もちろん何も起きていない。
――1時間後。
森の入り口まで戻ってきた。
「あ、あの、健太さん。私、用事があるのですけど……」
「え?あ、そうか。ごめん。引き留めちゃって」
「いえ、大丈夫です」
「そう?じゃ、またね」
「はい。さようなら」
そういうとマリアは健太から離れていった。
「さて、これからどうしようかな?」
健太は考え始めた。
すると……
「キャーッ!!」
女性の悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ!?」
健太はすぐに駆け出す。
すると、女性が狼型の魔物に襲われていた。
(あれは……確かウルフって名前の魔獣だったはず)
健太の頭に知識が流れ込んでくる感覚があった。
それは、この世界の常識であった。
(どうする?助けるべきか?)
(いや、俺が行ったところで勝てるのか?)
健太の頭の中で思考が続く。
やがて結論が出たようだ。
健太は踵を返そうとした。
しかし。
「いやーっ!誰かーっ!お願い!助けてぇーっ!」
女性は泣き叫ぶ。
その声で健太の心は決まった。
「くそっ!やるしかない!」
健太は女性を助ける為に走り出した。
「グオオォーッ!!」
健太の存在に気付いたウルフは吠える。
健太は構わず突っ込む。
「はあぁっ!!」
健太は剣を振るう。
「ギャンッ!?」
健太の剣を受けたウルフの体に傷がついた。
「グルルル……ガウゥッ!!」
怒った様子のウルフは飛びかかってきた。
「フッ!!」
健太は横に跳んで避ける。
そのまま着地したウルフは、すぐに振り返り、再び襲ってきた。
「くっ!!」
健太は後ろに下がりつつ、攻撃をかわす。
「はあっ!!」
健太は反撃するが、当たらない。
「このっ!!」
健太は焦っていた。
――何故なら、健太には実戦経験がなかったからだ。
――故に、自分の実力を正確に把握していなかった。
やがて、追い詰められた健太は、崖から落ちてしまう。
「きゃああぁぁぁ!!!」
マリアは叫んだ。
だが、健太の姿はもう見えない。
「あぁ……。そんな……」
マリアの目から涙が流れる。
「グルルル……」
その様子を見たウルフはニヤリと笑った。
「グルアァッ!!」
そして、勢いよく飛び出した。
「グルアァッ!!」
ウルフは大きく口を開けて炎を吐きだす。
「くそぉ!!」
健太はジャンプして避けた。
「ガルルッ!!」
今度は爪で攻撃してくる。
「フフン♪」健太はその攻撃を余裕で避ける。
そして、カウンターで斬りつける。
「ギャウゥンッ!?」
「おらぁっ!!」
さらに追撃する。
「ガウッ!ガウッ!ガウッ!ガウッ!」
健太の攻撃を受けて、ウルフは怯んでいる。。
「これで終わりだっ!!」
健太は渾身の一撃を放つ。
「ガウッ!ガウッ!ガウッ!ガウッ!」
だが、まだ倒れない。
「ちぃっ!!」
健太は舌打ちをした。
――その時。
突然、マリアが叫んだ。
「今です!!止めを刺してください!」
マリアの声を聞いて、健太はニヤリとした。
「おう!!」
返事をして、剣を振りかぶる。
「グルルル……」
ウルフは苦しそうな声を出す。
「はあぁ!!」
健太の身体に魔力が集まる。
「グ……ル……ル……ル……」
やがて、力尽きた。
「ふぅ……終わった……」
健太は息をつく。
「お疲れ様です」
マリアは笑顔で出迎えた。
「うん。ありがとう」
健太は微笑みながら答える。
「それでは、戻りましょうか」
「うん」
二人は来た道を戻って行った。
「あ、あの、健太さん。私、用事があるのですけど……」
「え?あ、そうか。ごめん。引き留めちゃって」
「いえ、大丈夫です」
「そう?じゃ、またね」
「はい。さようなら」
そういうとマリアは健太から離れていった。
――1時間後。
森の入り口まで戻ってきた。
「あ、そうだ。マリア」
