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君臣のドグマ  作者: 回天 要人
始章
11/51

炎艇編6

 頭が重い。重いだけではなく、波打つように鈍痛が襲ってくる。泣いたせいだろうか。

 一度気がついてから、再び意識を失ったのか、月旦は知らぬ間に明るい場所へ来ていた。周りには誰も居ない。明るいのは松明の炎のせいなのか、光源が揺れている。頭上の遥か高い位置で燃やされている火が自分めがけて降ってくるのではないかと月旦は思った。血が足りないのだろうか、眩暈もする。視界が渦を巻き、月さえも己の下へ落ちてくるような錯覚に襲われる。耳の傷からは絶えることなく血が流れていた。運悪く太めの血管でも破ったのかもしれない。

 月旦は砂の大地へ寝転がされ、変わらず手足を拘束されていた。波止場からは少し離れた海岸で、波音がして潮風が吹いている。身体を起こす気力も出ないのか、月旦はその場から微塵も動かず、口だけを動かして相棒の名を呼んだ。


「牙城…」


 答えはない。もしやまだ牢の中なのだろうか。尋ねたくとも人の気配は無い。何ゆえ自分は海岸で寝転んでいるのだろう。


「やはりか、対鶴め…早々に船を出て正解だったな」


 人の気配は無いと思われたが、それは間違いだったらしい。波音でかき消されそうではあったが、遠くの方で知らない男の声がした。


「構わぬ…船に残してきたのは雑魚ばかり…今にして思えば丈利は至極役に立った」


 ぼんやりする頭で、月旦は話の内容を察しようと頭をめぐらせた。対鶴という者が男の船を襲ったのだろうか。けれど男は逃げ延び、海岸へ居る。自分には関係のない話かと思われたが、


「金の輪さえ手に入れば問題はない。花冠皇の金など無くても、他に依頼主はたくさんいるからな。それより、犬は始末したか。あれは吼えて仕方のない馬鹿だ。うるさくてかなわない」


 とたんに、月旦は目を見開いた。「金の輪」「花冠皇」そして「犬」とは、己と無関係とは思えない。気力を振り絞って、今度は身体を起こすことに成功した。振り返って男を見やる。あちらは月旦が起き上がったことには気付いていない様子だった。

 男は短い髪を後ろへ撫でつけ、黒の外套を羽織っている。下卑た口元がゆがめられ、いやらしい笑みを零す。よほど金回りのいい男なのか、指先には大きな玉の飾りがいくつもはめられ、目元には珍妙な硝子の板をつけている。着物も俗氏のものとは思えない。外国の品だろうか。先ほど船と言っていたから、船で外国を行き来しているのだろう。言葉は俗氏の言葉であることだし。


「何?逃げられただと?…まぁいい。あのような馬鹿に何か出来るとは思わない」


 先ほどから犬やら馬鹿やら、腹が立つ言葉を吐いてくれるものだ。どれ一つ当てはまりもしない。牙城はかしこい狼だ。

 男は無線で話しているらしい。話し相手の姿は見えなかった。


「それより対鶴だ。船に居るうちに捕らえるなり、始末するなりしておけ。小僧も一緒にな」


 小僧、と聞いて月旦はようやく群青のことを思い出した。もしや、対鶴という者と一緒になって自分を追っているのだろうか。群青に借りは作りたくなかったが、この状況を一人で打破することは難しい。

 今まで己の仲間は牙城だけと思っていた月旦は、群青が自分を追っていることに安堵と嬉しさを覚えた。月旦の中で群青に対する気持ちが変わった瞬間だった。

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