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04.幼稚園の女王に君臨する②

 ある日、事件は起こった。私は汽車の運転席から更によじ登り、運転席の屋根に上がっていた。そして、足を滑らせて屋根から落ちたのだ。落ちた先には園児がおり、下敷きにしてしまった。下敷きになった園児は頭を縫う程の怪我をしてしまい、私も顔を大きく擦りむく怪我を負ってしまった。


 父と母は相手の親御さんに謝りに行った。しかし、そこで私が日頃から遊具を独占したり周囲の子に威圧的に振る舞っているという話があがり、これは大きな問題となった。


 「周りの子に迷惑をかけるくらいなら、幼稚園をやめてお前が面倒を見ろ」


 今回の件で、父は母を酷く責めた。母も、父には何も言い返せずであった。


 また迷惑をかけてしまったという事実が、託児所の苦い思い出を呼び起こした。あのとき、迷惑な子と呼ばれていたのは、託児所が悪かった訳ではなく、決定的な原因が自分にあるのだと、私は思った。そして、せっかく最近は平穏だったのに私のせいで父と母の関係が悪くなってしまったということが、何より怖かった。


 『他人に絶対に迷惑をかけてはいけない。』


 私に鉄の掟ができた。そして、私にとっての『迷惑』とは、他人の主張や要望をねじ曲げてまで自身の思いを通すことであると、そのような感覚をこの時から持つようになった。この感覚は、この先20年以上、夫に出会うまで私の精神の土台、全ての活動に対する行動指針となった。





 汽車から落ちたときにできた顔の傷もすっかり癒えたころ、私は年長になっていた。もう他の園児を押し退け、遊具やおもちゃを使うことはない、周囲に気を使えるお姉さんに私は進化していた。私は常に元気でありつつ、振る舞いは優しい素敵なお姉さん(年長)であるという、先生からも園児からも好かれる子になっていた。


 ここまでの成長の経緯に関して思うところは多少あるが、『他人に迷惑をかけない』は大事な心構えであった。父と母には感謝をしている。私は、いわゆるいい子に育った。





 「誕生日に欲しいものある?アカネは幼稚園でも頑張ってるし、そろそろ小学生のお姉さんになるから、何でも、欲しいもの言ってみなさい」


 ある日、急に父からそんなことを言われた。機嫌が良かったのか、本当になんでも買ってもらえるのであろうか。しかし、父と母の仲が悪くなるのは『お金』と『私』が原因だ。高いものをおねだりするのは良くない…


 悩んだ末に、「小学生のお姉さんになるから」という父の言葉を思い返し、


 「お姉さんになる!妹が欲しい!」


 と咄嗟に答えた。幼稚園でも他人に優しくして感謝されたり慕われる心地良さを覚えていた私は、妹ができたら優しく接しもっと素敵なお姉さんになりたいと思った。


 「ふぅ〜ん」


 父の反応はぱっとしないものであった。良いとも悪いとも言われず会話は終わり、私は「プレゼントはどうなったんだろう」と思いつつも、おねだりをすることもなくこの話題は終わったのであった。


 誕生日プレゼントのことなど忘れてしまったある日、父が、


 「アカネ、誕生日プレゼントだよ」


 と言って見慣れない『棒』を渡してくれた。その棒は、妹ができたことを証明する妊娠検査薬…ではなく、もっと大きな、見慣れない棒だった。


 『ビシューーン!ブゥゥウウウン!』


 しかもこの棒は、光った。低い音を鳴らしながら。


 「パパ、これは…」


 「それはね、ライトセーバーだよ!一緒に遊ぼうね!」


 私の要望は無視され、スターウォーズという映画に出てくる未来武器、光の剣が提供された。スターウォーズは前に一度見たことはある。あまり記憶になかったが。そういえばこんな武器あったなぁと思った。


 これは…完全に父の趣味だ。


 『ブゥゥウウウン!』


 よくよく見るとこのライトセーバーは赤く光っていた。映画の詳細の記憶がなくても、これくらいは覚えている。赤いライトセーバーは敵役の武器だ。


 「何で、敵のやつなの…」


 父には聞こえないように文句を言いつつ、私はライトセーバーを持って姉のいる和室へ向かった。


 私は、白蛇の加護に加え、ダークサイドの力も手中に収めたのであった。

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