クサブエ La herbosxalmo
誰ひとり来ぬ山道を、関守として見張っている。
草笛を吹きながらぼんやり立っていると、足もとを貝の列が静かに通ろうとする。
コレ、と見とがめて、殻を開き中身を見せるよう、厳しく迫る。
すると赤い殻を持つ小さな貝が泣きだした。
側の者が言うには、この子が関の向こうの川へ嫁入るための列でございます、ふだん小川の陰でささやかに生きている自分たちにとり滅多にない晴れがましい祝賀の日、歩みを止めるは不吉、通行手形などとてもいただける者ではございませんが、こんな小さな自分たちになんの悪さができましょう、どうかお目こぼしくださいまして、このまますんなり通していただけませんか……。
わたしは、それは悪いことをしたと謝り、まだ泣きやまぬ赤い貝と、その一行を通した。
だが時間が経つにつれ、だまされたのでは、という疑念が湧いてくる。
いったいわたしは何者たちを通してしまったのだろう。とんでもない失態を犯した気分になり、落ちつかない。
不意に太鼓を打つような音が聞こえ、彼方を見やる。
すると空に真赤な積乱雲が盛りあがり、凶暴に青空を喰らってゆくところだった。
時おり金色にカッと光る。その切ないほど華麗な姿、まさしく美しき夜叉である。
世の守りにわたしが開けてしまった小さな穴により、この世は滅びようとしているのだ……。
わたしは関所も草笛も放棄して走った。
走りながら迷う。わたしを虚仮にしたあの夜叉に一太刀浴びせてやるべきか、それともわたしを愛してくれた人々が眠る場所で、共に眠りに逃げるべきか。
わたしの思いは決まった。
Fino