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この世界では、俺はマリアのヒーローなんだ

しばらくして落ち着いたマリアに、健太は質問する。


「そういえば、マリアの両親は何をしていたんだ?」

すると、マリアは申し訳なさそうに謝ってきた。



「えっと……、それは……ですね……。実は……、お父さんとお母さんは……借金を……していたみたいです……」

それを聞いて驚く健太。

「マジかよ……」

「はい……。すみません……」

「いやいや、なんでマリアが謝るんだよ?」

「だって……」





――さらに数日前――





両親のいないマリアは生活費のために、1人でお金を集めていたらしい。

だが、ある日、家に帰ろうとした時にトラックと衝突してしまったようだ。


「トラックと衝突って……危なかったんじゃないか?」

「はい……。あと少しぶつかるのが遅かったら……」

とマリアは顔を青ざめて言う。


「そっか……」と呟く健太。


すると、

「そうだ。お礼にご飯作りますよ!」

とマリアは明るい声で提案してきた。

だが、健太はそれを断った。

「悪いけど、これからバイトがあるからまた今度頼むよ」

「え?もう行っちゃうんですか?」

「ああ、急がないと遅刻しちゃうからさ」

健太は急いで着替えると家を飛び出して行った。

「行ってきまーす」


* * *




* * *

マリアが料理を作り始めて30分後……。


出来上がったので机の上に運ぶと、そこには美味しそうなシチューが置かれていた。

健太が席に座ると、マリアも座った。2人は一緒に食べ始める。


「ん~!うまい!」

「ふふっ♪良かったです!」

笑顔になるマリア。

「じゃあ、いただきます」






食事を済ませた健太は、帰り支度を始める。


すると、マリアが声を掛けてきた。


「あ、あの……」

顔を赤らめている。何かを言いたいことがあるようだった。


「どうしたの?」

首を傾げる健太。

「その、健太さん……」

俯いて恥ずかしそうだ。



「ん?なにかな?」

「えっと……」

モジモジしながら言いにくそうだ。

「言ってみて?」

マリアの様子を見て、健太は何だろうと疑問に思いながら促す。


「そ、その、明日もまた来てくれますよね?」

恐る恐るという感じだ。


「え?うーん……。どうしようかな……。ちょっと用事があるから分からないや」

「……」

寂しそうな顔だ。

そして下を向いてしまう。




「……」



健太は困っていた。


「あの、健太さん……。やっぱり、迷惑ですよね……。私なんかが毎日来るなんて」


「い、いや、別にそういうわけじゃないぞ?」

マリアは、ハッとしたように顔を上げる。

健太の言葉を聞いて嬉しかったのだろう。

すぐに表情が明るくなった。


「そ、そうですか!嬉しいです!」

「……」(可愛いなぁ……)


と思いながらもも言葉を続ける。

「それに、僕がマリアを助けてあげなきゃいけないと思ってるんだ!」

「どうしてです?」

「マリアは僕が救ってみせる」

(この世界では、俺はマリアのヒーローなんだ)

