表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

クサブエ La herbosxalmo




 誰ひとり来ぬ山道を、関守せきもりとして見張っている。


 草笛を吹きながらぼんやり立っていると、足もとを貝の列が静かに通ろうとする。


 コレ、と見とがめて、からを開き中身を見せるよう、厳しく迫る。


 すると赤い殻を持つ小さな貝が泣きだした。


 そばの者が言うには、この子が関の向こうの川へ嫁入よめいるための列でございます、ふだん小川の陰でささやかに生きている自分たちにとり滅多めったにない晴れがましい祝賀の日、歩みを止めるは不吉、通行手形などとてもいただける者ではございませんが、こんな小さな自分たちになんの悪さができましょう、どうかお目こぼしくださいまして、このまますんなり通していただけませんか……。


 わたしは、それは悪いことをしたと謝り、まだ泣きやまぬ赤い貝と、その一行を通した。


 だが時間が経つにつれ、だまされたのでは、という疑念が湧いてくる。


 いったいわたしは何者たちを通してしまったのだろう。とんでもない失態を犯した気分になり、落ちつかない。


 不意に太鼓を打つような音が聞こえ、彼方を見やる。


 すると空に真赤な積乱雲が盛りあがり、凶暴に青空をらってゆくところだった。


 時おり金色にカッと光る。その切ないほど華麗な姿、まさしく美しき夜叉やしゃである。


 世の守りにわたしが開けてしまった小さな穴により、この世は滅びようとしているのだ……。


 わたしは関所も草笛も放棄して走った。


 走りながら迷う。わたしを虚仮こけにしたあの夜叉に一太刀ひとたち浴びせてやるべきか、それともわたしを愛してくれた人々が眠る場所で、共に眠りに逃げるべきか。


 わたしの思いは決まった。





 Fino





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