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第4話 シュゼットは、慈善活動をする

 エメに手伝ってもらいながら、衣装部屋をところ狭しと埋めるドレスや服飾品の中から、流行を過ぎたもの、成長して着られなくなったものを次々見繕っていく。


「シュゼット様、こちらのドレスはどうなさるのですか?」

「教会に寄付をしようと思うの。明日、この中から取り敢えず5着ほど売ってきてくれない?」


 教会で侯爵令嬢のドレスが入用になることはないだろうから、お金に替えてそれを寄付するつもりだ。

 お父様に頼めばコルネイユ侯爵家名義で寄付することもできるだろうけれど、それはしたくはなかった。


 元をたどればドレスも家のお金で買ってもらったものだけれど、少なくとも「わたしの所有物」から出したかった。


「かしこまりました。ですが、急にどうなさったのですか?」

「わたし、慈善活動に目覚めたのよ! お金の用意ができたら、さっそく教会の孤児院へ行きましょう!」


 本当は将来のために修道院に寄付したかったけれど、リヴィエール王国国教の修道院は、わたしが今いる王都にはない。

 王都は王侯貴族と比較的裕福な平民が住んでいるためだ。


 そんな王都にも親を亡くした子供のために教会付属の孤児院があり、今回はそこに寄付するつもりだ。


 実はこれも贖罪の1つのつもりだったりする。


 過去に戻ったため、わたしのしたことはまだ起きていないし、今回は絶対に起こさないつもりだけれど、わたしの中の罪の意識は消えなかった。


 やってしまったことを今さら悔いてもどうしようもない。だからせめて善行を積んで罪滅ぼしをしようと思ったのだ。


「それでしたら、孤児院の子供達用に一緒に焼き菓子をお持ちした方がよろしいかもしれません。王都には裕福な平民が多いですが、それでもお菓子などははたまにしか買えませんから」

「そうなのね! 教えてくれてありがとう、エメ」


 エメにドレスの換金と焼き菓子の用意を依頼して、彼女が部屋をあとにすると、どっと疲れが出た。


 今日は怒涛の1日だったわ。


 なにせ、気がついたら地下牢から自室にいて、時が遡ったことを知って、午後にはレナルド様との初顔合わせがあって、その後は今後について考えたり、ドレスの整理をしたり。

 気力も体力も尽きそうだ。


 そのため、夕食後すぐに入浴をして、いつもよりかなり早めに眠りについた。 



 ♢♢♢



 それから3日後。


 わたしはエメと護衛の騎士を連れて、馬車で王都の教会へ向かった。


 王都には東教会と西教会の2つの教会があり、それぞれ孤児院が併設されている。

 どちらも建国当初からある歴史の古い教会だけれど、王都の東部の方が西部より栄えていることもあり、東教会の方が立派だった。


 わたしが向かったのは普段家族と行く東教会ではなく、西教会の方だ。


 先触れを出していたたため、教会の前で神父様がわたし達の到着を待ってくださっていた。

 出迎えてくださった神父様は、茶髪に青い瞳の柔和な雰囲気の青年だった。

 穏やかな笑みを浮かべた神父様が挨拶を述べる。


「ようこそお越しくださいました、コルネイユ侯爵令嬢。私はこちらで神父を務めております、フロラン・ベルニエと申します」

「ごきげんよう、ベルニエ神父様。わたくし、シュザンヌ・コルネイユと申します。こちらはわたくしの侍女のエメと護衛のジャンです。本日は教会で祈りを捧げたあと、孤児院を拝見させていただければと存じます」

