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混乱

 聞いたばかりの言葉がうまく咀嚼できない。奴隷って、なんでフィメロが自分を?

「ま、待って。それだと地図を貰う意味がないだろ。逃げられなくなるんだから」

「ミシェル君はそうだけど、でも無謀なことを考えてる人ってミシェル君以外にもいるんじゃないかなぁ。その人たちが生き残る確率が上がるよね」

 自分を犠牲に仲間を助けられるってことか。


「首輪はどんなのがいい?革、鎖、シンプルに金属のわっかとか、紐を編んだお洒落なものもあってさ、どれにしようか迷ってるんだ」

 フィメロはまるで断られるのを想定していないかのようにそんなことを言っている。何だ首輪って。悪趣味にもほどがある。反射的に拒否しようとすると、すいと目を細めた。

「いいの?断っちゃって」

 ぴらぴらと地図を振って見せる。正直、地図は喉から手が出るほどほしい。彼女の言うことが本当なら、この機を逃すと入手は難しくなる。


 でも、奴隷は......。

 葛藤する様子をフィメロは教卓の上に座って面白そうに眺めている。

 フィメロから地図を得られなくても、シンシアに頼めば。そんな考えが頭をよぎって、瞬間的に自分を殴りつけたくなる。俺はクズか。冷たくしておいて、彼女の優しさを都合よく利用しているじゃないか。シンシアに頼っちゃいけない。リスクを負うべきは俺だ。


「お、決めたかな?」

「ああ。俺は......フィメロさんの奴隷になるよ」

 もちろん、本当に彼女に飼われるつもりはない。逃げる時が来たら約束なんて反故にしてやる。

「やったあ!じゃあこれからよろしくね、ミシェル!」

「あ、ああ。よろしくフィメロさん。ところで奴隷ってどんな仕事をするんだ?召使と同じと考えていいのか?」

 うーんと彼女は少し考えて笑顔で言う。


「人によって色々かな。私は大人になるのを待って、いちばんいい状態で食べたいけど。それまで我慢できるかなぁ。指が一、二本欠けても許してね」

 ぺろっと舌を出して言われ、言葉を失う。そして理解した。こいつは頭がおかしい。

「は......?それじゃ食われるのが先延ばしになるだけじゃないか」

「そうだよ?食べる以外の目的で、人間を奴隷にする人なんていないでしょ。シンシアさんもそろそろ話持ち掛けるつもりだったんじゃないかな。あっは!私が先にゲットしちゃったけど!」


 なんで今シンシアの名前が出て来るんだ。

「シンシアさんがミシェルに優しくしたのは食べるためだよ。信頼させて油断しきったところでガブッとするつもりだったんでしょ。知ってる?彼女アールベイト家なんだよ」

 その家名は知っているが、だから何だというのか。異国人の自分には、先日知った高位貴族という情報しかない。


「代々暗殺とか諜報とか、王の命令で暗いことばっかりしてる貴族なの。見かけはああでも、きっと凄く性格悪いよ」

「違う」

 フィメロは目を見開いて言葉を止めた。


 俺は自分が傷つくのが嫌で、彼女自身から目を逸らした。人食いの化け物だってひとまとめにして疑った。けど今分かった。自分がどうしたいのか。

「シンシアは優しい子だ。俺は彼女ほど優しくて魅力的な女の子を知らない。彼女は俺を奴隷にして食べようなんて絶対に考えてない」

「だ、だから優しいのは演技なんだって」

「演技でもいい!俺の目が節穴で、騙されていたとしてもいい。シンシアが好きだから、シンシアにだったら騙されてもいい!」


 フィメロの表情がすとんと抜け落ちた。

「......へー。だいぶ毒されてるみたいだから、今済ませちゃおっか。本当は首輪が出来上がってからにするつもりだったんだけど」

 不穏な空気を感じて後ずさる。しかし腕を掴まれて引き寄せられる。マリウスのような馬鹿力ではなかったが、ぎりぎりと手首を締め上げる力は女子の握力ではない。

「なにを!?」


「奴隷契約するんだよ。口約束でシンシアさんに取られたら笑えないし。きっちり縛っておかないと」

 まさか魔法的な拘束力があるのか!?まずい逃げないと!