心の中で強く思った。



するとマリアは微笑みながら、健太を見つめて話す。

「ふふっ……。ありがとうございます。でも私は大丈夫ですよ」

と優しく答えた。


「いや、でもな……」

と健太が心配していると、突然ドアが激しく開いた。

「おい!マリア!いつまで飯を食っているつもりだ!とっくに昼の時間を過ぎているんだぞ!」「……」

「さあ、早く仕事に取り掛かる準備をしなさい」

「……」

怒鳴り声を聞いた途端、暗い表情になって固まってしまうマリア。


するとマリアの父が近づいてきた。

「全く……、お前のせいで借金を返せないじゃないか」

「……」

「何をボーッとしている!?」

怒られているのにも関わらず、何も反応しないマリア。

「はあ……、仕方ない。俺達も手伝うか……」

と言って立ち去ろうとすると、今度はマリアの母が出てきた。



「ちょっとあなた、そんなこと言ってないでさっさと仕事の準備を始めましょう」

呆れたような口調で言うと、マリア母が立ち去った。

マリア父もそれに続く。

残されたマリアは食器を持って部屋から出て行こうとする。




すると、

「おい、待て!」

マリアを呼び止める。

「は、はい……?」ビクッと身体を震わせてから振り返った。



マリアは部屋を出て行く。健太はマリアを心配そうに見送るとバイト先へ向かった。




* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

*

「えっと……それで……」と続きを聞こうとしたとき、マリアが泣き出した。

「ごめんなさぃ……。私には話せることは以上ですぅ……」

それからしばらくして、マリアは落ち着いてから口を開いた。



「私が部屋に閉じ籠っていたとき……いつも部屋の扉の前に食べ物を置いてくれました。それで元気が出たんです」

マリアは健太の顔を見ながら感謝を伝えた。


「マリア……」

マリアは健太の目を見ると、深々と頭を下げた。



「本当に……ありがとう……ございます……」

健太は黙って話を聞いていた。




すると……、突然……




―――グゥ~――――





お腹の音が鳴ってしまった。


「あっ……」


「……」




マリアが驚いた顔で健太を見ている。

「今のってお兄ちゃんの音?」

とミーナも驚いていた。

「ははっ……。実はもう夕方だからさ。腹が減ってな……」

「あら?そういえばもうこんな時間ね」

時計を見たエリザが言う。

もう6時になっていた。


「じゃあ晩御飯にしよっか」

と夏目が言うと皆で台所へ行った。


ちなみに料理が出来るのは、エリザとマリアだけだった。

他の2人は出来ないらしいので今日はマリアが作った料理を食べることになった。

健太は楽しみにしながら待つ。





そして、しばらくすると机の上に美味しそうな料理が置かれた。


今日の献立を見て、全員が感嘆の声を上げた。

ご飯にスープ、ハンバーグにサラダなど色々あるようだ。

全員の分が置かれてから、「では頂きます」という合図で一斉に食べ始めた。



まず最初に食べ始めたのはミーナだ。

ミーナはフォークを使って一口食べると、「ん~!」と言いながら頬を押さえている。


その様子を見ながら笑みを浮かべているマリア。

続いて、夏目と健太も食べた。


「ん~!これはうまいな!」と夏目は絶賛した。


健太も同様においしいと言った。


3人とも気に入った様子だ。その後は無言になって夢中で食べていた。



食べ終わると満足げな表情になる。



「「「ごちそうさま」」」






健太と夏目の挨拶に続き、ミーナとマリアも食事が終わったことを言った。


「はい、お粗末様です」

マリアは笑顔だ。

そして、後片付けを始めた。


「じゃあ俺達は部屋に戻るから」

「ええ、また明日ね」と言って健太とエリザは階段を上っていった。




残ったのは、マリアとミーナの2人になった。

すると、マリアは少し暗い表情になり、小さな声で呟くように話し始めた。


「あの……ミーナさん、お願いがあるのですが……」

マリアの頼みを聞くため、ミーナはマリアと一緒に寝室へ向かった。


「あの、マリアさん。それで私へのお願いって何ですか?」

「はい……。私のこと、呼び捨てにしてください。敬語も使わないでもらえませんか?」

どうやら、そのことが言いたかったようだ。


「分かりました。じゃあ、マリア。これからよろしくね!」

「はい!こちらこそ!」

お互いに笑い合うと、すぐに本題に入った。



「それでマリア。私に何か用事でもあるのかな?」

「えっとですね……。実は、最近この村がモンスターに襲われてまして……それを撃退した勇者が居るようなんです。だからもし、会えたのならお礼がしたいと思いましたので……。」

「そうだったんだ……。それは良かったね。」

「はいっ!」

嬉しそうに返事をした。


「では私は、もうそろそろ行きます。ミーナさんの時間を奪っちゃってすみませんでした。」

マリアは謝ると、ミーナの家から出ようとする。


だが、扉を開ける前に振り返って話し始める。

「ミーナさん。今日はありがとうございます。それと、怪我をして助けてもらったことは忘れてないですよ!」

笑顔で言うと扉を開けて外へ出て行った。

「うん!」

そう言って見送ったあと、ベッドに入って眠りについた。







次の日の朝、目を覚ますと外が騒がしかった。

窓から見ると村の人達が家から出て、慌ただしそうにしていた。

(何かあったのかな?)


不思議に思いながら下に降りると、既にエリザとマリアが外に出ており村人と話し合っていた。

2人に近づき、話を聞いてみると、やはり魔物に襲われたそうだ。


襲ってきたのは狼のような見た目の魔物だったが数が非常に多く、苦戦してしまったらしい。

幸い死者は居なかったらしいのだが、重症者が何人もいるらしく病院の方へ向かったそうだ。

「よしっ、俺たちも行こう」

2人の了承を得てから、健太たちも一緒に向かう。




するとそこには多くの負傷者たちが横たわっていた。

その中にはマリアの父の姿もあった。



「お父さん!?」

マリアはすぐに駆け寄った。

他の患者たちの手当をしていた医者は健太たちを見つけると近づいてきた。


「あなたたちは……」

「ああ、私たちは治癒師です。回復魔法を使いますので……」

「ありがとうございます!」

すると健太は、近くにいた女性に声をかける。


「大丈夫ですか?」

「あ……ありがとうございます。おかげさまで命は助かりました……」

彼女は右足を失っており、痛々しい傷口が見えた。

健太はその部分に手をかざすと「ヒーリング……」と呪文を唱えた。


すると、女性の失った足が元に戻った。


「うぅ……。嘘みたいに痛みがなくなった……。本当に治っている……凄い」

女性は涙を流すと感謝の言葉を述べた。

他の患者の治療を終えると次はマリアの父親の元へ行った。


「さっきの女の子は……マリアなのか?……どうして……」

意識を取り戻したマリアの父親は困惑していたが、

「話は後です。今はゆっくり休んで下さい」と言って再び寝かせた。




次に、別の男性のもとへ向かう。

彼の左足は骨折しており、動かすことが出来ない状態になっていた。


その部分に手を当てる。


「リカバリー」


今度は男の足の骨を治療する。


その後で、「ヒール」と唱えると、折れたはずの両足の骨が再びくっついたのだ。

男は驚いていたが健太たちに何度も頭を下げて、マリアにもありがとうと言った。


それからしばらくして、マリアが話しかけてきた。

「あ、あの……。ミーナさん。さっきは父が迷惑をかけてしまい、申し訳ありません。それに私まで……ごめんなさい」

謝罪と反省の言葉を述べると頭を深く下げた。

そんな彼女の様子を見て、優しく声を掛けた。


「別に気にしなくていいよ。だって、私達は友達でしょう?」

そう言うと、顔を上げて笑顔を見せた。

マリアの父親は健太たちを見ていることに気が付くと声をかける。


「娘を助けてくれて、ありがとう」

お礼を言うと健太は首を横に振って答えた。

「お礼なんて言わなくても良いですよ。それより、早く元気になってくださいね」



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