第13話
その日の夕刻、屋敷を訪れたライルは一抱えもある大きな木箱を数個携えてきた。
「頼まれたものはこれで全部だ。確認してくれ」
狭い地下室に運び込まれた箱を次々開けていくライルに呆気にとられ、ルーチェは暫し言葉をなくした。
「……私はここまで大量に望んだわけではないのだが」
「何を言う!肝心な時に足りなくなるよりは良いだろうが!」
「保管場所に困らなければな」
「ぐっ……」
周囲を見渡しながら言うルーチェにライルは口をつぐんだ。
ただでさえあまり広いとは言えない地下室は、今やようやく人が通れる空間を残し物で埋まってしまっていた。
「それにしても、こんなに早く頼んでいた物が揃うとは思っていなかった。
迅速な対応に感謝する」
「その件については団長に礼を言ってくれ。
今回の事はあの方の優遇によるものだ。民のためにと常に尽力しておられる」
「騎士だけが民のために動くのでは国は終わる。
国の長が民の生活を考えなくなった時、民は国を捨てるだろう。さもなくば革命が起きる。
良く肝に銘じておくことだな、王立騎士団団長殿」
いつの間にか開いた扉の前に立っているジェイドを、ルーチェは挑むように睨みつけた。
「全く耳に痛いお言葉です」
軽く肩をすくめたジェイドに、ルーチェの放った言葉の意味がわからないライルは戸惑った視線をよこす。
「ここで話す内容でもないでしょう。2階の書斎へ。ライル、君も同席したまえ」
通された書斎は天井まである書棚に本がぎっしりと納められ、それが部屋の壁を埋め尽くしていた。ルーチェは初めて訪れた書斎とその蔵書に心惹かれながらも、深刻なジェイドの表情に気を引き締めた。
「お察しの通り、我々帝国の上層部はこの事態に気付いていました。それもかなり早い段階から」
「なっ、団長!?」
「やはりな」
ジェイドに勧められるままに長椅子に座ったルーチェと、それを辞してその背後に立っていたライルは同時に声を発した。
「どういうことですか!?」
声を荒げるライルにジェイドは1枚の書類を差し出した。同じものをルーチェにも手渡す。
「近年の国内で収穫された作物の数量をまとめたものです。農産物の収穫量は年々減少傾向にあります。
連作障害の可能性も考えられましたが、別の作物を作ってみても土壌改良を行っても効果は一時的なものでたいした成果は上げられませんでした。
更に詳しく調べるために調査対象と範囲を広げた結果わかった事は、この現象は農地だけでなく自然界にも起こっているということです」
「そうだろうな」
「どういうことだ!?」
資料から目を上げず同意するルーチェにライルは焦れたように問う。
「これらの植物への異変は土地が痩せたことが原因ではないということだ。
そして例の奇病の原因も同じ処に端を発している」
「あなたはそれをご存知なのか?」
高名な学者も名医と呼ばれる医者であっても誰も真実に辿り着けなかった世界の異変。それをただの薬師がどうやって知りえるというのだろう。
「ご存知も何も、貴方がたは知らないのか?
親がよく子供の寝物語に話すという、この世の全てをあまねく巡るマナの話を」