 焦るが腕を机の上で押さえつけられて抜け出せない。

「安心して。血はちょっとしか出ないから」

「安心できるか!」


 ドゴッと鈍い音がして、教室のドアが吹っ飛んだ。ドアは勢いのままに窓ガラスをぶち破ってベランダに突っ込んだ。ぎこちない動きで教室の入口に目を向ける。そこに立っていたのは、見慣れた小柄な姿だった。

「ミシェル!助けに来たよ!」

「俺たちもいるぞ!」


「シンシア。あとレイズたちも......!」

 助けに来てくれた。涙が出そうになってぐっとこらえる。

「なんで!」

 怒鳴るフィメロにシンシアは偽の呼び出しメモを見せた。それは読んだ後鞄にしまったはずだ。落としていたのか。

「俺たちはミシェルの残した伝言のメモを見て来た。さあ、ミシェルを返してもらおうか。この人数差じゃ勝ち目なんてないぞ」

「はぁ?人間がいくらいたって魔族に敵うわけないでしょ!」

 フィメロが放った火球がシンシアによって容易く握りつぶされる。


「私がいるのを忘れてない?」

 シンシアは目にもとまらぬ速さでフィメロに迫り、その腹をとんと片手で押した。次の瞬間、フィメロは机をなぎ倒しながら吹っ飛んで床に倒れた。

「おお......」

 ドン引きする男たちの視線に気づき、シンシアはあたふたする。

「ち、違うの。魔族相手ならこのくらい強くやり返しても大丈夫で――」

 ミシェルはシンシアを抱きしめた。

「ごめんシンシア!君を疑ってばかりで、酷いこと言った」

「......ミシェル!」


 ぎゅううと抱き合う2人は、レイズの咳払いではっと状況を思い出した。

「あー、二人ともイチャつくのは後にしてくれ」

 顔を赤くして体を離したミシェルは、床に落ちた紙に目を止めた。拾い上げるとそれはフィメロが落とした地図だった。


「レイズ!これディアルの地図だって!」

「何だと。見せてくれ」

 地図をみんなで囲んで見る。

「これで問題の一個は解決だな!」

「でかしたミシェル!」

 喜ぶ者たちとは対照的に、レイズは表情を険しくした。


「俺たちの国が描かれていない」

「え?」

 それはおかしい。馬車で半日ほどの距離だぞ。

 描かれている他の国を見るが、どれも聞き覚えがない国名だ。シンシアがす、と指し示した。

「あなた達の国は、確かこの辺り」

 その指は地図をはみ出し、机の端で止まった。全員が沈黙する。どう考えても半日で帰れる距離ではない。

 レイズは地図を折りたたんで、ふうと息を吐いた。

「レイズ......」

 動揺した面々に彼はきっぱりと言う。


「緊急会議だ!全員を図書館に集める!俺はロッテにこのことを伝えに行く。お前たちも教室に戻って皆を呼んでくれ」

 ミシェルたちは表情を明るくして、おうと応えた。レイズはシンシアに目を向ける。

「君も来てくれ」

「おい、魔族はまずいだろ......」

「いや、彼女の協力は必要だ。もちろん詳しい計画は教えない」


 苦い顔をするのは当然だ。彼らにとってシンシアは知り会ったばかりの魔族なのだから。それに恐怖の対象がいては話し合いどころではなくなるかもしれない。同じ心配をレイズも抱いたようだ。

