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ベッド Mia lito




 外国には、ベッドが子どもを乗せて歩きだしたり宙を飛んだりする漫画があるらしい。なのにうちのベッドは何もしないね。


 そんなことをちらっと考えたら、すぐにベッドにさとられた。


 わたしを乗せたままむきになってその身に力をこめている。何をするつもりなのか?


 影響を受けてまわりが黒ずみ、電灯が明滅し、やがて部屋全体がゆがみはじめた。思い描いていた、子どもの夢のような情景とちがう。


 ベッドを叩きもうやめるようにうながすが、聞いてくれない。


 力の膨れあがったベッドが変貌へんぼうするのは、一瞬だった。


 足を置く方の端がぐいっと勢いよく飛び出す。長く伸びたと思うと向きを変え、旋回しながら下へ下へと道をつくった。


 夜の闇とはちがう異様な黒さが下方に見えるので、わたしはおびえた。万が一にも落ちないように、ベッドの支柱にしがみつく。


 でも無駄だった。伸びたベッドとは別に、わたしの乗っているあたりが元のベッドの形に浮きあがり、分離した。そしてわたしをしがみつかせた状態で跳ね、水泳選手が飛びこむように、伸びたベッドの上を滑りだした!


 わたしは悲鳴をあげたが、まもなく声を出せなくなった。息がしづらいほど滑走速度が速まったためだ。


 濃い闇のなかへ、くるくる回りながら滑り落ちていくベッド。調子にのって、もっと勢いを増そうとしているらしい。


 わたしは腹立ちを覚えた。だからなるべく平静を装い、ベッドに言ってやった。――ちょっとばかり驚いたけれど、こんなものを喜ぶのは五歳までの小さい子どもくらいね、と。


 ベッドはとたんに元気を無くした。空気の抜けた浮輪のようにつぶれて止まる。上に乗っていたわたしは止まれず、宙に投げだされた。この身はうつろな闇のなかへ。


 手がかりのない虚空こくうを飛びに飛んでもまだ止まらない。どうやって脱出すればいいのやら。


 それにしても、ああ……、新しいベッドを買わなくてはいけない。お金に余裕が全然ない時季なのに困ったな、そう考えて、ふと思い至った。今わたしが飛んでいるのは、わたしのからっぽのお財布のなかなのだ! 


 それがわかったので、わたしは一生懸命に念じた。


 ――明日は仕事の報酬ほうしゅうが振り込まれる日、銀行の口座からいくらか引き出してあなたの隙間すきまを埋めてあげる、それはここから出ないとできない、だから出口を示してちょうだい。


 すると遠くで闇が割れ、光が差しこんだ。


 手足をばたつかせて、飛んでいく方向を修正する。そしてなんとか割れ目を通過すると、次の瞬間にはわたしはテーブルの上のお財布から飛び出た形で、自分の部屋の床に寝そべっていた。頭上には蛍光灯ののんきな光。やれやれようやく戻ってこれた……。


すっかり疲れてしまって、かたわらのベッドに倒れこむ。するとベッドの脚が折れずどん(・・・)と沈んだ。


 やはり新しいベッドを買わないといけないようだ。





 Fino





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