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イト La fadeno
昔から、眠っているのに目の前のものが見えることがある。
夢とは少し違うようだ。
近頃は、わたしの顔の上に紫色の糸が一本垂れて、軽く揺れている光景をよく見る。
わたしは布団から手を出しそれに触れる。
するとわたしのなかから何かが抜け出て、蛇のように糸を伝い上方に去る。
糸はいつの間にか消える。――
こういったことが何度かあった。
わたしが糸からすぐ連想するのは、芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』だ。
夜に訪れるあれが遥か天上より垂らされた救いの糸なら、わたしの内なるものが逃れ出て避難していることになる。
残されるわたしはいったい何ものなのだろう。
眠りながら眠れぬ夜を過ごし、夜の終りが来たら消えていけばよいのだろうか。
Fino