「......後で俺から皆に説明するから、今は秘密にしてくれないか」

 真剣な表情で頼まれ、渋々了承した。それぞれの教室へ向かった彼らに続いて、ミシェルも教室を後にしようとする。


「シンシア?俺たちは先に図書館で待とう」

 Aクラスにいる脱走計画のメンバーはミシェルのみだ。呼びに行く必要はない。シンシアは微笑んで言う。

「先に向かってて。すぐ追いつくから」


 レイズが感情の読めない声で尋ねる。

「そいつに何か用でも?」

「フィメロさんによく言い聞かせるだけです。このまま放ってはおけないでしょう?」

「......騒ぎにはするなよ」

「分かってます」

 レイズはシンシアの笑みに背筋がひやりとするのを感じた。表情には出さず、ミシェルの背を押す。

「行くぞ」

「あ、ああ」



 シンシアは渡り廊下の辺りで追いついた。図書館に入ると、時間帯もあって誰もいなかった。自習室に行く前にミシェルはふと思いつく。

「シンシア。こっち向いて」

「え?」

 ミシェルは自分のタイピンをシンシアに付けた。これを付けておけば、見覚えのない顔でも誤魔化せる。多分。バレるか半々くらいだったが、やってきた仲間たちは追求してこなかった。ほっとして顔を見合わせる。


 女子を代表してロッテともう一人来た。レイズはすし詰めになっている皆を見渡して口を開く。

「急に呼び出して悪い。重要な情報を一刻も早く共有したかった」

 レイズは地図を広げて、発覚したばかりの問題を伝えた。反応はほぼ同じだった。沈んだ空気の中で、ミシェルを助けにきた1人が言う。

「けどこれで終わりじゃないだろ。レイズが考えてる案を言ってくれ」


 シンシアが魔族であると知っている者たちは彼女をちらっと見たが、約束通りこの場で言うつもりはないようだ。

「国に帰ることが難しい以上、ディアルの隣国に保護してもらう方向に切り替えるべきだと思う」

「保護って、そんな国あるのか?魔族のいる国の隣国だぜ?」

 助けてもらうどころか、新たな危険に飛び込むことになりかねない。


「それについては、地図を手に入れてくれた彼女の話を聞きたい。何か情報はないか」

 レイズはシンシアに目を向けて尋ねた。全員の視線が一斉に集まる。シンシアは小柄な体を人の隙間から出して、地図の一点を指した。


「この獣人の国がいいと思います。ディアルと仲が悪いらしいですから」

「敵の敵は味方ということか」

 獣人と聞いて不安の声が上がる。言葉は通じるのか、食われる危険はないのか等々。それらを宥めてレイズは言う。


「ひとまずはここを候補として計画を修正しよう。詳しいことは今日の夜に。他、新しい情報を得た者はいないか」

 女子が手を挙げた。


「前に先生たちが廊下で話しているのを聞いたんですが、近いうちに誰か客人が学園へ来るみたいです。一応、共有した方がいいと思って」

「客人か。関わることはないと思うが、覚えておく」


 解散となり、皆が自習室を出ていく。自由に身動きができるようになり、ミシェルは体を伸ばした。

「ミシェルは先に寮に戻っていてくれ。俺は彼女に話がある」

 シンシアは少し不安そうな顔をした。

「だったら俺も居るよ。問題ないだろ?」

「大丈夫だよ、ミシェル。また明日ね」

 そう言われ、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。

 話って何だろう。俺が聞いたらいけないのかな。レイズは魔族だからって責めるようなことは言わないと思うけど。


 外に出ると、気温がひときわ下がったように感じて体を震わせた。辺りは暗くなっており、敷地内の街灯が照らす道に沿って寮へ帰る。雪を踏みしめながらあ、と思い出す。シンシアにタイピンを貸したままだ。

 まあいいか。朝返してもらえば。


****


 あれこれ考えていたせいか寝つきが悪く、翌朝は寝坊してしまった。慌てて着替えるのでタイピンのことも忘れて、駆け足で教室へ向かう。席についてすぐ担任の教師が入って来た。ギリギリだ。ミシェルは息を整えながら隣のシンシアに目線を向けて、口の動きだけでおはようと伝えた。シンシアはふっと笑いそうになって口をおさえる。


