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月のしずく

作者: 古数母守

 満月の夜、森の奥の泉に三人の妖精たちが集まっていました。妖精たちは大きな葉っぱの上で輪になり、頭上で燦然と輝くお月様を見上げていました。

「お月様、お月様。月のしずくをくださいな。きれいなしずくをくださいな」

妖精たちはいつものようにお月様に向かってお願いをしました。すると不思議なことに月からしずくが落ちて来ました。妖精たちは葉っぱに落ちたしずくを拾い上げ、腰に結んである小さな壺の中に大切にしまいました。それは満月の夜にひとしずくしか手に入らないとても貴重なものでした。しずくには強力な魔法の力が宿っており、それを手にした者たちの願いを叶えてくれるのでした。

「これで僕はフルーツが盛りだくさんのケーキを食べよう」

「私はターコイズブルーのワンピースが欲しい」

「僕は樫の木でできた丈夫な杖が欲しい」

せっかちな妖精たちはさっきしまったばかりのしずくを壺から取り出して、思い思いの願いを口にしました。そうするとそこにおいしそうなケーキ、きれいな服、素敵な杖が現れました。願いを叶えるとしずくはうっすらと消えて行きました。妖精たちは欲しいものを手に入れて喜んでいましたが、せっかく手に入れたしずくが無くなってしまって少し残念な様子でした。

「月のしずくがもっとたくさん集められたらなぁ。そうすればもっと願いが叶うのに」

「仕方がない。次の満月まで待とう」

そう言いながら妖精たちは森の奥深くへと帰って行きました。

「すごい・・・」

その様子を木の陰に隠れてじっと見ていた女の子がいました。妖精たちは願い事に夢中で、自分たちが見られていたことにはまったく気が付きませんでした。


 そして次の満月の夜がやって来ました。

「お月様、お月様。月のしずくをくださいな。きれいなしずくをくださいな」

妖精たちはいつものように輪になって踊りながら、お月様にお願いをしました。そうすると月のしずくが空から降って来て、葉っぱの上に落ちました。妖精たちがそれを拾い上げようとした時、人間の女の子が出て来て三人の月のしずくを掴んだかと思うと、一目散に村の方へ駆けて行きました。

「何だ?」

「何が起こった?」

「月のしずくが盗まれてしまった」

妖精たちはとても驚きました。そして月のしずくを取り戻すため、女の子の後を追いかけて行きました。


 女の子は必死に走って、ようやく家にたどり着きました。そしてお母さんの部屋に駆け込みました。女の子のお母さんは病気でずっとベッドに寝たきりでした。

「お母さんが良くなりますように」

すぐに女の子は願いを言いました。それも三回です。月のしずくは願いを叶えると自然に消えて行きました。

「あ~月のしずくが・・・」

追いかけて来た妖精たちは女の子が願い事を口にするのを見ていました。

「ひどいじゃないか?」

妖精たちは女の子を責め立てました。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

女の子は謝りました。でも月のしずくはもう戻ってきませんでした。その時、寝たきりだった女の子のお母さんがベッドから起き上がりました。まだすっかり元気とは言えませんが、なんとか歩けそうでした。

「良かった・・・」

その様子を見ていた女の子は涙ぐんでいました。妖精たちはそれ以上、何も言うことができなくなってしまいました。

「仕方がない。次の満月まで待とう」

そう言って妖精たちは帰って行きました。


 そして次の満月の夜がやって来ました。

「お月様、お月様。月のしずくをくださいな。きれいなしずくをくださいな」

妖精たちはいつものように輪になって踊りながら、お月様にお願いをしました。近くに女の子が隠れていないか気を付けながら、お願いしていました。月のしずくが空から降って来て、葉っぱの上に落ちました。妖精たちは急いで集めました。また横取りされてしまってはたまらないと考えていました。けれども今日は、女の子は来ていませんでした。

「女の子のお母さんは元気になったかな?」

「歩けるようにはなったみたいだけど」

「もっと元気になるといいな」

妖精たちは互いに顔を見合わせました。そして先月と同じように女の子の家へと飛んで行きました。


 女の子は家でぼんやりと月を眺めていました。もっと月のしずくがあればと思っていました。でもあれは妖精たちの大切なものだから盗んではいけないということも理解していました。やがて何か小さなものが羽ばたく音が聞こえて来ました。森の方から妖精たちがやって来たのでした。

「お母さんが良くなりますように」

妖精たちは言いました。願い事を聞いた月のしずくはうっすらと消えて行きました。女の子のお母さんはすっかり元気になりました。

「ありがとう、ありがとう」

二人はそう言いながら、何度も妖精たちに感謝していました。


「お月様、お月様。月のしずくをくださいな。きれいなしずくをくださいな」

妖精たちはいつものように輪になって踊りながら、お月様にお願いをしました。また今夜も月のしずくが空から降って来ました。妖精たちは葉っぱの上の月のしずくを集めようとしました。

「すごい。三滴もある」

今夜は一人三滴ずつ月のしずくを集めることができました。その頃、女の子の家では女の子とお母さんがお月様にお祈りをしていました。

「お月様、お月様。今日が妖精たちにとって良い日でありますように」

心のこもった二人の願いはどうやらお月様に届いたようでした。

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ほっこりとするお話しでした♪
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