2話
「それでどういう心境の変化?」
昼休み。私たちは教室から抜け出して屋上に来ていた。
あのままクラスに居座っていたら間違いなく他の生徒たちに愛美が質問攻めにあっていただろう。
「うーん? なんというか」
人差し指を顎に当てて、いかにもアタシ考えてますって言うポーズを取る愛美。
今までもこういう仕草をする彼女を見たことはあるが…美少女に生まれ変わった愛美がすると何だかあざとい。そして可愛い。
「なんというか?」
「恋しちゃった」
「恋?」
「本当に好きな人が出来たの。今までの人生で1番の恋かも……だから好きな人の前で今までみたいな格好は見せたくないし、可愛いアタシを見せたいって」
「な、なるほどね」
あまりにも愛美が真っ直ぐな瞳で言うもんだから、私はどういう風に返事を返すのが正解なのか分からなかった。
そもそも私には人を本気で好きになった経験がない。だから恋愛のアドバイスなんてものはできないかもしれない。
それでも彼女の力になりたいと思った。
「私には恋愛とかよく分かんないけど、力になれる事があったら言ってよ」
「ありがと葉月!」
「う、うん。それで、愛美が好きなのはどんな人なの?」
「3年の先輩だと思うの」
「そうなんだ」
「ネクタイの色が赤色だったから」
うちの高校は学年によって身につける物の色が違う。今の3年生は赤色で私たち2年は青。そして1年は緑だ。
「じゃあ、まずは先輩を探すところからだね」
「うん。放課後になったら探すつもり」
「私も協力するよ」
「本当に! ありがと葉月!!」
「それで、愛美はどうしてその先輩に惚れたの?」
「えー、聞きたい?」
「うん。聞きたい」
ぶっちゃけ凄く気になってる。思ったよりも私は恋バナが好きなのかもしれない。
「困ってるところを助けてもらったの」
「困ってるところを?」
「そう。家の鍵を落として困ってたら一緒に探してくれたの。その日はちょうど両親が旅行に行っていた日だから本当に助かったの」
「危なかったじゃん」
「うん。それで最終的に先輩が見つけてくれたの」
「無事に見つかって良かったよ」
「先輩に探してもらったからね。アタシみたいな見た目の女にでも嫌な顔一つしないで手伝ってくれたのが嬉しくて」
「それでその先輩を好きになってしまったと」
何だか漫画みたいな話しだな。ピンチのヒロインをヒーローが助けて恋が始まるなんて。
「我ながら単純だなとは自分でも思うんだけどね」
「別にきっかけなんてなんでもいいんじゃない」
「うん」
・・・
放課後。
私たちは例の先輩を探しに3年生の教室がある3階へと向かう。
うちの高校は学年が上がるたびに階が1つ上になるから、遅刻ギリギリ組の私としては、来年からより時間がシビアになる。
「それじゃあ行きますか!」
これから自分の思い人を探しにいく愛美は気合い十分だ。
「うん。急がないと帰っちゃってるかもしれないしね」
「そうなんだよね。だからなるべく早く見つけたい」
「じゃあ、愛美の王子様を探しにいきますか」
さっそく私たちは手前の教室から順番に目的の先輩が居ないか探していく。
当たり前のことだけど、3階に居るのはほとんど3年生で見知らぬ空間というのは少し緊張する。
「なかなか見つからない」
思い人が見つからずしょげたような表情をする愛美。
私たちの高校は1学年が大体8クラスぐらいだ。既にその半分の4クラスを見たけど見つからない。
「まあ、見つからなかったら明日の昼休みも手伝うよ」
それに、ここまで来たら私も愛美の思い人がどんな人なのか気になるし。
「本当に!? ありがとう葉月!」
「はいはい。だから諦めずに探そ」
「うん! 絶対に見つける!」
「それでどんな人なの?」
よく考えたら私は愛美に付き添っているだけでその先輩の特徴を知らない。どんな髪型でどんな雰囲気の男なのか。イケメンなのかそうじゃないのか。
「えっとね。あ!」
「え、どうしたの?」
愛美が急に大きな声を出すからビックリした。
「居た!」
「ちょ、置いてかないでよ!」
きっと愛しの彼を見つけたのだろう。愛美は私のことをぽっぽいて一目散に駆けて行った。
恋する乙女恐るべし。