1章4話 再構築へ
昨夜と同じ白い空間。
昨夜と違い既に整えられている対話の場。
「そんな気持ちでくつろげるはずなんてないんだし、だったら一緒に楽しい話しちゃおうよ!さぁ、座ろう!」
ルピナは手を広げながらそう言い、輝志をソファーへと誘う。
輝志もその誘いを受け入れ座った。
「今日もコーヒーでいいのかな?」
「コーヒーでいいよ。ありがとう。」
するとルピナが一瞬キョトンとした顔を見せる。
「ん?どうした?」
「いやいや、1つ学びがあっただけさ!」
そのセリフと印象の合わない笑みを浮かべながらルピナは指を鳴らした。
すると2杯のコーヒーがテーブルに。
乳白色のものと漆黒のそれとそれぞれに。
「じゃあまずは昨日の返事から聞かせてよ!」
「…ああ。俺はルピナの口車に乗ってやってもいいとは思ってる。」
「含みのある言い方だねー。で?」
ルピナの返しに対して、輝志はコーヒーを一口含んで一呼吸置いた。
「わからない事が多すぎるんだよ。少なくとも魅力的には感じている。だからこそ何をするのかさせるのかきっちり説明してくれ。」
「ほんとに堅物だなー輝志は。」
そう言いながら今度はルピナがコーヒーに手を出す。
カップを手に持ったまま輝志を見るルピナの目が輝志に口を開かせた。
「神を名乗る、語る、盲信するやつにまともなやつがいたためしは無いからな。つまり俺は俺なりにまともでありたいだけ、ってことだ。それにただルピナの口車に乗るようなやつを呼んでないんだからこの流れは正着だろ?」
その言葉にルピナはカップを置き手を叩きながら笑い声を上げながら続いた。
「まさにその通りだよ!それでこそさ!じゃあ説明…というか決めの問題かな?輝志と僕とでやっていくことの形を話そうか。」
「決めの問題…?」
「そうだよ。僕の意図は当然ある。ただそこに輝志、君の意図も意思もある方が綺麗じゃないか。」
「なるほど。さすが自称神は懐が深いな。」
「だろー!じゃあまずは僕の意図から。基本的には今の君たちの世界を良いものにするには何をどうすればいいか、って視点であって欲しい。」
「それで改変、って言い方になるわけか。であれば歴史改変っていう前提にして、その変える歴史のポイントというか事象の指定は俺が決める。これならルピナの意図に合うと思うがどうだ?」
「いいね!それで行こう。」
「ただ、これって結局弾け飛んで消滅エンドになるだけじゃないのか?要はルピナが俺を過去に送るわけなんだし。」
「そこはね、専用の空間を作ることで解決するよ!実験場、仮想地球とかそんなイメージかな?」
「それだと改変の結果を現実に反映する、ってのはそれじゃ解決にならなくないか?」
「するどい指摘だけど甘いよ輝志くん!輝志自身を書き換えの中心に据えることでそれも解決さ!」
渾身のドヤ顔を眼前にまで寄せてテンション高く語るルピナに対して、輝志は理解が進まないままだった。
そんな輝志の表情を見てルピナは察して話を続けた。
「この改変を実行するにあたって輝志の地球、僕の部屋、仮想地球とこの3つの空間を動いてる存在って誰だい?」
「俺だな。」
そう答えながらも本当にそうなのか、という疑念だけはチラつく。
自然と手を組む輝志。
そんなことは意に介さずルピナは続けた。
「そう!つまり輝志が動くのは仮想地球。そこで経験した改変の結果を、そのまま輝志という存在に上書きして戻す。これで筋は通っちゃうだろ?」
「…だいぶ強引な言いくるめ理論だな。弁護士も返す言葉無くすぞそれ。」
「弁護士に知り合いなんていたっけ?」
「残念ながら裁判沙汰になるほどの縁はないな。」
そんな軽口の応酬の中、ルピナも輝志も切り替えるためかコーヒーに手を伸ばした。
「まぁ強引なのは認めるさ。でもこれならあくまで輝志の行動の結果であって僕の意思によるものじゃない、って言い訳は成り立つでしょ?」
「言い訳と言い切るのがもはや清々しいよ。」
「そのついでにちょろっと調整して輝志にお土産つけるんだから飲み込んでおいてよ!」
「それも調整でどうにかなる範疇か?」
「ここは自信を持ってそう言えるよ!輝志の体感で説明すると、改変が終わって君の地球に戻るのは改変が成された前提で変化した世界のこの瞬間になるわけさ。つまり時間経過はない。ここまではいいよね?」
「大丈夫だ。続けてくれ。」
「そうなるとここまでの輝志の過去も書き変えられることになるよね?世界が変わってるんだから。」
「そこも飲み込めるな。」
「であればその過程を良いものに調整しておいても別に問題はない、ってことだよ。」
