1話
「おい、誰だよあの子?」
「うちのクラスにあんな美少女いたか?」
「見たことないぞ」
今日は某ハンバーガーチェーンの朝マッドで朝食を食べて来たからいつもよりも早めの時間に学校に到着した。
その為、ホームルームが始まるで寝ていようと思っていたのだが……朝っぱらからクラスメイトたちがうるさい。
「葉月ちゃんおはよう」
そんな風に周りの五月蝿さに迷惑していると、私の学校生活において唯一の友達である三田愛美の声が聞こえた。
普段は私よりも早く学校についている彼女がこんな遅刻ギリギリの時間に来るのは珍しい。
普段の愛美はホームルームが始まる20分前には学校に着いている事が多く、逆にアタシは遅刻スレスレに来る常連なので何だか新鮮だ。
何が悲しくて学校なんかに早く着かなければ行けないのか。今日だって本当はもっと朝マッドで優雅なひとときを過ごす予定だったのに、両隣に同じ高校のカップルが座るとかいう緊急事態が発生したせいで予定より早く店を出る事になったのだ。
く…私に見せつけるように「あーん」とかしやがってあのカップルたちめ。
店の中で不純異性交遊を堂々とするなんてけしからん。そんな風に熱々なのも今だけで、どうせ1か月も経たずに別れるに決まってる。
と、こんな感じに目の前でカップルにイチャイチャされるとムカつくが、今のところ私は恋をした事がないし、恋愛についてもあまり興味がない。
「おーい葉月ちゃん?」
しまった。不覚にも朝のカップルたちのせいで愛美に返事するのを忘れていた。
とりあえず愛美に挨拶をする為に顔を上げる。
「うん、おは……よう?」
うん?
目の前の美少女は誰だ?
「え! 愛美!」
どうしよう…
たった2日合わなかっただけで私の友達がとんでもないビフォーアフターしてるんですけど!?
・・・
朝のホームルームが終わり1時間目が始まるまでの隙間時間。私はさっそく隣の席に座る愛美に話しかける。
「ねぇ、愛美」
「うん、どうしたの?」
唐突なビフォーアフターを遂げた愛美を見つめるクラスメイトたち。その視線を感じながらも私は彼女に問う。
「えーと…」
しかし、いざ話しかけてみると、これは聞いていいことなのか不安になってきた。
これだけのビフォーアフターをしたという事は彼女に何かあったということだ。
「葉月が聞きたいことは分かるよ」
「え」
「アタシがイメチェンしたことでしょ?」
「うん」
愛美の変化はイメチェンどころの話しじゃない気がするけども…
ほんの数日前までの愛美は前髪が口元付近まであって、そこにマスクとメガネという風貌でお世話にも可愛いと言えるルックでは無かった。
それが学校に来てみたら髪はスッキリして、マスクも眼鏡も外して素顔が露わになっていた。
いや、私は気づいてたよ?
愛美の素顔が本当はとんでもない美少女だということは。
そんでもって女子を捨てたような見た目と違ってコミュが高いことも。
だって愛美とは1年以上の付き合いだから。
だから、素顔が可愛いのにあんな貞子みたい髪型をあえてしているのは、中学時代に何かあったからなんじゃないかと思ったりもしていた。
彼女が地元から離れた高校を選び、一人暮らししてるのも私がそう思った理由の一つだ。
でも、それをわざわざ本人に聞こうだなんて思わないし、誰にだって話したくない過去はある。
本人が話したいと思ってくれたのならともかく、それを私が無理に聞き出すのは違うだろう。
そもそも私たちの会話には驚くぐらい中学時代のエピソードが出てこないのだから。
それはきっとそういうことなのだ。
「今はあんま時間ないから昼休みに話すね」
「分かった」
「そんなに聞きたい?」
「うん」
とはいえ、1年以上も貞子状態で過ごしてきた親友が急にビフォーアフターなんてしたら気になってしまってもしょうがないだろう。