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鳴き止んだ夜の底で  作者: 無響 朽真


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1章1話 静寂の間に落ちる

そこには何も無かった。

ただ白い空間。

上も下も右も左もわからない。

立っているのか寝ているのかさえも。


死後の世界、なのか?


自分は誰だ?

音月輝志(おとづき てるし)、38歳。

離婚して独身の一人暮らし、会社務めや人間社会のストレスで弾け飛んでフリーになった零細エンジニア。

座右の銘は安眠こそ正義。

自分の家で寝ていた、最後の記憶はここだ。


…くだらないことまでちゃんと覚えてる。

少なくとも自我と記憶はあるから自分は自分だ。


で、あるならばこの異質な空間とこの状況はなんなんだ?

リアルな夢の中?

意識はっきりしすぎだ。

輪廻の場なんて言うなよ?

もう一度人間やり直せなんて御免被る。

異世界転生?

トラックに跳ね飛ばされる様式美はどこいった。


ああ…少なくとも死んだであろう、とは俺自身思ってるのか。

まぁそれならそれでも構わないというのも多分にあるんだろうが。

苦しんだ記憶はない。

だから死んだとすれば寝たまま逝ったんだろう。

これはこれでいい死に方じゃないか。

やりたいことなんて何も無かった。

なりたいものなんてもう無かった。

ただ平穏だけが欲しかった。

消えるように、まるで風化するように死ねたなら理想なことこの上ない。

もうこれ以上人間に触れずに済むならこれ以上ない平穏なんだ。

もうゆっくりして…いいのかな。


ここが死後の世界でもう死んだ後ならば

全てから解放されたならばこれで終わりでいい。

そう思った。


今の俺はきっと穏やかな笑顔なはずだ。

もう目を閉じよう。


そう心に決めて一呼吸の静寂。

静寂の中に響くのは吐いた吐息だけ。


その音が消えたその刹那、この何もない空間が破れた?壊れた?

なんの前触れもなく突然に。

形容のしようもない現象と共に目の前には異物が。


目の前に現れた異物は女の子?だ。

おそらく15〜6歳くらい。

この真っ白な空間に白い布をまとっているので視認性は悪いことこの上ない。

そして何より、無表情。

見開かれているその瞳に生気はない。

異物、という形容以外に今のところは浮かぶ言葉がない。


俺はそれを呆気に取られながら見つめるしか出来なかった。


それを見つめること数瞬、異物の瞳に色が灯った。そして、


「あ、やっと入った!ようこそ僕の部屋へ!歓迎するよ。」


訳のわからない状況が上書きされた。

返すべき言葉が出てこない。

ただ唖然としていると、目の前の異物は


「あれ?聞こえてない?それとも言葉通じてない?これで合ってるはずなんだけど…。」


人間のような戸惑いを見せた。

その反応にやっと俺の口と頭も動いた。


「失礼しました。全ての状況が理解出来ずにいたので頭が追いつかず反応が出来なかっただけなので言葉は通じていますよ。」


「それならよかったよー!あのまま君の混乱する様を観てたかったんだけど勝手に終わっちゃいそうだったから慌てて出てきちゃって。そしたら僕がフリーズしちゃったの。」


ー 見てた?観てた?いずれにせよこの異物は危険な異物だ。地雷は回避するに限る。


警報が脳内が巡る。

しかしそんな警報は次の瞬間、無に帰す。


「ちょっとー。そんな警戒しなくていいのに。せっかく呼んだ君を害することはないから安心してくれていいよ。」


ー 顔に出たか?思考が読まれて


逡巡は即座遮られる。


「違うよ。見えてるだけ。考えてること全部。だって僕は君の尺度で言うならば神だからね!」


ー 神?神だと?この異物は何を言ってるんだ?


「そもそもここは僕の部屋。どちらかと言えば君の方が異物だよ?それにこうしてちゃんと対面してるんだから普通に話そうよ!」



「それは間違いないですね。失礼な思考を謝罪致します。」


「謝罪は受け取るよ!改めて僕の部屋へようこそ。僕はルピナ!さっきも言った通りまぁ…神だよ。聞きたいことは山ほどあるだろうから存分に吐き出してくれて構わない。だけどその前に君のことはなんて呼んだらいいかな?音月輝志くん。」


理解不能のこの状況の主はおそらく俺の素性を知っていて、ルピナと名乗り、神を自称する。

思考のキャパシティはとっくに限界を超えている。

それでも会話は続く。

まるで自動運転かのように。


「ルピナ様の呼び易いよう呼んで頂いて構いません。」


ギリギリの頭が思考放棄の回答を口から吐き出す。

この最低ラインの返答に対してルピナはイタズラな笑みを浮かべて言い放つ。


「そうなるとモルモット君って呼ぶけどいいの?」


「モ、モルモット?それはやめて頂きたく。」


「じゃあどう呼べばいいのさ!?」


まるで子供のような膨れっ面だ。


「…輝志とそうお呼びください。自分の名前、好きなのでそれでお願いします。」


そう答えるとルピナは一つため息を吐いた後に満足げな顔を見せた。


「ふぁーーっ!やっと君…じゃない輝志だね!輝志の本音を1つ引き出せたよ。どんだけ堅物なんだよ全く!」


想定していなかった言葉に心のガードが1枚割れた気がした。

同時に頭も機能を取り戻し始める。

得るべきは情報だ。


「お手数をお掛けしました。状況が何も理解できないままでしたので。ここはルピナ様の…部屋ということですが、私は何故…」


ここまで言いかけたところでルピナが遮ってきた。


「あーちょっと待って!堅苦しい言い回しいらないかな。そんな事に負荷掛けることに意味ないし、何より僕には君の思考は丸見え。警戒、疑心、困惑。今の輝志にそれしかないのもわかってる。ついでに僕に対する敬意なんてないのも。だから地でいいよ。真っ当に対等に無駄のない会話しようよ!ただ飾った言葉なんて意味なく疲れるだけだし、敬意もないのに様なんて呼ばれてもゾッとするだけさ。」


強制的にガードを破壊する一撃。

乗るしか無さそうだ。


「…わかった。確かに無駄がない方が会話は楽だな。で、俺はなんでここにいる?死んだのか?」


「輝志がここにいるのは僕が呼んだからだよ。それに死んでたらこうして話すなんて出来るとでも思う?」


「つまり俺は生きてここにいて、お前の意図で今こうしてるわけだ。」


「その通り!なんだけどお前はやめてくれるかな?ルピナとそう呼んでほしい。お前も感情が伝わってきて悪くはないんだけど、僕は理性的な会話がしたいからね。」


「それは改めよう。悪かった。で、ルピナは俺を呼んだ、と言うからには…」


ここまで言うとルピナが割り込んだ。


「当然理由も目的もある。ちょっと落ち着いて話そうよ。」


言いながらルピナは指を鳴らした。

すると現れたのは2脚のソファーとその間にはテーブル。

真っ白な空間に、等距離に、綺麗にシンメトリーに。

完璧な均整の取れた空間。


「座って話そう。コーヒーでも?」


「…もらうよ。」


そんな会話をしながらソファーに腰掛ける1つと1人。

完璧な均整に混ざる異物と異物。


何も無かった空間にコーヒーがカップに注がれる音だけが響いていた。

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