ヘンガク La kaligrafiajxo en kadro
果てが知れぬほど巨大な寺院の、新たな門に掲げる扁額を、なんとわたしが書くことになった。
書家でもないのに指名された理由はわからない。気乗りがしないが、家族や子孫の名誉になるので、精一杯挑もうと思う。
聞けば、一枚しかない貴い板に墨で記した文字がそのまま染みこみ定着して、永久に門に飾られるのだと言う。書き直しができないのだ。
呼びもせぬのに見物人が大勢来て取り巻く。まだ書かぬうちから、下手だなあと莫迦にする。もうやめな、象の尻みたいにあんぽんたんなお前さんには無理だよ、などと汚く罵る。
自分から名乗をあげたわけでもないのに大役を押しつけられ、なにゆえにこうまで言葉で責められなければいけないのか? 癪にさわって、ふだんのわたしなら持てそうもない大きな筆をつかみ、墨を存分につけた上で思いきり板に叩きつけてやった。
墨が四方八方遠くまで勢いよく飛び散り、悲鳴がこだましたが、わたしの知ったことじゃない。淀んだ色の雲を手でどかしてやったようで、大いに清々(せいせい)した。
その時なんという文字を書いたのか、そもそも文字を書いたのかについては覚えていない。
だがわたしの手に成るものがちゃんと扁額として門に掲げられ、あの日から二千年が経ったいまでも、偉そうに衆愚を見おろしているそうである。
Fino