「なるほどな。さっきのに比べれば確かに納得は行く。それに話してて気づいたがその辺のことって俺に反証材料がないからルピナができると言うのを可能だと仮定して進める他ないしな。」
「じゃ、まぁ切り上げて次かな。他に気になるところは?」
「そもそもの改変だな。要は歴史を変えるってことだろ?ルピナの言い方をそのまま取れば俺1人でやるってこと。で、俺にあるアドバンテージは歴史の結果や未来の知識ぐらいなもんって考えたらやり切れるビジョンがなかなか浮かばないんだが。」
ルピナはこれを聞いて静かに笑いながら立ち上がった。
俯きながら、笑いながら。
少々演出くさいそれを眺め言葉を待った。
「ふっふっふっ!輝志くん!やはり甘いよ!君の地球ではなく改変の実践は仮想地球なんだ!仮想なんだよ仮想!なんでもできるに決まってるじゃないか!いわば神だ。仮想地球において輝志は僕であり神。空も飛べればか⚪︎はめ波だって打てる!こんな世界でもやり切れないと感じるかい?」
「…もはや呆れを通り越したよ。」
「どうなろうとどうでもいい実験の世界ではあるからね。これくらいでちょうどいいでしょ?」
「そういう解釈でいいのな。だったら思考誘導でもして真っ直ぐ進めることもできそうだな。」
輝志がそう言うとルピナは手を組み少し悩んだ様子を見せながら一言吐き出した。
「うーん。それは無しにして。面白くない。」
「面白くないってのはわかるが、結果に辿り着くにはそういうのが一番効率良くないか?」
「思考を強制的にコントロールして動かすってだけだとそこに輝志の試行錯誤は生まれないじゃないか。僕はそこも含めてちゃんと見たいんだよ。だから強制的な思考誘導みたいなのはダメ、絶対!」
「…わかった。違法薬物クラスのNGだと認識しておくよ。」
「あとはそんなにダメって言うようなことはないと思うけど、まぁ何かあったらその都度って感じで!」
「そこはラフなのな。終了のタイミングなんかはどうするんだ?」
「うーん輝志がそう思えばそれでこっちに戻しても良いんだけど、わかりやすくアイコンでも出せるようにするのはどう?」
「ゲームっぽいけど…まぁわかりやすいからそれでいい。ついでに改変中ルピナとコミュニケーションは取れるのか?」
「それは基本的になし。あくまで輝志の意思を見たいからさ!ただまぁ一時停止みたいなのもアイコンに入れてこっちで休憩みたいなのはあってもいいかもって思うけど入れとく?」
「一応そうしてくれ。取れる選択肢は減らしたくないしな。それと、向こうで仮に俺が死ぬようなことになればどうなる?」
「それはここに戻ってくるだけだから気にしなくていいよ!」
「なら最悪はないのか。ひとまずはやってみないと掴めないことも多そうだな。」
「確かにそうだねー!なら僕のお願いに乗ってくれたことへのご褒美も兼ねて、まずはお試しで輝志の過去を変えてみるのはどうかな?」
「俺の…過去?」
「あるだろー?変えたいこと、消し去りたい黒歴史、後悔云々。そういうのを変えてみたら今の人生変わってるんじゃないかってこと。」
「それはいくらでもある…気がするな。でもこれ思いっきりルピナの意思じゃないか?」
「あくまでお試しってことでさ!この先僕がこうやって切り出すことはないし変なことにもならないのは保証するよ!」
「それならいいんだが…。それにしても自分の過去を変える、か。こうして考えてみると何を変えていいのやら…間違いだらけな気がしてくるな。いざ変えるとなるとどこまでが後悔でどこからがあるべき自分なのか…。」
輝志はコーヒーを飲みながら一息入れた。
カップは持ったまま深く腰掛け目は遠く。
そんな様子を見たルピナはどこか楽しげだ。
そしてパッと立ち上がり提案を始めた。
「お試しのボーナスゲームなんだしサラッと行っちゃいなよ!例えば輝志は離婚をしてるじゃん?言ってしまえば恋愛における失敗。なら初恋が成就してたら違ったかもしれない。小さな頃の夢が実現に至るような道を辿っていたなら今は全然違うだろう。ってな感じでこの辺はいかが?」
ルピナのニヤけた笑いがチラつく。
輝志はため息を一つ吐き、続いた。
「まぁそんなところが妥当だな。そのニヤけ面は癪に障るが。じゃあやってみようか。」
「決まったら即行動。その姿勢は好ましいね!じゃあやろうか。」
そう言うとルピナは立ち上がり手を鳴らした。
すると1枚の黒い扉が現れた。
その前に立つルピナが目線で輝志に行動を促す。
その意を汲んで立ち上がり、扉へと歩き出す輝志。
「さぁ、いってらっしゃい。」
輝志は無言で扉のノブに手をかけ、そして開けた。
視界は真っ白、無音、無風。
目を瞑り一つ大きく息を吐き、そして輝志はその一歩を踏み出した。
過去の再構築が、静かに始まった。




