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7話 家族会議

「レオン。今からすぐに家族会議を開く。お前に関する重要な内容だ。皆を集めるから待っていろ」


 翌日。家に帰って早々、お父さまに呼び出された俺は緊急の家族会議が開かれることを告げられた。

 しかも俺に関する重要な内容っていったい何なんだ。

 まあ十中八九武具顕現の儀に関する事なのだろうが、お父さまの顔を見る限りあまり明るい話題には思えない。

 とはいえ出席しないわけにはいかないので、指定の椅子に座って待っていると、現在家にいるお母様、そして兄妹たちが続々と姿を現した。

 今この場にいないのは王都で仕事をしているジーク兄さまだけだ。

 全員が席に着いたのを確認すると、父ガラハッドは真剣な面持ちで家族会議の開催を宣言する。


「さて、今日集まってもらったのは他でもない、我が子、レオンに関する重大な事案が発生した件についてだ」


 その言葉を聞き、皆ごくりと喉を鳴らす。

 お父様は懐から一通の手紙を取り出して、全員に見せた。

 それに対して次期当主、ヴァルター兄さまが問いかけた。


「父上、これは?」

「アストリア王立学園への招待状だ。差出人は――ルクス公爵家」

「なっ!? ルクス公爵家ですって!?」

「内容を簡潔に説明すると、アルヴェイン伯爵家の第四子、レオン・アルヴェインをアストリア王立学園の特待生として招待する。というものになる。何故このようなことになったのか、説明してもらえるか。レオン」

「うっ、それは――」


 アレクシスの野郎、学園でまた会おうってのはこういうことかよっ!!

 普通に考えて伯爵家の三男坊を我が国最高の教育機関アストリア王立学園に通わせるるわけがないから、家の力を使って強引に招待しようって訳かよ。

 確かルクス公爵家は、アストリア王立学園に対して多大なる影響力を持っていたはず。

 実に面倒なことになってしまったが、こういわれては説明しない訳にはいかないので、エリシア姉さまに説明した時同様、俺は武具顕現の儀の場で起きたことを皆に打ち明けた。

 するとお父さまは大きくため息をついて頭を抱えてしまった。


「……お前がよく分からない武器を顕現したことについては一度置いておこう。しかしそのせいでアレクシス殿に目を付けられたのは問題だな」

「ご、ごめんなさい……その、僕のせいで大変なことになっちゃって」

「レオ、お前が気に病むことじゃない。武具顕現の儀でどのような武具を得られるかは誰にも予測できないからな」

「ヴァルター兄さま……」

「そうよ! レオは剣術の才能があるんだから、剣を引き当てた事を喜べばいいのよ」

「ああ。だが、しかしルクス公爵家か……いかがいたしましょう、父上。レオのことを考えるとやはり――」

「どうもこうもない。常識的に考えれば、これはもう受け入れるしかあるまいよ。学費はもちろん、その他費用については一切を当家が負担するとまで書かれているのだ。断ればどのようなことになるか――考えたくもない。とは言え何も策を講じずに受け入れるというのはやはり……」


 本来ならば公爵家が伯爵家の子供、しかも三男に対して高額の学費を援助する出すことなんてありえない。

 もしこの申し出を断れば、我が一族に対して政治的・経済的な圧力がかかる可能性も決して否定できない。

 それだけアレクシスにとって俺という存在は重要なのだろうか。

 まだこの剣が、神剣であることを誰にも明かしていないのに、彼の眼にはいったいこの剣がどう映っていたのだろうか。

 あんな公の場で堂々とライバルにすると宣言するくらいだからな。あの派手な演出を見ただけで判断した訳ではきっとないのだろう。


「あなた。そんなに思い詰める必要はないわ。これはアレクシス様がレオンにお与えくださったチャンスなのですから」

「セラフィーナ。しかし……」

「レオンには他の子にはない、素晴らしい才能が秘められている。アレクシス様はきっとそれを確信してこのような手段を講じられたのでしょう。ならばその背を押してやるのが親の役目ではないでしょうか」

