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3話 秘めた才能

 リュシア先生の下で剣を学び始めてもう3年が経った。

 前世は魔法使いの領域に達した魔術師だったにも拘らず、気づけば俺は魔術なんて放り出してすっかり剣の道に夢中になっていた。

 剣術は面白い。未だ幼く未熟な体だが、前世のボロボロの体に比べるとまるで羽のように軽く、俺の意思に従って自由自在に動くことに感動すら覚える。

 ちなみにこの世界にも魔術が存在するらしいのだが、どうやら今生の俺には魔術の才能が全くないらしいので早々に諦めた。

 魔術なんて飽きるほど行使したし、とっくの昔に極めているからもう十分に満足している。別に惜しくなんかない。

 それよりも今は、新たに授かったこの剣の才能を磨くことの方が重要だ。


「はぁっ!!」

「甘いですよ!」


 俺は今、リュシア先生と一対一の試合をしている。

 もちろん真剣ではなく、修行用の木剣ではあるが、リュシア先生レベルになると一発受けただけで尋常ではない痛みに襲われるので、出来ることなら一度も攻撃を受けたくない。

 まあ過去に言葉通りの死ぬほどの痛みを散々味わってきた俺にとってはそこまで恐れるほどではないんだがな。

 苦痛に対する耐性ならこの世界でも最高レベルだと自負している。自分で言ってて悲しくなるがな。


「隙あり!」

「っぐ!!」


 俺の腹めがけて鋭い一閃が奔る。

 俺は慌てて木剣を滑り込ませて直撃を避けるが、そんな甘い受けでは勢いを殺すことなどできず、俺の体は大きく横へと吹っ飛ばされてしまう。

 このままでは地面に激突だ。受け身を取るか。それとも転がって距離を取るか。

 いや、どちらもリュシア先生には読まれているだろう。

 ならば俺が向くべきは下でも後ろでもなく前!


「うおおぉっ!!!」


 身体を強引に捩じり、着地するタイミングで強引に足を踏み込みスタートダッシュを切る。

 強引にベクトルを変えたことで俺の足には大きく負担がかかるが、貧弱だった前世とは違い鍛え続けている体なので問題ない。


「っ! なるほど!!」


 普段はクールなリュシア先生の口角が僅かに上がる。

 何度も対峙して分かったことだが、この人は恐らく戦闘狂だ。

 例え表情に現れないとしても、戦っている時は明かに楽しそうな雰囲気を纏っている。

 そして同時に強烈に()()()()()ことも分かった。

 この人は滅茶苦茶強い。前世でも腕に覚えがある剣士とやらが何度か俺を殺しに来たことがあったが、そいつらと比べても遜色ないほどの強敵と言える。

 だからこそ、自分と同格の、自分が全力を出せる相手がなかなか見つからないのだろう。

 かつての俺が――魔王とまで呼ばれるほど魔術を極めた俺がそうだったように。


「狙いは良かったです。ですが、まだ甘い」


 追撃に来たリュシア先生に対する、反撃の一撃。

 それはあっさりと彼女の細い体をすり抜けた。

 気づけば彼女の剣は俺の頭上にあり、直後、凄まじい衝撃が俺の頭を襲った。

 彼女の剣閃はまるで光の如く、俺の視認できない速度で叩きつけられる。


「ふぎゃっ!!」


 ついつい情けない声を出してしまいながら、俺の体は地に叩きつけられた。

 俺もそれなりに強くなったはずなんだが、まだまだ遠く及ばないようだ。

 ズキズキする頭を撫でながら、俺はふらふらと立ち上がり彼女に一礼した。


「ありがとうございました。今日もダメでした」

「いえ、日々上達しているのを感じます。あと数年もすればどうなるか分かりませんね」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 こうして素直に褒められるとやはり気分がいい。

 前世では一応師匠的な立ち位置だった魔女には一度も褒められたことなんてなかったからな。

 改めて考えると前世の俺って頑張ってたよな、と自画自賛してしまう。

 あんな劣悪な環境の中でも魔法使いの領域に至るまで努力してこれたのだから。

 逆に考えればこの最高の環境の中なら前世以上の高みを目指せるかもしれない。

 そう思うと自然とやる気が出てくるものだ。

 一応はごくごく普通の平和的生活を送れればそれで満足ではあるのだが、それはそれとして何か死ぬまでの目標と言うか生きがいというのは持っておいた方がいいと俺は思う。

 その方がきっと人生を楽しめる。


「レオ兄さま!」

「フェリ。そっちはもう終わったの?」

「うん! レオ兄さま、あそぼ!」

「えっと、リュシア先生」

「今日の鍛錬は終わりなので大丈夫ですよ。楽しんできてください」

「わーい!」

「分かりました。それじゃ行こうか、フェリ」


 一つ下の可愛い妹、フェリシア・アルヴェイン。

 年相応に幼さが目立つが、素直で明るくて近くにいると元気を分けてもらえるような、例えるなら太陽のような子だ。

 兄さまたちも姉さまもフェリを可愛がっているが、年が近いこともあって特に俺によく懐いてくれる。

 彼女も俺と同じく7歳の時から剣を学んでいるが、どうやら彼女には魔術の才があるらしく、教育方針はそちらを伸ばす方に比重を置いているらしい。

 ちなみにエリシア姉さまは2年前から王都の学園に通い始めてしまったので、共に剣を学ぶ仲間はフェリしかいない。


「さあフェリ、今日は何して遊ぼうか」

「今日も魔術教えて! フェリが知らないすっごい魔術!」

「うーん……」


 少し前にフェリが一人で魔術を練習している時に、あまりにもどかしかったのでついつい助言をしてしまって以降、魔術を教えるようにせがまれるようになってしまった。

 どうやらこの世界でも前世と魔術の仕組みは変わらないらしく、例えば風を自らの”眼”として操り、広範囲を感知する『風神の眼(テンペスト・オルクス)』という上級魔術があるのだが、フェリはたったの3日で習得してしまった。

 それが彼女にとってとても感動的だったらしく、せがまれるがままにいろいろ教えていたらついつい俺もヒートアップしてしまい、まだ彼女の師が教えていないことまで吹き込んでしまっているのが現状だ。

 そろそろバレて何か言われるんじゃないかとビクビクしている訳だが、フェリにキラキラした眼で頼まれるとどうしても断れない。


「そうだな……今日はこれにしようか」

「わくわく!」


 前世で極めた魔術の知識がこんなところで役に立つとは思わなかった。

 正直許されるのであれば、このフェリを世界最強の魔術師に育ててあげたいくらいだ。

 俺には魔術を極めるしか道がなかったから仕方なくやってきたけれど、彼女は純粋に魔術を楽しんでいるから、俺の知っていることは何でも教えてあげたくなる。

 誰にも負けないくらい強くなれば、誰かに命を脅かされる心配もなくなる。

 前世の俺の寿命が尽きかけたころには、こいつには手を出さないほうが良いという悪名ばかり広がったおかげでついに誰からも襲われなくなっていたしな。

 あの時には既に肉体のほぼすべてが死んでいて、少し突けば俺なんて簡単に殺せる奴がごろごろいたはずなのに、だ。


 まあこの平和な世界でフェリの命が脅かされるようなことは無いと信じたいが、力はあるに越したことは無い。

 一応はほどほどに、やり過ぎない程度に彼女を少しずつ育てていこう。

 それをこの素晴らしいセカンドライフの第二の楽しみとするんだ。


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