第6話
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数字が増えていくことにアワアワしています←超チキン
二人の騎士に頭を下げられ、ルーチェは困惑していた。
ただでさえ人間が苦手だというのに加え、騎士と魔女は言わば犬猿の仲だ。憎しみの対象と言っても過言ではない相手に、こうも素直に面と向かって謝罪されては、どうして良いか分らない。
「あ、いやもう気にしないでくれ。
商品もたいした被害はなかったし、あざだって薬をつければすぐに消える。
そ、そういえば薬師を探していると言っていたな?王族の勅命だなんてよっぽどの事なんだろうな……!?」
無理やりな話題転換に二人はようやく頭を上げた。
が、話題がお気に召さなかったらしいライルは憮然として言葉を紡いだ。
「貴殿には知る必要のないこと……」
「実は、陛下が原因不明の流行り病に罹り、床に伏しているのです。
侍医の中にはもう長くないという者までいます」
「団長!?」
そのライルの言葉を遮り、ジェイドは更に続けた。
「病は帝都を中心にまん延しているらしく、有効な治療法も薬も見つかっていません。
まだ死者は出ていませんが、時間の問題でしょう。原因が全く分からないため、帝都の医者も薬師も皆さじを投げました。
我々に残された道は、国内外にいる優秀な医者や薬師に頼るより他にないのです」
悲痛そうに語るジェイドに慌てた様子のライルが声を荒げる。
「団長!陛下の病状は第一級国家機密に当たります!みだりに一般人に口外して良い情報では……!」
「責任は私がとる。お前が気にすることではない」
強い意志を宿す瞳に射すくめられ、ルーチェは言葉を失った。
彼のその強い意志は、長い年月の中でルーチェが無くしてしまったものに他ならない。少しだけ、彼のそのまっすぐな瞳が羨ましく思えた。
「以前、貴女から頂いた薬は素晴らしい効果でした。手前勝手な願いであることは重々承知しています。
ですがどうか、我々に力を貸してはいただけないでしょうか?
このままでは帝都だけでなく、この辺境の地にも病が広がる恐れがある。王も民も倒れてしまえば、この国は滅んでしまう」
彼の嘆きも願いもルーチェの心を打った。だがルーチェは魔女だ。彼女の心には未だ帝国に対する憎しみも恐怖もくすぶり続けている。
そう易々と長年に渡り植え付けられた負の感情が消えるわけがない。
皇帝の命令に従う騎士に追われ、その正義の剣で斬りつけられ殺された同胞の無念を忘れることはできない。
「もし……もし私がその話を受けたら、王を直接診る機会はあるのだろうか?」
震えそうになる声を必死で抑え、極力感情を殺して問う。
「診察する機会があるとは言い切れないが、その機会を作ることは可能です。我らは王立騎士団、陛下を何者からも守るためにあります」
ジェイドのゆるぎない言葉に、ルーチェは心を決めた。
「私で役に立てるのなら」
ルーチェの返答にジェイドは立ちあがって手を差し出した。
「では改めて、私はジェイド・ノースマクガルフ。貴殿のご協力感謝いたします」
差し出された手を取る。
「ルーチェだ。私の持てる知識の全てで尽力しよう」
名に誓う契約のもと、ルーチェは思う。
(師匠、皆を死に追いやった男の子孫を看取ることも私の使命なのでしょうか)
今回で「起承転結」の「起」が終了です。