休日にゆっくり会えるなら、会えないほかの日に死に物狂いで仕事を片付けるだろう。
「休日は……だって……」
案の定スティールは言い淀んだ。
しかしよく考えてみたら、休日の丸一日早朝から夕暮れまでを丸々シャールと過ごしているわけで。それはスティール本人にとっても心地よい時間で長く感じられるわけではないけれど、それに比べてローレンスといられる時間はとても短いようにも思う。
「妬けちゃうなあ」
悩んでいる様子を感じてローレンスは苦笑した。
「僕がスティールの一番になりたいんだよ」
「ほぇ? い、一番??」
何とも間の抜けた返事に、ローレンスはどうしようもなくなってしまう。そこら辺も説明が必要ならしい。
「そう、一番。シャールとも誰ともさっきみたいなスキンシップはしないでね?」
「え」
かあぁーっとようやく赤面して。これでようやっと理解したのだろうか。
「スティールが困るだろうから、他人には秘密だけど……僕が彼氏なんだから、他の人とはしちゃ駄目。」
念の為言葉を添えて。
スティールの方は、湯でも沸かせそうなほどにかっかと顔を火照らせている。
「彼氏っ」
「彼氏でしょ? 昨日付き合おうって、うんって返事してくれたじゃないか」
「あーうん、勿論そうなんだけどっ。なんか言葉にすると恥ずかしいっていうか、照れくさいって言うか……あーそっか、そうなんだぁ~っ」
こうまであからさまな態度と言葉で伝えてようやく認識してくれたとは。
言って良かったと、心からローレンスは思った。
2012/11/27 改稿




