1章8話 再構築
次こそは、そう意気込んで飛び込んだ先。
景色が再構築されていく中を進む。
光と影の境界が滲み合い、輪郭だけが先に生まれ、色が遅れて付いてくる。
そして、ようやく足に地を感じた。
ー 後悔の選択をしない道…やってやるさ。
そんな決意の先にあったのは大きな校舎。
県内で1番の生徒数を誇る高校のそれは紛れもなく輝志の母校のものだった。
校舎の窓ガラスに反射して映る自分の姿を見れば制服姿。
思い返されることなんていくらでもあった。
ー …懐かしさに浸るのは無しだ。やる事をやろう。
そう切り替えて校舎の中へと進んでいった。
校舎の中の生徒は少なく、グラウンドに目を向ければ部活の練習中の生徒たち。
時間的には放課後のひと場面。
そんな校舎を自らのクラスの教室目指して歩いていた。
目的の教室の引き戸を開け、中に入ると待っていたのは担任の教師。
これは進路相談の場面だ。
教室に入り、教師の前の椅子に座り会話が始まる。
担任は1枚の紙を手に取り話し始めた。
「第一志望はこの大学ってことで変わらずか?」
輝志はここから変えてしまうつもりだった。
振り返っても行く意味のなかった大学に行って時間を浪費するよりも、身に付けるべくを身につけて、尚且つバッドエンド確定の出会いをそもそもから回避する。
これが今回の施行だ。
ゆえに輝志は担任の言葉を否定した。
「そう思ってたけどやめます。大学じゃなくプログラミングの専門に行きます。」
予想外の輝志の言葉について行けない担任。
そんな表情を見て、輝志は言葉を続けた。
「4〜50年先を見据えた時に収入が真っ当にある職を考えた時にプログラマーが考えられるのと、今から10年間で需要がかなり上がるのもこの職だと思うからその道に最短で進むのが正解…というよりもそこまでわかっていてわざわざ遠回りする必要が少しもないと判断したからです。」
ー この業界で20年先の知識を持ってる優位性は計り知れないから、って本音は言えないけどな…。
そんな本音を隠した建前でも、ここまで堂々と言い切ってしまえば反論の余地など生まれるはずもなかった。
「お、おう。そうか。そこまで言うなら先生は応援するだけだ。」
「ありがとうございます。ならこれで終わりでいいですか?」
「そうだな。」
それを聞くとスッと立ち上がり教室を後にする輝志。
教室滞在時間は1分程度。
目的を淡々と果たす姿がそこにはあった。
ー 高校時代でやりたい事、やり直したい事なんていくらでも浮かぶけど…やるべきをやろう。今から書き始めれば間に合うはずだ。
廊下を歩き去るその後ろ姿は堂々と。
堅い意思に従い校舎も、この時も後にした。
場面は変わって、視界に入るのはノートPCが並ぶ教室。
講義の内容は20年先を生きていた人間の感覚で言えば廃れて使われなくなることが分かりきっている内容だった。
ー まぁそんなもんだよな。この時点じゃ主流だし課題だけ真面目にやってやることをやってしまおう。ここで欲しいのは学校と企業との繋がりだけだしな。
こうして授業態度最悪なのに成績は抜群の扱い辛いことこの上ない生徒は出来上がった。
現実で通っていた大学とは全く違う場所、アルバイトも地元。
バッドエンド回避は万全だ。
授業や課題は片手間に、輝志は黙々と自身の『やりたい事』に集中していた。
人生を変える、その一点にただただ邁進していた。
時は進み、夏休み明けの9月。
輝志は2つのプログラムを書き上げた。
高校2年の冬からスタートしてようやくの完成。
この当時のPCスペックでは運用シミュレーションに相当手こずりはしたが出来は会心。
書き上げたのはスマートフォン用OSのコードとその管理に使えそうだと途中から思いついておまけで作った学習型AIのコード。
どちらもそのまま運用可能なレベルの代物だ。
ー 問題は時間だけ。行動に出よう。
現実においてこの年の冬にはこの世界にスマートフォンがリリースされるが日本には入ってこない。
それゆえにハードは後でも先にOSをリリースできればシェアを確保できるはず。
それに現実ではこの先停滞し続ける日本経済への起爆剤にもなり得る。
そんな偽善的建前と、それが成れば自分の生活も良くなるだろうという本音。
さらに踏み込むのであればルピナの言う改変、というのが実際にどれだけの影響を及ぼすのか、本来の目的を多少逸脱してでも試してみたいという好奇心もあった。
それら全ての思惑を成すために残された壁はあと1つ。
開発、運営が可能な企業へ持ち込み、尚且つ早急にプロジェクトをスタートさせること。
勝負の肝は時間、それを理解している輝志の行動は迅速だった。
学校の講師へコードやシミュレーションを見せて企業への紹介を確保。
最短でのアポイントを約束。
企業へのプレゼン。
『OS利権の優位性』
『アプリマーケットを握ることで生まれる利益』
『先駆けることの意味』
こんな内容で担当者も上役も唸らせプロジェクトがスタートすることとなる。
未来を知る立場からすれば順当な反応でしかなかったが。
当然、自らの利益もしっかりと確保して。
既にリリース可能レベルのコードを組んでいたが故にOSの発表は年内に行われて、翌年春には端末の発売も始まった。
当初の売れ行きは微妙なものだったが、徐々に伸びて行き、他社も追従したことでOSの立場は固まっていった。
そこまで見届けて、確信に至った。
学校の卒業式の帰り道。
少し回り道をした川沿いの散歩道の踏切近くのベンチに座り、もうすぐ咲こうとしている桜を少しだけ見て、目を閉じた。
ー ルピナ、もうこれでいい。
そう思考の中で呟く。
これでまた現実のところまで時間が進むのだろう、そう思っていると唐突に全ての音が消えるのを感じた。
異常を感じ目を開けると、目の前には『終了する』というボタンのようなものが。
ー ああ、そういえばそんな事言ってたな。
ルピナとの会話を思い出し、目の前のそれへ手を伸ばす。
何もないはずなのに、確かに押した感覚はあった。
輝志が手を離すと、白い渦が全てを飲み込んでいった。
渦から出ればもう見慣れて来てしまったルピナの部屋。
「これで一通り終わった、ってことでいいのか?」
ルピナの部屋へと戻り、正面に座るルピナを見つけてすぐの一言だ。
対してルピナは手を横に振り応えた。
「まだ輝志は結果の世界を見てないじゃない。それが終わって全部だよ!」
「…そうか。現実に戻って全部、か。」
「せっかく色々と変える事がるできたんだからその恩恵をしっかりと受け取るといいよ!」
そんなルピナの言葉に輝志は腰に手を当てため息を一つ吐いて返す。
「恩恵ねぇ。ある程度予想は出来るが、少なくとも心が死ぬ事がなかったこの世界線の俺がどうなってるのかは楽しみにしておくよ。」
輝志の皮肉めいたセリフに対してルピナも意図を組んでニヤリと笑いながら応えた。
「お試しだって言ったのに自分の事だけじゃなく世界にまで手を出したのは好ましいし、それに見合う結果になっていることを僕も祈るよ!」
そう言ってルピナは指を鳴らした。
すると扉が現れ、『いってらっしゃい』とでも言いたげな目を向けた。
輝志は小さく頷き扉へ手を伸ばした。
会話はもうない。
扉が開き、そして輝志はその扉へと進んだ。
その白い光の向こうにある結果の世界に、期待も不安もどちらも持って。
扉は静かに閉じ、光が少しだけ弾け、そして消えていった。
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