「……だが、それでレオンが厄介ごとに巻き込まれたらどうする。あのルクス公爵家に目を付けられたと聞けば、周囲からの視線も当然厳しいものとなるだろう。万が一のことがあれば――」

「大丈夫よ。レオンはちょっとやそっとの困難じゃ決して折れることなんかない強い子よ。それにいざとなったら助けてくれる二人が近くにいますよ。ねえ、エリシア」

「はい、お母様。レオに変なことをする輩は私が思い知らせます」

「ふふ、頼りになるわ。そしてエリシアに加えてジークフリートもいるんですから、何を心配する必要がありましょう」

「むぅ……」


 お父さまは厳格な人だが、とても子供想いの優しい人だ。

 今後俺を襲うことになるであろうトラブルを懸念して、何とかできないものかと考えているのだろう。


「レオ兄さま、遠くに行っちゃうの?」

「うん、まあ、多分そうなる、かな?」

「……やだっていったら、フェリの傍にいてくれる?」

「うぅん……もちろんって言いたいところだけど、それはやっぱり難しいかな。ごめんね、フェリ」

「……うん」


 隣の席に座るフェリシアが、酷く寂しそうな顔をしながらこっちに訴えかけてきている。

 俺は彼女の頭を軽く撫でてやりながら、恐らく避けられない運命であろうことを伝えた。

 そして静まり返ったこの場を遮るように、俺はゆっくりと立ち上がり、宣告した。


「お父さま。僕をアストリア王立学園に通わせてください」

「――レオン。本当に、大丈夫なのか?」

「はい。お母様の言う通り、きっとこれは僕に与えられたチャンスなんです。だからこそ、僕は必ずやこのチャンスをものにして変えてってくることを約束します。それにジーク兄さま、エリシア姉さまが近くにいるなら不安もありません」

「……そうか」


 俺がそう言い放つと、お父さまは立ち上がり、まっすぐこちらの眼を見た。

 こちらの真意を確かめようとする眼だ。

 今俺が言ったことに偽りがないか、多くの人々を見てきた領主の眼が鋭く俺に突き刺さる。

 だが、俺は決して目を逸らすことなく真向から対峙した。


「――分かった。お前がそこまで言うのならば、私は支持しよう」

「ありがとうございます。お父さま」


 俺自身、神剣エルヴェリアという可能性の塊を磨き上げたいという欲がある。

 そしてそれを成し遂げる場として最適なのがアストリア王立学園と言えるだろう。

 だからこそ、俺は自らの意思でこの招待を受け、学園の地を踏むことを宣言する。

 きっと俺が本気で嫌がれば、お父たちは何とかしてくれるだろう。

 だけどこれは決して受け身ではなく、俺は自分の意思で決めたのだ。

 

 ♢♢♢


「アレクシス坊ちゃま。ご命令通り、アルヴェイン伯爵家に件の話をもちかけました」

「ああ、ありがとう爺や」

「しかしアレクシス坊ちゃまが目をかけたレオン殿はそれほど価値があるお方なのでしょうか。数が限られている”お願い”を行使するほどの……」

「そうだ。あの男――レオンには、それだけの価値がある。アイツは必ずや僕の輝ける人生に不可欠な存在になるだろう」


 ルクス公爵家が所有する広大な屋敷の一角。

 その主であるアレクシス・フォン・ルクスは、優雅にティーカップを置くと、そう言い放った。

 公爵家の三男である彼には、父である現当主に少々無茶な要求を通してもらう”お願い”の権利が与えられている。

 今回レオンを特待生として学園に招待するにあたって、アレクシスは躊躇いなくその”お願い”を行使した。

 本来ならば()()に直接的に影響がないこんな事に使うべきではない、3回限りの権利にも関わらず、だ。


「アレクシス坊ちゃまにそこまで言わしめるに至ったレオン殿。是非一度お目にかかりたいものですな」

「まあそう遠くない未来に会えるだろう。くく、しかし我ながら良い拾い物をしたものだ。兄上たちに自慢してやりたいくらいだ」


 にやりと笑みを浮かべるアレクシスの表情は、おおよそ12歳の少年には似つかわしくない深みがあった。

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