第14話
「マナ……だと?しかし、それは作り話ではなかったのか?」
「いや、正確にいえば伝説をお伽話として子供たちに聞かせたのが始まりとされているが……まさか本当にそんな物が?」
半信半疑の二人に思わずため息を吐く。
(人間は本当に忘れてしまったのか……否、忘れたかったのだろうか。目に見えない大きな力を恐れるあまりに)
「マナは実在する、目には見えないだけだ。それは木の葉の一ひら、朝露の一滴、大地の土の一粒にだってマナは満ちている。……満ちていたんだ」
そう、枯れたのは土地ではない【マナ】だ。
生命の源が枯れた大地に植物は育たない。今は土に残った僅かなマナのおかげで作物がとれてはいるが、いずれはそれも消えてしまうだろう。
「ではこれら一連の作物の不作や、流行り病についてもマナの不足が影響していると?」
「半分正解で半分不正解だな」
「もったいぶっていないで説明しろ!」
(本当に何も知らないのだな人間は……。まぁ、知っていたら間違っても魔女狩りなどという愚行に走る事もなかっただろうが)
「【ラウラウ】という植物を知っているか?この【ラウラウ】は全草に強い毒性を持つ。たとえ葉の先でも口に含めば全身に毒が回り数時間は麻痺がとれない。
しかし、この植物は冬の間の貴重な食料になる。秋になると植物全体の毒を根の一部に溜めるという性質があるからだ。
植物にしてみれば、成長期である春から夏にかけて外敵である草食動物や昆虫に食べられてしまわぬようにと生み出された自衛の手段なのだ。これを人は進化と呼んだ」
話の見えないライルは、今にも食ってかかりそうな目でルーチェを睨みつけ
「何が言いたいのかはっきりしろ!!」といら立ちを露わにした。
一方ジェイドは、冷静にルーチェの瞳をまっすぐに見据え問うた。
「つまりマナの減少は、人間を外敵とみなしたこの世界の進化の形と言うことでしょうか?」
「なっ!??」
「見方によってはそうかもしれないが、人間から身を守ろうとしてマナを減らしても、他の生命に影響を与えすぎるような手段では本末転倒だ。
私が言いたいのは、生命の進化は気の遠くなるような時の流れの中で、その環境に適したものだけが生き残ってきた。だが、人間という種が現れてからこの流れが急速に早まったのだ。それこそ進化も追いつかぬほどに。
世界は命を見捨てたりはしない。全てを包み込むだけの深さも広さも兼ね備えている。しかし人間は短期間で劇的に環境を変える力を持っていた。
それに世界の進化が追いつかなかったのだよ」
真実は時にとても残酷だ。それは誰よりもルーチェが良く知っている。失われた時も人も決して戻ることは無い。
マナの荒廃の原因を作った人間の所業を取り消す術など、この世界のどこにも存在しないのだ。
作中に出てきた進化についての表記は適当です。あと「ラウラウ」は実在しますがその生態はうろ覚えで書いているので正確さに欠けます。
なので、テストに出ても人に聞かれても参考にしちゃ駄目ですよ!