魔王との決戦、そして・・・
その魔王には奥の手とも言える必殺技があった
それは回避不能の即死攻撃という、まさに「必殺」技だ
俺は湊宗太
今年29歳になった平凡なサラリーマンだ
ちなみに独身である
特に趣味と呼べるものは無い
強いて言うなら筋トレだろうか
何もかも平凡な人生だった
しかし、そんな俺の人生はある時を境に一気に様変わりした
突如として眩暈のような感覚に襲われた
目の前が真っ暗になっていく
・・・・・・
俺は倒れたのか
うつ伏せになっている
いや、何かがおかしい
鎧を身に付けている?
右手には剣を握り、左手には盾がある
ここはどこなんだ
俺は一体・・・
顔を上げると、明らかに人間ではない何かがいた
エルフのように耳が尖った老人
顔色は緑色をしている
腕は4本ある
体のところどころから青い血が出ている
見たこともない化け物を前に俺は思わず立ち上がり、盾で身を隠した
「バカな、あの攻撃を食らって立ち上がるだと」
こいつは何を言っている?
(戦え・・・!)
どこからか声が聴こえてくる
え?どういうことだ?
(そいつは魔王だ、今なら倒せる!)
今なら?
確かに、魔王と呼ばれる存在はどこか動きが鈍い
何か疲れているように見える
しかし、いきなり言われても・・・・
魔王は明らかに殺意を向け、指から炎の球を放った
思わず盾ではじき返すと、はじかれた炎の球は床を溶かした
こいつ、マジで俺を殺す気だ
「うおおおおおおおおお」
スイッチが入った
とにかくやらなきゃやられる
俺は右手に持っていた剣を振り上げ魔王に向かって突進していく
・・・体が軽い
再び放たれた炎の球を飛び越えて懐に入る
俺の振り下ろした剣は魔王の体を引き裂いた
倒れた魔王の体は溶けていく
(よくやってくれた)
さっきの声だ
「お前は誰なんだ?」
(その体の元の持ち主さ。俺は魔王に殺されたんだ。)
「殺された?」
(奴の必殺技は回避不能の即死攻撃。それを破るには別の魂を呼ぶしかなかった)
「どういうことだ?」
(魂の召喚。これが俺の奥の手。魔王を倒せる唯一の策。奴の必殺技を受けた俺は自分の体をお前に託した)
つまり、俺の魂がこの体に乗り移ったということなのか
(では、俺はそろそろ逝く。後の事は任せた・・・ぜ)
そう言い残して、声は消えた
しかし、ここはどこなんだ
しばらく呆然としていた
俺は一体どうすれば・・・・
しばらくすると何人かが魔王の部屋に入ってきて俺に駆け寄ってきた
鎧を着た女騎士のような人物
弓を持ったエルフのような女
大きな杖を持ったイケメン男
「フレイ、やったの!?」
女騎士が俺に語り掛けてきた
フレイ?
それがこの体の元の持ち主の名前なのだろうか
「いや、魔王は倒したんだが・・・・・」
どう説明すればいいのか
・・・・・
「ところで、お前達は誰なんだ?」
思わず口にしてしまった
「え?」
三人が唖然としてしている
それ以降、どうやら俺は記憶喪失ということにされた
フレイ・シュトラス
それが勇者の名前らしい
今は俺の名前ということになる
年齢は24歳とのことだ
少し若返ったことにはなるな
ちなみに女騎士の名前はエイダ
エルフの女はエカテリーナ
魔法使いらしい男はクルトということだった
俺は三人に連れられて凱旋することになった
石造りの家が立ち並ぶ、中世のヨーロッパのような世界だ
そこにひと際大きな王城が見える
俺達は王の間に通された
白髪で白い髭を生やしたわかりやすいくらいの王様がいる
「勇者フレイよ。よくぞ魔王を倒してくれた」
「はあ・・・」
なんか、美味しいところだけ持って行った感があり、イマイチ喜べない
そんな俺の事はお構いなしに王は続ける
「もしよければ、ワシに変わって王になってくれないか?」
「え?」
いや、そんなことを言われても、この世界の事は何も知らないのに、統治なんてできるわけがない
「いや、その・・・。辞退いたします。俺はもっとこの世界の事を知らないと。だから旅でもしようと思っています」
俺はそう返答した
王は少し落胆したようだったが、すぐに俺の意を汲んでくれた
「そうか、わかった。勇者の冒険は続いていく、ということなのだな」
「ええ、まあ・・・・」
なんか、どうも歯切れが悪くなってしまう
そんな時、一人の身なりの良い女性が俺の傍に駆け寄ってきた
「待ってください」
ん?誰だこの人物は
「リーゼ!」
王がその女性をそう呼んだ
「その旅に私も連れていってください」
「え?」
「あなたは魔物達に囚われてしまった私を助け出してくれました。だから、私はあなたに付いていくと決めたんです」
うーん
どうしたものか
とりあえず断っておこう
「ええと・・・・リーゼ・・・様?」
「はい!」
なんとも真っ直ぐな眼差し
罪悪感を感じる
これも全てフレイのせいだ
「俺は、その・・・・一人旅がしたくて」
「そんな・・・」
やんわりと断ったんだが、彼女は諦めなかった
「足手まといにはなりませんので、どうか」
「いや・・・・」
「きっとお役に立ってみせます」
「いや・・・・」
「お願いします!」
「・・・・・」
パーティーの他3人はサムアップしてくる
「一晩・・・・考えさせてください・・・・」
俺は、そう答えておいた
逃げる時の常套句
今晩、夜逃げしよう
夜逃げする勇者が一人くらいはいてもいいだろう
その夜、見張りの目を搔い潜って俺は城を抜け出した
俺のこの世界での冒険は、こうして始まったんだ