「今日は中央から学園に来客がある予定だ。校内で見かけた場合はくれぐれも失礼のないように」

 昨日女子から聞いたことだ。客が来るのって今日だったのか。

 しかし生徒よりも危険度は低いだろう。ミシェルはそう思っていた。4限の後、レイズが教室に飛び込んでくるまでは。


「ミシェル!」

「レイズ?どうしたんだよ」

 クラスメイトの視線が突き刺さるなか、とりあえず来てくれと言われて付いて行く。早足で置いて行かれそうになりながら彼の様子をうかがう。レイズは見たことが無いほど動揺していた。険しい表情で必死に思考をめぐらせている。


「何があったんだ。教えてくれ」

「ロッテが攫われた」

「はあ!?」

 教室移動中に例の来客とすれ違い、どういうわけか連れて行かれてしまったという。

「そいつは今どこに」

「学長室の方に向かうのを見た。きっと今学園長と話しているはずだ。なんとかして助け出さないといけない。だがそれには――」


 レイズは言葉をのんで苦悩する。ミシェルはレイズの言わんとすることが分かった。朝の担任の口ぶりからして、多分来客は結構なお偉いさんだ。そんな奴からロッテを助け出すには、同時に脱出計画も実行しなければいけない。しかし計画はまだ煮詰まっておらず、実行するには不完全なものだった。失敗すれば生き延びる望みは絶たれる。一人の為にそんな取り返しのつかないことをしていいのかと、レイズは苦しんでいるのだろう。


 階段の前まで来ると、そこには脱出計画のメンバーが集まってきていた。

「皆......」

「聞いたぜ。ロッテがヤバいんだろ?」

「助けに行きましょう。まさか見捨てるなんて言いませんよね」

 ミシェルはレイズの肩に手を置く。

「やろう。俺たちなら絶対成功する」

「......ああ!」

 レイズの目にいつもの冷静さが戻ってきた。はっきりとした声で指示を出す。


「カルロス、ノーツ、ケイルの3人は門を。残りは計画に参加していない仲間に呼びかけつつ、馬車の確保だ。俺とミシェルはロッテを取り戻した後、そこに合流する」

「たった2人でできるのか?」

「ああ。人数でごり押せる相手じゃないだろうから、不意打ちする。2人が適当だ」

「待って」

 鈴の鳴るような声が割って入った。振り向いたミシェルは目を丸くする。


「シンシア!どうして」

「私も協力する。考えがあるの」

 いいでしょう?とシンシアはレイズを見る。

「分かった。言い合いをしている時間はない。君も来てくれ」


****


 質のいい皮のソファに、向かい合わせに座る者たちが2人。学長である壮年の男が微笑んで言う。

「ようこそおいでくださいました。本日はどういったご用向きでしょうか」

 目の前の客人は分かりやすい愛想笑いを浮かべて返した。

「なに、ただ様子を見にきただけですよ。ほら、無害な子供とはいえ多数引き入れれば心配にもなるでしょう」


 学長はソファの後ろに立つ若い男に目を向けた。彼は片手で少女を抱えている。少女は脱力しており、意識を失っているようだった。客人は全く悪びれない口調で説明する。

「あぁ、来る途中で活きのいい子兎を見つけたもので。問題ありませんよね?」

「......ええ。1人だけですよ。これは生徒の為の催しなのですから」

「分かっていますとも」

 客人は機嫌よく笑った。肩越しに振り返って少女を満足げに見る。身じろぎする度に、彼の上着のボタンが弾け飛びそうだ。満足したなら早く帰ってくれないかと思う。無能とはいえ中央の人間にうろちょろされるのは気分が悪い。

 学長は手を組み、小さく息を吐いた。


 同じ時、廊下にはミシェル達がいた。学長室のドアが見える位置で身を隠して様子をうかがっている。

「手筈通りにやるぞ。怪しまれるなよ」

「オッケー......」

 ミシェルは額に汗をにじませる。手に持ったトレイがかたかた音を立てた。シンシアがミシェル、と小声で呼びかける。

「少し動かないで」

 首元に柔らかい布の感触を感じた。

「これは?」

「......私の家の紋章が入ってるから。油断すると思う」


 チョーカーをつけたシンシアは目を伏せて、何故か辛そうな顔をした。その理由を聞こうとしたが、彼女は下で待ってるねと言って足早に階段を下りていく。

「行くぞ」

「あ、ああ」


 ドアをノックすると、入室を許す声が帰ってきた。心臓が飛び出しそうだ。

 たかが中年二人だ。やってやるさ。

 覚悟を決めてドアを開ける。中には壮年の学長らしき男と、太った男、その部下のような若い男がいた。ぐったりとしたロッテを確認してひくりと頬が引きつりそうになる。気合で感情を抑え込んでミシェルとレイズは笑顔をつくる。

