プロローグ
鳴き止むことのない鈴虫たちが奏でる自然の歌声に包まれて、ようやく落ちた夜の底の先にはいつだって朝が来てしまう。
生きている限り、必ず眠りの終わりは訪れる。
それが唯一の安寧でも。
いつも通りの朝が来た。
唯一素顔でいても許される空間から外の世界へ赴く。
ドアの鍵をかけるカチッという音は切り替えの合図だ。
一体何度目なのか、考えるのを放棄したある種の諦めの切り替え。
満員電車に詰め込まれて運ばれて
上にも下にも横にも、ただただ煩わしい人間関係を壊さない為に仮面を被ってやり過ごす。
いつもと変わらない日中を過ごせば安寧の夜が訪れる。
合図と共に仮面を外し素顔でいてもいい安寧の時間と空間。
何をするわけでもない。
何に追われるでもない。
何を求められるわけでもない。
暗闇の中、時間だけが流れるそんな空間。
その繰り返し。
繰り返し。
繰り返し
繰り返し…
そんな生に意味があるのか?と問われれば即答で意味なんざないだろうと応えられる。
生きる意味なんて、戦うから、何かを追いかけるから、何か成し遂げたいから生まれるモノ。
誰にでもあるもんじゃない。
利権を貪る政治屋が国を牛耳って
意見が違えば教えを掲げて攻撃し
終わりの見えてる資源を奪い合い
それを金に換えればそれでマネーウォー
自由を掲げれば堕落だと罵られ
夢を語れば現実を見ろと否定され
正論は綺麗事と一刀両断
嘘と誘導のための言葉が飛び交い
流される映像もまた紛い物
人間社会は疲れる、疲れ果ててしまってる
それでも戦えと、弱音を吐くなと、弱いお前が悪いと。
こんな世の中で、こんな人間社会でどんな生きる意味を見い出せばいいのか。
どんな世界なら
どんな社会なら
どんな人間なら
何を求めて
何を掲げて
何を成せば
これは理想の人生だったと
ここは美しい世界であったと
望んだ全てがそこにあったと
どうすればそう思って死んでいけるのだろうか。
いずれ必ず来る死へのカウントダウンはいつだって、どんな立場の誰にだって止められない。
この不平等で、不均衡で、ありとあらゆる形の争いが尽きないこの人間社会をどう生きてどう死ねばいいのかわからない。
もし、望み通りになるようなそんな世界があるのなら満たされるのか?
答えを証明できるわけのない子供じみた問いだけが頭の中を駆け回る。
時間は深夜2時を少し回ったところ。
外に人間の音はなく鈴虫の歌声が鳴り響く。
いつもの眠れない夜はきっとまだ続く。
雲一つない漆黒の無月の夜。
自然の声だけが響き渡っている。
次の瞬間、不意に鈴虫の歌声が鳴り止んだ。
それはまるで世界が止まったかのように。
静寂の漆黒だけがそこにあった。