「なんでしょうか?」
「この世界について詳しく教えてほしいんだけど」
はい、わかりました」
こうして健太はこの世界で生きていくための知識を学んでいった。
1週間が過ぎた頃。
「ありがとう。だいたいわかったよ」
健太は知識を吸収し終えていた。
その日は、マリアの休日だった為、一緒に過ごして夜を迎えた。
ちなみに、今日もマリアの服を借りていて、サイズが大きいのと、デザインの違い以外は普段着ているものと変わりなかった。(マリアの私服を着ていて気付いたことがある。どうやらこの世界の人達は、Tシャツのような簡単な服装をしているようだ)
2人でベッドに入って寝た。
もちろん何も起きていない。
* 朝になって2人は起きた。
そして食事をとる為に食堂へ向かったのだが……。
マリアは料理を作ることができなかったのだ。
「あの、私が作ろうか?」
健太の提案に対して、申し訳なさそうな顔をする。
「すいません。お願いできますか?私は家事が全くできないんです」
健太は苦笑いする。
「いいよいいよ。任せて!」
健太はキッチンに立つ。
すると後ろから、マリアが近づいてきて肩越しに見てきた。
健太の背中をジッと見つめる。
「ん?どうかしたの?」
振り返ると、目があった。
「あ、なんでもありません。……エプロン似合いますね。格好良いです。フフッ♡」
健太は自分の姿を見た。
シンプルな白い無地のエプロンを着けていた。
(これはこれでアリだな)
などと考えながら、料理を始める。
(うーむ、何を作ろうかな?)
考え事をしながら包丁を扱う手際はとても良かった。
トンカツを作り終えた健太は皿に盛り付けてテーブルへと運んだ。
しばらくして、マリアが来た。
だが……。
「えっと、マリア?それは……」
マリアの手には、フォークとナイフしか無かった。
「はい。お肉とかを食べる時はこうしますよね?」
首を傾げつつ聞いてくる。
「まぁ、そうだね」
少し困り顔で答えた。
「じゃあ、食べよう」
健太の言葉を聞いてから、「いただきます」と言ってマリアは食事を始めた。
――5分後。
健太は食べ終わっていた。
「あ、あの、マリアは食べないの?」
恐る恐る尋ねる。
「はい。必要なので」
当然のように言うと、再び食事を続けた。
「……」
健太は無言になった。
***
それから1時間ほど経って、ようやくマリアが食べ終わると健太は質問した。
「ねぇ、マリアは何歳なんだ?俺は23だけど」
するとマリアは笑顔になる。
「わぁ!同い年ですね!凄く嬉しい!」
健太は微笑みながら話を続ける。
「そうなのか。マリアはどこに住んでるんだ?」
「ええっと、リンボンです」
「へぇ~。意外に近いな」
「そうみたいです」
マリアも微笑んでいる。
「マリアって一人暮らしだよな?」
「はい」
(なら、マリアが住んでる部屋を見てみたいなぁ)
そんなことを思い始めた時だった。
「……あの、健太さん」
マリアが話しかけてきた。
「ん?どうした?」
健太は不思議そうな顔をしている。
するとマリアはモジモジしながら、何か言いづらそうな様子で喋った。
「えっと、もし良ければなんですけど……私と一緒に暮らしませんか……?」
頬を赤く染めながら提案してきた。
「え!?……いいのか?」
「はい!ぜひ!!」
満面の笑みで即答する。
「ええっ!?マジかよ……」
驚きすぎて口元に手を当てて驚いている。
「ダメでしょうか?」
心配そうに問いかけてくる。
「いや、むしろ俺の方こそいいのかな?と思って」
苦笑いしつつ答える。
「「もちろんです!」と笑顔を見せる。
――1週間後――
2人は一緒に住むことにした。
* 2人の出会いは2年前のことだ。
当時、16歳だったマリアは両親を亡くしてしまったことでショックを受けていた。
そのショックが原因で彼女は家から出なくなった。
