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鳴き止んだ夜の底で  作者: 無響 朽真


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1章6話 夢と結果と

小さな用水用の人工河川の橋の上を1台の自転車が通過する。

乗っているのは大人の女性と小さな子供。


ー 次っていきなり放り投げやがって…。これ母親だよな。懐かしいけどどのタイミングなんだ?


おそらく目的地は橋を渡った先にある小学校。

見覚えは当然ある。

そこで何をするのかもわかってる。

『夢の実現』

これが今回のメインテーマだろう。



目的地へ到着し校庭でボールを出して蹴り始める。

そう、サッカーだ。


『ボール蹴ってる時だけ本気で楽しそうな顔してる』


小中高大とそれぞれ別の友人に同じことを言われたのをよく覚えている。

それくらいに好きだったし、本気だった。

小学校卒業時点で夢としてW杯優勝と書いていたくらいだ。


ただ、どうにもならない怪我を負って本気から趣味に成り下がってしまったのが本来の自分史ではあるのだが。


精神的な体感では15〜6年ぶりのボールとグラウンド。

それだけでもう楽しさを感じてしまっていた。

身体の年齢に見合った笑みが溢れてしまう。


そうしていると思い出の彼方にいた懐かしいコーチが笛を吹いて子供たちへ集合の合図を送った。

それに従い輝志もコーチの元へと動く。

そしてその話しを聞いてようやくこの場面が一体いつの記憶のものなのかを察した。


これはこのチームに入った一番最初の練習の日だった。

学年で言えば小学一年。

そこまで把握して輝志は、


ー ここから…ってことは時間を上手く動かして行けば夢まで辿り着くことは簡単に出来そうだが、どこまでやっていいものか悩むな…。


ここは『なんでも出来る』世界である。

なのでスポーツに関して言えば簡単にチートムーブが出来てしまう。

それを良しとするか否か、輝志の揺れはそこにあった。

だが、その逡巡もすぐに終えた。


ー 俺の持ってる技術やら知識は使う。世界一のフットボーラーだ、みたいな設定チートは無しだな。俺の心情としても、おそらくルピナの意図としても…。


そう決めてしまえば後は事を進めるのみ、だ。


その日の最初の練習の中で、輝志は小学校一年としては完全に異次元のプレーを見せた。

見ていた全ての大人は天才だと持て囃し大いに騒いでいた。


その一方で、輝志自身はその賞賛を受けても何一つ舞い上がることも驕ることもなかった。

当たり前の結果でしかないのだから。

ただ、そんな姿勢がストイックに映るのか、周囲の期待は大きく膨らんでいるようだった。


ー ここから先は時間を飛ばしながら経過を見るくらいでいい気がするな…。


どこか冷めた感情を感じつつも、目的の遂行のために輝志は時を進めることを選択した。




試合に出れば圧倒的に活躍して、1試合に2桁得点を決めるのは当たり前だった。


そんな結果を残すから、上の学年の試合に出ることになった。


そこでも同じように圧倒的に結果を出した。


小学校3年の時に6年のチームに混ざり全国優勝を果たした。


この時も圧倒的な結果は変わらずに。


その翌年にはU-12の代表にもなった。


代表として海外での大会に出場して活躍し、憧れのクラブのスカウトから声も掛けられた。


誰もが天才と呼び、おそらく世界中のフットボーラー全てが羨むような順風満帆の経歴。


いつも周りは天才だと騒ぎ立てる。


点を取れば取るほどに喜んでいる。


そんな歓声も賞賛も少しも染み入ることはなかった。




当人からは本来ならあったはずの笑顔が、もう消えていた。




ー わかりきった結果は何も面白くない、か。ルピナの言葉を体感させられた気分だ。


技術も知識も経験もある大人が子供相手に手を抜かずにプレーする。

この結果は誰がどう考えたところで答えなど同じだ。

そしてそれを繰り返すのはもはやただの作業でしかない。


ゆえに輝志はここで決断した。


ー 付けれるだけの助走と補助輪付けたんだ。あとは自分で掴み取ってくれよ…俺。


ある種の哀願に近い思いを吐き出し、結果を見ることを選択した。


自分を信じるが故に。

数少ない好きだと言えることを嫌いになりたくないが故に。





目を開ければそこはまた見慣れた自宅の光景だった。

それだけで結果は悟った。


ー 少なくともプロには届くかとは思ったけどな。何がどうなったんだろうか…?


そう考えると同時にこの改変における人生がフラッシュバックした。



U-12選出後、プロクラブのユースチームへと移った。


変わらず順調に成長していた。


身体の成長に伴う少々タチの悪い成長痛。

それを隠してプレーを続けたらパフォーマンスが落ちた。


それでも結果を求められた。


だが結果が出なくなった。


周囲からの声が痛かった。


チームメイトとの関係も崩れた。


それでも腐らず、前を向いていた。


痛みを無視して慢性化した負傷が、試合中の1つの接触で致命的な負傷となった。


全治半年以上の大怪我。


トップフォームには戻らなかった。


崩れた関係も戻らなかった。


努力も続けられなくなった。


それでも過去の賞賛が忘れられずにしがみついた。

積み重ねではなく、与えられたもので得た賞賛であったことなど気付くこともなく。


そんな張りぼてでしかない才では壁を越えることが出来ずに、上の世代のユースチームへの昇格を逃した。


わかりやすい挫折。


そこから立ち直ることは無かった。



フラッシュバックが終わり一連の流れを見せられて、輝志は天井を見つめていた。


ー 結局あれだけ下駄あっても同じような怪我して腐って逃げて終わる…か。変えても変わらない。努力の積み重ねが無ければ何も残らない。皮肉なもんだ。


そんな振り返りを待っていたかのようにタイミングよく聞こえてきたのはルピナの声だ。


「また望む結果には届かなかったねー!」


「…所詮この程度だったってことだろ。何より最後までチートでたどり着いたとしてもたぶん同じ顔してたろうよ。」


「そんなやさぐれるなってー。ま、どんな世界でも与えられたものにおんぶに抱っこじゃままならないってことさ!」


「それは言えてるな。真理だと思うよ。」


「それを体感したのが収穫ってことで次行こうー!」


「まだ続くのか?」


「輝志がこれでいいって結果を得るまで続くよ。これでいいなんて思ってないでしょ?」


「…難しいもんだな。これを良しとは出来ない、ってのは認めるよ。」


「じゃあさ、次は本番と同じように輝志がテーマを決めてみようか!」


「テーマ…か。俺の過去においてそれが変わればもっといい人生になったんじゃないか、って視点でいいんだよな?」


「そういう視点でもいいよ。」


「であれば…選択かな。決定的な後悔の選択を俺は変えたい。」


「いいねー!輝志の意思を感じるよ。まぁ簡単じゃなさそうだけどね。」


「やらなきゃ進めないんだろ?ならやってやるさ。」


ルピナがクスッと笑った、そんな気がした。


「じゃ、いってらっしゃい!」


会話が終わると前回同様、ルピナが指を鳴らして白い光が渦を巻く。

唯一違うのはその渦へ自ら歩を進めたこと。



真っ白な渦が、三度全てを飲み込んだ。

もし続き読みたいと思って頂けたらブックマーク等でリアクション頂けたら幸いです!

よろしくお願いします!

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