3話
「あの! すいません!」
さっそく愛しの先輩に話しかける愛美。うん、なんか凄い綺麗な顔立ちをした中性的なイケメンだ。線も細いし、きっと女装したら普通に美人になる思う。
というか、さっき愛美が先輩を好きになった理由を言ってたけど…普通に顔の影響も大きいのでは?
嫌だ、あの子ったら面食いだったの?
でも、よく考えたら今の彼女と助けた時の姿が違いすぎて気づかないんじゃ?
「あ、この前の」
「え、アタシのこと分かるんですか!?」
「うん。鍵を落としちゃった子でしょ?」
「はい! そうです!」
凄いなあの先輩。
劇的なビフォーアフターをした愛美に気づくなんて。私ですら一瞬のあいだ誰だか分からなかったのに。
気づいてもらったのが嬉しいのか満面の笑みを浮かべる愛美。その姿は同性から見ても凄く可愛い。
「先日は助けて頂いてありがとうございました!」
「僕が役に立てなら良かったよ。あの後は無事に帰れた?」
「はい! お陰様で無事に帰れました!」
「もう失くさないように気をつけるんだよ」
「はい。それで、この前のお礼をしたいんですけど」
「お礼を? 別に僕がしたくてしただけだから気にしなくても大丈夫だよ」
おお、ノータイムで断った。今の愛美からの誘いを断るなんて普通の男ならなかなか出来ない。
さすがはイケメン。きっと女性に対しての経験値が高いんだろう。
「それじゃあアタシの気が済まないんです!」
まあ、お礼という理由が使える今が先輩との関係性を作る最大のチャンスだもんね。
「先輩のお時間がある時にお食事にでも行きませんか?」
「うーん」
考えるそぶりを見せる先輩。あんまり反応は良くなさそうだ。
「駄目ですか?」
あざとい!
甘い声を出しながら顔を少しだけ右に傾けて上目遣いで聞く愛美。
あんたがそんな声出してるの初めて聞いたわ。
しかもなんかやり慣れてない? もしかして中学ではそんな感じのキャラだったの?
「勘違いだったら申し訳ないんだけど…」
「はい」
「もしかして……僕のこと恋愛的に好きだったりする?」
凄いな先輩。普通はそう思ってても言わないよね?
これで愛美に違うって言われたらただの勘違い野郎だよ?
まあ、違くはないんだけど。
「…す、好きです! 先輩の事が好きです!」
そして愛美も大胆だな。
素直に好きだと伝えるなんて。私なら違うって言ってるかもしれない。
「ごめんね」
「…」
「誤解させてごめんね。こう見えて僕の性別は女なんだ」
「え?」
え?
予想外すぎて愛美と台詞被っちゃった。
確かに女装が似合いそうなイケメンだなとは思ったけど…
「だからごめんね」
そう言って先輩は去って行った。残るのは呆然とその場で固まる愛美。
「あー、また被害者が」
「男の俺より告白されてるよ…」
「あー! 羨ましい! 俺もモテたい!」
「好きだ! 付き合ってくれ!」
そして途中から野次馬と化していた3年生たちだった。
・・・
動けない愛美を連れて私は自分たちの教室に撤退した。
「えーと」
どうしよう?
対人経験の低い私にはこういう時にどうすればいいか分からない。
「決めた!」
私が彼女をどう慰めるか考えていると、目の前から何かを決意したような力強い愛美の声が聞こえてきた。
「葉月ちゃん! アタシ決めたよ!」
「うん、どうしたの?」
「恋愛に男も女も関係ない! やっぱりアタシは先輩が好き! だからどんどんアプローチしてくよ!!」
「そ、そっか。愛美がそうしたいならいいと思う」
「うん! ありがとう! それにもう好きバレしてるんだし、逆に積極的にアタック出来るよ! これでアタシに失うものはないからね!」
「じゃあ、帰りにパフェで作戦会議でもする?」
「する!」
こうして愛美の先輩に対するアプローチは始まった。
別に恋愛には興味なかったけれど、彼女の事を見ていたら私も恋してみたいななんて漠然と思った。