第1話
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拙い文章で大変申し訳ないですが、お付き合いいただけたら幸いです。
日のあるうちは畑で薬草や野菜の手入れに時間を費やし、日が沈むと収穫したそれらの仕分けや
加工し、週末に立つ市に向けて準備をする。
それが魔女狩りを逃れ生き残った魔女ルーチェの日常だ。
帝国の法が行き届かないような国の外れの森の奥深くで生活していた数年前までは考えられない、
実に社交的になったものだとルーチェ自身も感心している。
それこそ、百年くらい前に魔女絶滅が宣言されてから、ようやく人里に訪れることが出来るようになったものの、
当時はまだ魔女という存在に敏感だったため、あまりかかわらないように細心の注意を払わねばならなかった。
そしてルーチェは今、また新たな問題に直面することになったのである。
帝国の憂いの原因であった魔女。その魔女が消えると、今度は国の内部に憂いが生まれた。
地方領主の反乱である。
元々、中小さまざまな国を吸収し平定してきた帝国に不満を持つ者は少なくない。
また、魔女狩りの際の地方への負担も決して小さくはなかった。
帝国は諸悪の根源は魔女にあるとしその駆逐に尽力したが、その後に起こりうる帝国への疑心を払拭する策を講じる時期を誤ったのだ。
内乱は領主の帝国への忠誠を揺るがすまでに発展し、それを治めるのに60年を費やした。
現在では、大きな内乱は無いものの、周辺諸国との小競り合いは後を絶たず、国境付近はいつまでたってもきな臭い。
人は永遠に争いと無縁ではいられないものなのだろう。それこそ、望む望まざるにかかわらず。
そういった経緯により一応の安寧を手に入れた人々は、帝国の御旗の下より豊かな生活を求め動きだした。
その中でも最も力を注いだのが流通だ。経済の要である物資の流れを安定させ、治安を改善し、物価を統率することで領主の反乱を阻止しようとしたのだ。
これはあまりうまくいかず、地方でしか取れない特産品などは結局、各地方の領主に任せ、定期的に帝国の監査が入ることで当面の合意となった。
さて、このように物流が整備されていくと必然的に「貨幣」の価値が重要になってくる。なにせそれまで物々交換でまかなわれてきたことが、貨幣を介さなくては成り立たなくたってしまうからだ。
それはルーチェの住む国境近くの村にとっても同じこと。いくら辺境とはいえ、帝国内ということに変わりはない。次第に貨幣を用いた取り引きへと移り変わっていったのであった。
商売をしてお金を稼ぐ必要性に迫られたルーチェは、時々顔を出すパン屋の奥さんに相談することにした。彼女はここ数年で打ち解けることが出来た人間の一人だ。長い引き籠り生活ですっかり常識に疎くなっていたルーチェに、親切に物事を教えてくれた言わば恩人だ。
彼女は長いローブに目深にかぶったフードの怪しい女に気安く声をかけ、警戒心から言葉少なだったルーチェに
「そんなんじゃいい男は寄ってこないよ!」
と笑って背中を叩いた。明け透けなその性格は、ルーチェの人間に対する不信感や嫌悪感を少しずつ薄れされていった。
同様にパン屋のご主人もルーチェには好意的で、このあたりでは珍しい容姿のルーチェに偏見を持たずに接してくれた。
そんな夫婦に、何気なく薬草を売って生計を立てようと考えていることを相談したところ、二人は週末に開かれる市場について教えてくれた。また、売り場は自分たちが借りている場所の一部を使うことを勧めてくれた。
とんとん拍子に話は進み、こうしてルーチェは商いを始めることとなった。
これが全てもきっかけとなるとは思わずに……