第6話 シュゼットは、初デートをする
本日3回目の更新です。
レナルド様との初めてのお茶会のあと、彼は毎週末コルネイユ侯爵邸を訪れるようになった。そのため、いつの間にか週末はレナルド様とお茶会をするが習慣になった。
時を遡る前は月に1度しか会わなかったのに、なんだか不思議な感じね。
孤児院へは週に1度程度、平日の空いている時間に行って繕いもののお手伝いをしている。
以前ドレスや服飾品をまとめて売ったお金を寄付したところ、孤児院の穴が開いた床や剥がれた壁紙が修繕できたと、神父様とシスターに大変感謝された。
♢♢♢
それはレナルド様との何度目かのお茶会での出来事だった。
いつものようにコルネイユ侯爵邸でお茶をしていると、彼は「相談したいことがある」と切り出した。
「実は2週間後に母の誕生日があるのだが、私は女性の流行に明るくない。そこで、助言をもらえないだろうか?」
わたしはこの言葉に引っかかりを覚えた。
なぜなら、時を遡る前、彼から贈られた贈りものが全て流行を押さえただけの当たりさわりのない品ばかりで、わたしの好みが全く反映されていなかったからだ。
わたしはある可能性を思い至り、レナルド様に尋ねる。
「レナルド様、もしかして女性への贈りものは流行りのものを贈ればよいと思っていらっしゃいます?」
「……違うのか? 女性は流行りものを好むのだろう?」
「大いに違いますわ! 確かに流行りものを好む女性は多いですが、皆が皆そうではありません! 贈りものとは相手のことを思って贈るものですわ! 流行を押さえただけの当たりさわりのないものなど『あなたに興味がありません』と言っているようなものですわ!」
時を遡る前にいただいた贈りものへの不満も込めたわたしの力説に、レナルド様は「そうだったのか……」と呆然とつぶやいた。
「わたしは公爵婦人のことをなにも存じ上げません。そのため、現状では有益な助言はできませんわ。公爵婦人はなにを好まれますの?」
「母の好むもの……そう言えば、最近はよく刺繍をしているな」
「でしたら、刺繍糸はいかがですか? わたしも刺繍を嗜みますが、珍しい色合いの糸があると創作意欲が湧きますもの」
「なるほど。もし君の時間が合えば、一緒に刺繍糸を選んでもらえないだろうか?」
「もちろんですわ」
こんな程度では到底贖罪にはならないけれど、レナルド様には返しきれないほど大きな借りがある。だから、彼からの依頼ならば全て快く引き受けるつもりだ。
「ありがとう」
こうしてわたしとレナルド様は翌週末に王都の手芸用品店に行くことになった。
♢♢♢
レナルド様と手芸用品店に行く日。
わたしはエメによって念入りに化粧を施されていた。
「エメ、いつも通りで大丈夫よ。ちょっとお買いものに行くだけですもの」
「まあ、シュゼット様! 『ちょっとお買いものに行くだけ』だなんて! 本日はレナルド様との初めてのデートではございませんか!!」
「え!? これってデートなの? レナルド様のお母様のお誕生日の贈りものを一緒に買いに行くだけよ」
「目的はなんであれ、一緒にお出かけなさるのですもの、立派なデートですわ! お任せください、シュゼット様! いつも以上に素敵にしてみせますわ!!」
そう意気込むエメの勢いに負けたわたしはなにも言えず、彼女にされるがまま支度が済むのをただひたすら待った。
「できましたわ!! シュゼット様、とてもうつくしいですわ!」
ようやく支度が済んで鏡を見たわたしは驚いた。
華やかながらどこか清楚な雰囲気のご令嬢に仕上がっていたからだ。
今日は白いレースやリボンがあしらわれたミントグリーンのドレスだ。いつもおろしている髪は丁寧に結ってまとめて、ドレスと同じミントグリーンのリボンと白い花が飾られている。ネックレスとイヤリングは繊細なデザインのエメラルド。
ひと仕事終えて満足そうなエメにはとても言えないけれど、これは気合が入りすぎではないかしら?
そう思ったのはわたしだけではないようで、コルネイユ侯爵邸に迎えに来てくださったレナルド様は、玄関ホールでわたしの姿を見た途端、目を見開いた。
「ごきげんよう、レナルド様。あの、どうなさいましたの?」
「……ああ、いや、済まない。つい見惚れてしまった」
「え」
「私は女性を褒めるのに不慣れで上手く言えないが、今日の君はとてもうつくしいと思う」
「……! ありがとうございます」
まさか褒めていただけるとは思っていなかったので、反応に困ってしまった。気のせいか顔が熱い。
ふと気づくと、エメをはじめとした見送りの使用人達から微笑ましそうな眼差しを向けられていた。
いたたまれなくなったわたしは、その視線から逃れるようにして、差し出されたレナルド様の腕に手を添える。
「レナルド様、さっそくまいりましょう!!」
レナルド様の手を借りて馬車に乗り込み彼の隣に座ると、わたしはあることに気がついた。
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