1年後……。
1年前に起きた事件のことはニュースになっていたが、健太は気にしていなかった。
だが、3ヶ月経った頃。
ふと思い出した。
そして、思い出した時には行動に移していた。
「マリア。居るかい?」インターホンを押して声をかける。
しばらく待ったが返事は無かったので再び押した。
すると今度は反応があった。
ガチャッという音が聞こえてドアが開かれる。
そこには青ざめた表情のマリアがいた。
どうもと挨拶をする健太。
「あ、はい。こんばんは……」
と答えた後にハッとして、マリアは慌てるようにして家の中に戻ろうとした。
それを止める健太。
「待ってくれ」と言う。
だが、立ち止まらなかった。
仕方なく家に上がり込んだ。
そしてマリアの部屋に行く。
「マリア」と呼ぶ。
だが、それでも止まる気配が無かったため、部屋の前まで行くと、勢いよく開けた。
そこで目にしたのは……。
ベッドに座るマリアの姿だ。
マリアは驚いたような顔を健太はゆっくりと近づく。
すると、ベッドの下から本のようなものが出てきた。
その表紙を見ると、裸の男女の絵が描かれていた。
マリアの顔は真っ赤になり、恥ずかしさから涙目になっている。
健太はそれを拾い上げると、じっくりと見てからマリアを見た。
「こ、これ……エロ漫画か?」
恐る恐る聞いた。
「うぅ……」
マリアは何も言わずに下を向いていた。
すると、突然泣き出し始めてしまう。
それを見ていた健太は困っていた。
(えーっと、何て言ったらいいんだろう?)と考えている。
その時だ。
(そうだ。アレがあるじゃないか)
健太は収納袋を取り出す。
中には沢山のアイテムが入っている。
そこから、回復薬の瓶を取り出した。
これは飲めば傷や体力などが回復する効果があるものだ。
健太はそれを手に持って、マリアに近付いた。
「マリア。これを飲んでくれないかな」
「え?」
顔を上げて、健太を見つめた。
健太は続けて話す。
「実は僕、怪我をしてしまって……。マリアは医者だから分かるよね?頼むよ」
「は、はい……。分かりました」
戸惑いながらも答えた。
――10分後――
健太の身体にあった火傷は綺麗サッパリ消えている。
「ありがとう!」
「いえいえ!」
お互い笑顔になる。
「ところでさっきの、エロ本についてなんだけどね」
「……」
マリアは俯いたまま黙っている。
「あれってさ、どこで買ったの?」
すると、恐る恐るという感じに話し始めた。
「あ、あの、私、ずっと部屋にいたんです。そしたらお父さんとお母さんが事故で死んじゃいました。私はすごく悲しくて泣いてたら、親戚の方が来たんです。でもその方は私には優しくしてくれませんでした」
とそこまで話したところで、マリアは震えながら泣き出してしまった。
「ごめんなさい!変な話ですよね!」と慌てて付け足す。
「いや、大丈夫だよ。それに辛い話をさせてゴメンな」
「い、いいえ!そんなことないですそれで……」
「ああ」
健太は静かに聞いている。
マリアは一呼吸してから再び話し出す。
「それからです。部屋から出たのは……。それから毎日のように私の部屋にやって来て怒鳴りつけて来るんです。そして今日もまた……あ、あの……健太さん。お願いがあります」
と言ってきた。
「なんだ?」
「あの、わ、私を……抱きしめてくれませんか?」
と上目遣いで見てくる。
――数分後――
マリアは健太を力強く抱き締めていた。
「……」
マリアは無言で涙を流し続けている。
すると健太はマリアの頭を撫で始めた。
「……健太……さん……?」
不思議そうな顔をしている。
「……」
無言でマリアを抱き寄せる健太。
マリアは再び泣くのだった。
AI君!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????????????