ソラ/セナカ/ウミ
Cxielo
このカフェでは、コーヒーに花びらのかたちの空をうかべてくれる。
それはカップのなかでゆらゆらさまよいながら、ゆっくりと溶けていく。
ひと口をのみ、ほほえむ年配の女性もいれば、ぽろぽろと涙を落とす、若い男性もいる。
わたしも空をすすめられた。でも今日はことわった。
胸のなかにはいっぱいにひろがるものがすでにある。
恋をつたえられたのだ。
* * *
La dorso
恋ごころを知りたくて、はるばる南の果てまでやってきた。
なのにいまは北で恋の病が流行中だとか?
わたしは旅で出会った男の背に、自分の背をよりかからせて落胆した。
* * *
La maro
なにを彼らは騒ぎたてているのだろう。
少し目を離していたあいだに人間が滅んだからといって、それがどうしたと言うのか?
人間たちがもういないのであれば、観察していた彼らはお役御免、皆で元いた世界に還ればよいだけではないか。
蒼いだけの海原のふりをやめ、色あざやかな時の遥かな海を渡って――。
日曜日の朝、ベッドで寝返りを打ちながら波の音に顔をしかめ、こんなことを考えている。
今日は伯母が訪ねてくる日で、起きたくない。
どうせまた結婚を勧められるのだ。
Fino