「お茶をお持ちしました」

 教師の研究室から拝借した茶葉とティーセットだ。ちなみに返却する気はない。


「ほう。気が利くじゃないか」

 客人は鼻をスンスン鳴らしてレイズとミシェルが人間であることに気づいたらしい。驚いた表情で学長を見る。

「これはこれは。よく躾けておりますな」

「ええ、まあ」

 学長は戸惑った様子だ。ぼろを出す前に学長と客人に紅茶を出す。すると学長はミシェルの首のチョーカーに目を止めた。

「なるほど、アールベイト家の奴隷か」

 頷くと警戒を解いたようだ。レイズを見ると彼は部下の男にトレイを差し出していた。

「どうぞ」

「いえ私は結構です」


 ミシェルはその横を通ってドアへ向かう――ふりをして、トレイで部下の男を殴りつけた。膝裏にトレイの側面がヒットし、がくりと体勢を崩す。

「今だ!」

 レイズは紅茶の乗ったトレイを放り捨て、ロッテを取り戻す。突き飛ばされた部下の男はよろめいて壁に背を打った。同時に窓ガラスが粉々になる。

「待ちなさい!」

ミシェルとレイズは学長の声を無視し、窓枠の向こうへ飛び込む。


 ひゅうと風が肌を撫で、一瞬内臓が持ち上がる気持ち悪さを感じた。三人は地面に衝突するかに見えたが、急に重力に逆らって減速する。そしてふわりと降り立った。

「ありがとうシンシア。上手くいった」

 外で待機していたシンシアに礼を言った直後、怒鳴り声が響いた。

「女子だ、女子生徒の馬車を狙え!!」

 知っている声だ。最低なことを言っているようにも思えるが、ミシェルとレイズには意図がすぐに分かった。学園所有の馬車では足りなかったのだ。それで生徒を迎えに来ている馬車を奪おうと、その場で判断したのだろう。男を避けるのは人外の腕力を警戒してのことだ。仲間と合流すべくミシェル達は声のする方へ走る。


 場は混沌を極めていた。怒声と悲鳴が飛び交う中、ミシェルは見知った顔を見つける。彼らは馬車から引きずり降ろそうとする生徒たちに必死に抵抗していた。呼びかけるとぱっと顔を上げ、一瞬安堵の表情を見せる。

「成功したんだな!お前らで最後だ、早く乗りこめ!」

「ああ!」


 しかしこの状況でどうすれば。突然のことに唖然としていた生徒達も冷静さを取り戻しつつあった。

「かがんで!」

 シンシアの言葉に従った瞬間、突風が巻き起こり生徒達を吹っ飛ばしていく。その隙に車内へ体をねじこんだ。

 6台の馬車が門へ向かって一斉に走り出す。ミシェルは車窓から、校舎を我先にと出て来る生徒の群れを見た。



 このとき、前代未聞の事態を俯瞰する第三者がいることを、逃げる者と追う者の両者は気がついていなかった。

「随分活気があるな。今日は学園祭でもやっているのか?」

 長髪の青年がおどけた口調で問うと、傍らに浮遊する女性が真面目に答える。

「人間たちが逃げ出したようです。すぐに捕縛いたします」

「いやいい。止めるな」

青年は女性を手で制しながらも、食い入るように視線は下に向けたまま動かない。女性は命令の意図が理解できず、困惑の表情を浮かべた。

「せっかく面白いのに、我々が介入したら台無しだ。このまま見届けようじゃないか」

「はあ......それが陛下のお望みなら」

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