第11話 シュゼットは、ベルクール公爵領に行く
7月に入り、レナルド様の通うリヴィエール王立学園が夏期休暇に入った。
それに伴い、レナルド様は3日と空けずコルネイユ侯爵邸を訪れるようになった。
わたしもたまにベルクール公爵邸に伺うようになったので、レナルド様とのお茶会は週に1度から週に2〜3度に増えた。
もちろん週に1度の慈善活動も続けている。
最近では繕いものが終わったので、料理や掃除のお手伝いも少しずつさせてもらえるようになった。
まだまだシスターや子供達に教えてもらうことの方が多いけれど、婚約解消までまだ1年弱あるので、少しずつ1人でできることを増やしていくつもりだ。
それに加えて、空いた時間はひたすら刺繍作品を作っていた。
不要なドレスや服飾品は先日まとめて売ってしまったのでもうない。
今後は私のお小遣いの3割程度を継続して寄付する予定だけれど、金額を少しでも増やすために、作ったものを売ってお金にするつもりだ。
そうして慌ただしく過ごしているうちに、あっという間にベルクール公爵領の別荘に行く日になった。
朝、レナルド様はコルネイユ侯爵邸まで馬車で迎えにきてくださった。
わたしとレナルド様を乗せた馬車と、エメと荷物を乗せた馬車の2台と、それらを警護する数名の護衛の騎馬がコルネイユ侯爵邸を出発する。
馬車がしばらく走って王都を出ると急に人家はなくなり、街道沿いには広々としたライ麦畑があらわれた。
夏の鮮やかな青空とたわわに実ったライ麦畑の黄金色の対比がうつくしい。
「わたし、王都を出るのは久し振りですわ!」
「そうか。別荘のある湖は領都よりも手前にあるから3時間ほどで着く」
思いがけずはしゃいだ声を上げてしまったわたしを、レナルド様が微笑ましそうな目で見つめる。
気恥ずかしくなったわたしは居住まいを正して話題を変えた。
「レナルド様はよく別荘を利用されますの?」
「いや、最後に行ったのは確か子供の頃だったな。両親は度々利用しているようだが」
確かに馬車で3時間は気軽に行くには少し遠い距離だ。
「まあ、そうでしたの。では、久し振りの別荘は楽しみですわね」
「ああ、君と別荘で過ごせるのはとても楽しみだ」
そう言ってレナルド様は淡く微笑んだ。
時を遡る前と比べて、レナルド様はよく笑うようになった気がするわ。
そんなことを考えながら、馬車の車窓を流れる景色を眺めたり、レナルド様と他愛のない話をするうちに、あっという間に3時間が過ぎたようで、ベルクール公爵領の別荘に着いた。
先に降りたレナルド様の手を借りで馬車から降りると、清々しい森林の香りがした。
別荘の前には大きな湖が、背後には青々とした森が広がっていた。
「わぁ、素敵……!」
別荘とのことだけれど、王都のコルネイユ侯爵邸と同じくらい大きかった。
この別荘には3日間滞在する予定だ。
到着した今日は別荘でゆっくり過ごし、翌日は別荘周辺を散策して、3日目の朝にこちらを出発するスケジュールになっている。
別荘に着いて荷物を片付けると、わたし達は2階のバルコニーで昼食をとることにした。
眼前に広がる大きな湖と、凪いだ湖面に映る青々とした森の木々がうつくしい。
「なんて素敵なのかしら……! 素晴らしい眺めですね!」
「気に入ったのなら、朝食と昼食はこちらでとろうか」
「ええ、是非!」
うつくしい風景の中でレナルド様との会話を楽しみながら食べる食事はとてもおいしかった。
昼食後はレナルド様が別荘内を案内してくださった。
王都のベルクール公爵邸は豪奢で格式高い造りだったけれど、こちらの別荘は落ち着いた温かみのある雰囲気だった。
中でもグラジオラスをはじめとした、色とりどりの鮮やかな夏の花々が咲き乱れる中庭が一際うつくしかった。
別荘を見て回った後は、夕食までカードゲームをして遊んだ。
「レナルド様は強すぎますわ……!!」
「シュゼットは、すぐに表情に出るからわかりやすいな」
レナルド様は鉄壁の無表情で、何度やっても1度も勝てなかった。
穏やかな時間がゆっくりと過ぎていく。
別荘に着いてからもうずいぶん経つ気がするのに、窓の外はまだ明るかった。
わたし達は少し早めの夕食をとると、明日に備えて早めに休むことにした。
慣れない部屋で寝られるかしら?
と心配したけれど、意外と疲れていたらしく、ベッドに入ったらすぐに眠りに落ちてしまった。




