第一話「日が落ちるとき」
それは中3の春のことだった。
誰にでもある単純なこと。
その時クラスにはもう僕の居場所は無かったし、吸える空気も無かった。
教室に入った瞬間、息が詰まった。
詰まったというより止まったと言った方が正しいと思う。
僕の方を見る視線がいつも通りの優しい視線ではなく、嫌悪と悪意を持った視線だった。
その時理解した。
もう、この場所に僕の居場所はなくて、僕はここに必要じゃない存在だと感じ取った。
多分、きっかけは些細な事だったんだと思う。
主犯は誰かだいたい予想はつくけど、知りたくない。
知ったところで吐き気と目眩に襲われて、何もできなくなるから。
今も稀に夢に見る。
その度に、吐き気と目眩に襲われてトイレに駆け込み、その度に布団から動けなくなる。
記憶から消したいのに、あの視線がそうさせてくれない。
嫌悪と悪意を持った僕のことを明確な殺意を持ってナイフで刺すような視線。
今でも、その視線のせいで人の顔もろくに見れない。
近所の人やスーパーの店員、それに僕の親だって。
顔を見ようとしても目が見れない。
目を見たら、またあの視線を向けられると思って、見ることができない。
だから僕は、自分の家で、自分の部屋で引き篭もることにした。
引き籠もってひたすらに勉強をした。
あんな事を二度とうけないために。・
僕が僕のためにした選択。
・・・
入学式の日
僕のことをあの視線で見てくる人はいないと分かっていても、新しいクラスメイトや担任の先生の顔を見られなかった。
「なあ、お前さっきから下向いてくけど腹でも痛いんか?」
そう言われたとき、既に僕の机には何故か牛乳が置かれていた。
しかも、学校の給食で出てくるような小さい紙パックの牛乳。
その謎の事象と、人に久しぶりのまともに話しかけられたということから僕は数秒間固まってしまった。
「、、、ぁ、ぇ、うん。大丈夫。牛乳はいらないよ」
まともな会話なんて一年ぶりだから声が出なかった。
「ほんとか?なんか声が小せえみたいだけど。名前なんだったけ?」
そうすると、彼は紙パックの牛乳を開けながら言ってきた。
会話をして二文目で名前を聞いてきた。これは友好的な人間!名前は教えておこう。
「音無だよ。音無圭太。」
名前を言い終わる頃には、彼は紙パックの牛乳を飲み干していた。
こうゆう友好的な人は僕にとってそんなに見つからない存在だ。ある意味レアモンスターってことかな。
「そっか。俺は犬飼仁。今日からよろしくな!」
ダメダメ。せっかく話しかけてくれた人をレアモンスターなんて。高校入って初めて話した人だから仲良くしておきたいな。
「よろしく。犬飼くん。」
「おう、よろしくな!圭」
互いに名前を言い合って、名前は知れたけど、それでも犬飼くんの顔は見れないな。やっぱり目を見るのが怖い。
でも犬飼くんとはいい友達になれそう。
入学式の日は午前だけで終わった。
この高校は校内で携帯を触るのは禁止だけど、校門を出たらオールオッケーらしい。よくわかんない。
僕は校門をくぐった瞬間、携帯を取り出した。
「へぇ、圭、携帯持ってんだ。」
「うわぁぁぁぁぁ」
僕は取り乱して携帯を落とした。まあいいか、そろそろフィルム変えようと思ってたし。
いや違う。着眼点はそこじゃないだろ。冷静になれ僕。
「犬飼くん。急に話しかけないでよ!」
「すまんすまん。で、連絡先交換しようぜ!」
まあ、今のところ交換して損はないし交換しておくか。
そこからしばらく歩いた、歩いたんだが
「いつまでついてくるの?犬飼くん。」
{へ?」
気のない返事が返ってきたがそこは一番重要じゃない。最も重要なのは犬飼くんがどこまでついてくるかだ。
「いやぁ、なんか別れるタイミングわかんなくて」
いくらでもあったと思うが、何回も沈黙が続いた事もあったし、とても気まずかった。
「よし!じゃあこうしよう圭。次の交差点で別れよう。そうしよう。」
「うん。僕もそれでいいと思うよ。」
そこから、また、しばらく歩いて交差点についた。
会話が終わった。とても気まずい。
「じゃあ犬飼くん。また明日ね」
「おう。また明日な。」
僕はとりあえず、犬飼くんが見えなくなるまで見送ってから走って家に帰った。
家に帰った瞬間、僕は調子に乗りすぎたと思った。
あいも変わらず、人の顔を見ることができなかったから、犬飼くんの顔がどんな顔なのか、見れなかったけど。
明らかに調子に乗った発言を犬飼くんにしていたし、絶対にキモイと思われると思った。
やはり、はしゃぎ過ぎは良くない。また、あの視線を向けられることになる。
明日からは、はしゃぎ過ぎないように誰とも目を合わせず、最低限の会話だけでいこう。
かなり心の声をうるさくしすぎた思いました。自分で一回読み返して、こいつ心の声うるせーと思い、実際に喋っている言葉より心の声の方が多いという自体でした。もともとこういうキャラではいこうと思っていましたが、やはりうるさかったです。はい