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君臣のドグマ  作者: 回天 要人
承章
48/51

要郭編15

 風呂場で互いの近況を報告しあう群青と月旦だったが、話の区切りでふと月旦がこう言った。


「一週間ほど前に、駕籠に乗って屋敷を訪れたのはお前か?」

「一週間前?」


 月旦は群青へそう尋ねながら、自分の中では多分そうなのだろうと思っていた。群青の背の怪我はひどいものであるし、茴香が手荒に扱うとは思えなかったからだ。


「いや、駕籠には乗ってきたけど、俺がここへ来たのはつい一昨日のことだ」

「……そう、なのか」


 だから、群青がそう言ったことが意外だった。では、あの客人は一体誰だったのだろう。


「浅葱なら何か知ってるかもな。あいつ、花冠司馬将軍に簡単にやられたもんだから意気消沈して、部屋に引きこもってるらしい」

「浅葱はまだこの屋敷にいるのか?」

「追い出しても帰る場所なんてないからなぁ…朔白姫は慈悲に満ちた方じゃないか。お前を斬り殺そうとした人間をかくまうなんて」


 月旦は過去の出来事を思い出していた。慈悲に満ちた朔白の姿を想像しようとするも、呪術に使うといってためらいなく草花をむしり取っていた姿や、その後作った怪しげな薬品を使用人に塗りたくる姿しか浮かんでこなかった。ちなみに使用人の肌はその後一ヶ月ほど赤くかぶれた。


「慈悲に満ちているかどうかはともかく、姉上や浅葱に対面した方がよさそうだ」

「ああ。俺はみんなと話し合えば、全てが上手く転がりそうな気がしてる。ここで花冠とのいざこざに蹴りが就けられれば、お前はもう背中を気にしていなくていいし、弦莱で皇になることだけ考えていればいい」


 群青がそう言い放つと、一瞬空気がシンと静まった。何も答えない月旦に痺れをきらし、その顔を覗き込もうとした群青だが、月旦は両目を閉じて難しい顔をしていた。覗き込んでも、意味はないだろう。群青が瞑目する月旦を観察していると、しばらくして大きな両目はゆっくりと見開かれ、同じようにゆっくりと身体の向きが変わり、右隣の群青を真正面から捉えた。


「…群青、前々から思っていたが、」

「なんだよ、改まって」


 群青はきょとんとした顔で月旦を見た。月旦は深いため息を吐いた後、群青を見つめ返した。


「皇の器量も、資格も俺にはないぞ。第一、一族外の人間が突然現れて皇になどなれるはずがない」

「それは何だ?皇になりたくないってことか?」

「俺の意思はともかく、なれるはずがない」

「じゃあなれるさ」


 群青は当たり前だといわんばかりだ。月旦は理解しようとしない群青に呆れ顔を見せる。


「お前がやりたくないなら仕方ないけど、そうじゃないなら必ずなれる。俺が皇に押し上げてやる」

「群青……」

「勝算がなきゃ戦わないなんて、俺じゃないだろ?」

「自分で言うか」

「ああ言うさ。じゃなきゃこんな旅、誰が始める?未来なんて見えるわけない。これから作っていくんだから」


 二人の置かれた状況は良いとも悪いともいえない。気持ちがくじけた方が負けると思っているのか、群青は前向きな姿勢を崩さなかった。

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