「かしこまりました。ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」


 神父様に案内されて足を踏み入れた西教会は東教会と同じ造りだった。

 長い歴史のせいかそこかしこが傷んでいたけれど、きれいに清められていたので、そのうつくしさは損なわれていない。

 東教会が豪奢なら、西教会は素朴な雰囲気だった。

 祭壇に飾られているのも野の花のようだ。


 わたしは祭壇の前に跪くと、しばしの間、祈りを捧げた。



 ♢♢♢



 神父様は続いて孤児院の応接室に案内してくださった。教会同様にこちらもそこかしこが傷んでいたけれど、清潔に保たれているようだった。


 ここで本日の目的である寄付金の入った袋と焼き菓子を渡すと、神父様に大変恐縮されてしまった。


「コルネイユ侯爵令嬢のご厚意に感謝申し上げます。恥ずかしながらご覧の有様でして、子供達を飢えさせないようにするので手一杯なのです」


 そう言って神父様が目を向けたのは応接室の剥がれかけた壁紙だ。

 応接室ですらこの有様だということは、居住空間は推して知るべしだろう。

 聞けば、西教会の孤児院を支援しているのは神父様のご実家のベルニエ子爵家のみだとか。


 これは継続的に寄付をした方が良さそうね、と思ったその時。


「ねえ、もうちょっとつめてよ! おひめさま全然見えないじゃない!」

「ちょっと、押さないでよ!」

「「「「「うわぁ!?」」」」」


 急に扉が開いて、4〜5人の子供達が部屋に雪崩れ込んできた。

 どうやら薄く開けた扉の隙間から様子を伺っていたらしい。


「いたた……もう! ドニが押すからだよ〜」

「ララだっておひめさま見たいって言ってたじゃん」

「こらこら、お客様の前ですよ。コルネイユ侯爵令嬢、申し訳ありません」

「いいえ。みんなとても元気ね。もしよろしければ、みんなのおうちを案内してくださる?」

「うん! まかせて!!」

「おひめさまは、なんていうおなまえなの?」

「お姫様ではないけれど、シュザンヌ・コルネイユというの。シュゼットと呼んでちょうだい」

「シュゼットさま!!」

「そうよ、よろしくね!」

「シュゼットさま、気をつけて! そこの床、穴があいてるの!!」


 神父様と子供達の案内で孤児院内を見て回わると、床にはいくつか穴が空いていたり、壁紙が剥がれていたりしていたけれど、そのほとんどが修繕されていなかった。


「シスター見て! おひめさまがきてくれたの!!」

「シュゼットさまって言うんだって!!」


 廊下の奥の部屋の前で子供達が声を上げたので、中を覗いてみると、70代くらいだろうか、ずいぶんご高齢なシスターがテーブルの上の衣類の山を前にして縫いものをしていた。


「おやおや、これはこれはきれいなお嬢様だね」

「シスター、どうぞ座ったままで。わたくし、シュザンヌ・コルネイユと申します。こちらは侍女のエメと護衛のジャンです。縫いものをなさっていたのですか?」

「ええ、そうですよ。ただ年のせいか目が悪くてなかなか上手くできなくなってしまいましてね。今では糸を通すのも一苦労なのです」

「よろしければ、お手伝させていただきますわ」


 貴族令嬢の嗜みの1つに刺繍がある。そのため、わたしにも手芸の心得があった。


「みんな、案内をしてくれてどうもありがとう! わたしはシスターのお手伝いをさせていただくから、みんなはおやつにしてちょうだい! 焼き菓子を持ってきたの!」

「え!? お菓子!?」

「やったぁ!!」


 我先にと食堂へ駆けていく子供達を見送って、エメに準備の手伝いをお願いする。


 残った私はシスターの手ほどきを受けながら、ひたすら傷んだ衣類を繕う。


 そうして陽が傾くまで繕いものをして、子供達の「シュゼットさま、またきてね!」という声に見送られて孤児院をあとにした。




「うーん、さすがに疲れたわね」


 馬車の中で大きく伸びをする。

 ずっと繕いものをしていたので肩が凝ってしまった。


「シュゼット様、お疲れ様でございます。お帰りになりましたら、疲れに効くハーブティーでお茶にいたしましょう」

「ええ、ありがとう。確かに疲れたけれど、とても充実した時間だったわ」


 わたしは侯爵令嬢なので、使用人になにもかもしてもらえる立場だ。

 だから、人のために自らが動いたのは、もしかしたら初めてかもしれない。


「人のために行動するのって、とても満たされた気持ちになれるのね」


 慈善活動は贖罪の1つのつもりだったけれど、こんなにも満たされた気持ちになれるなんて。

 とても素晴らしいわ。

 これからも是非続けましょう。


 わたしは心地良い疲れと満たされた気持ちで家路についた。

本日もあと2回、15時と18時に更新予定です。

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