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ミッションコード・Scorch Snow-white  作者: 稲狭などか
第1作戦 仲間を見つけろ、世界を見よ
9/13

居場所 3

ここに居ること


 数日間もの時間が過ぎたが、デウス・インダストリアルはニバリスと凛を追いかけて来る事は無かった。それどころか、監視などもついていない。

 凛はその静けさに不気味な予感を覚えていたが、ニバリスは呑気なもので今日は拠点の前にある公園で子供たちと話していた。この辺りにいた小悪党どもがニバリスが暴れた事で近くの町に流れていたのだ。その連中をニバリスが一掃した。その流れで、彼女は町の厄介事を報酬を引き換えに解決し始めたのだ。

 何でも屋と言うよりは、お手伝い兼用心棒だ。

 物を修理したりなどはニバリスは出来ないようだった。凛は少しだけなら車の修理や、危険物も扱えるためその類の仕事は役割分担でこなしていた。

 ニバリスはその代わりに力が凛以上なので、重機レベルのパワーが必要な作業はこなせていた。その時に拠点の周りに置きっぱなしになっていた重機は町の建設業を行っている人々へ譲渡した。

 初めは改造人間であり、元ACEである凛は恐れられていたがニバリスが子供たちと仲良くなった事で住人も徐々に彼女達を受け入れつつあった。


「みんな、変な奴いたら俺達に言えよ? じゃ、気を付けてな!」


 ニバリスは子供たちにそう言うと、拠点の中に帰ってくる。

 執務机でホログラム端末とにらめっこしてるパーカーの凛は、戻って来たニバリスに告げる。


「ニバリスが目覚めた廃墟は誰も近づけない。だからデウス・インダストリアルも手は出せてないよ。あの場所は昔からあったけど、謎の電波が常に放たれていて近づくと変な幻覚を見るんだよ」

「うっわぁー、ヤバいとこじゃねーか。俺が起きた時はそんな事なかったけどな」

「私も入らされたけど、私でも変な幻覚見たよ」

「……聞いても良い?」

「気持ち悪い幼虫見たいなのが、お腹を食い破って出て来る幻覚」

「悪かった」

「別にいいよ。特に怖くなかったし、でも、方向感覚は完全に狂ってたね。どんな手段使っても遠ざかるように歩くんだよ」


 ニバリスは自分のいた場所の異常性にドン引きしながらも、少し安心したような顔をする。


「だが、ホッとした。あの施設には色々置いて来たんだ……ナノマシンを作る器具もあるからな。この拠点の電源だと動かせないかもしれないが。コンセントの出力がカス」

「蓄電器があったよね? それから直接電力供給すれば使えるんじゃないかな?」

「おっ、確かに! それなら電気代の捻出だけだな!」


 そう言うと、凛は少しムッとした顔をする。


「私の能力、忘れたの?」

「あ、そうか! 凛は電気を生み出せんだよな!」

「十億ボルトの発電人間なんだからさ、任せてよ」

「ありがとう! 凛がいてくれてホントに良かった!」


 ニバリスはそう言うと、彼女をギュッと抱きしめる。

 凛は少しあわあわするが、直ぐに落ち着きを取り戻す。


「ベットもありがとうな。買ってくれて助かったよ。やっぱりベットで寝ないと落ち着かないからな」

「気にしないでも良いよ。ニバリスもここを何でも屋にして、周りの人達に私の事説明してくれてありがとうね」


 凛はそう言うとホログラムを消す。

 だが、その時だった。突然、けたたましく警報の様なブザーと共に再びホログラムの映像が凛の操作していた端末から飛び出した。

 そこには、emergencyの文字が浮き出ていた。


「緊急事態用の回線? 私も初めて実際に使われてるの見たよ」

「へー、泣きついて来たって訳? 向こうも大変なんだな」

「私は戻らないからね。この場所凄く心地いいし、時間に余裕があるのが最高なんだよね。気になってたドラマも本も楽しめるし」

「ブラック企業を退職したリーマンみてーな事言ってるよ」


 凛は不機嫌な顔をしているが、それでも警報は鳴り続けている。恐らく通信なのだろうが、ニバリスは凛の選択に任せる事にしてその場から離れてソファに座った。

 その様子に凛は通信に応える為に画面をタップした。

 すると、そこには秀雄の顔が映し出される。


「父上」


 凛はまるで汚物を見るかのような目つきをする。数日前の凛なら、死んだ目をしていただろうが今の彼女は以前にも増して嫌悪を隠さない。

 映し出された秀雄の顔は酷く焦燥している。


「凛……全て、お前の為だったんだ」

「何の用ですか? 雑談なら秘書と楽しんでください。私はもう、デウス・インダストリアルの所属じゃありません」


 冷たい凛の声に秀雄は悲し気な顔をする。


「そんな……向こうの母さんが悲しむ」

「母上は関係ありません! 父上の傲慢さには呆れました! この連絡経路も断ちます。殺しに来るならご自由に、いつでも相手になります!」

「待ってくれ! 今は、そんな事を言っている場合ではない!」


 その声はまるで命乞いだった。

 酒瓶を傾けて、ニバリスはその様子を黙って聞いていた。だが、その声の様子から彼女は少し嫌な予感を覚えていた。おぼろげな記憶の中にじんわりと張り付いている、勘の様なモノだ。


「他の区に悟られでもしましたか?」

「NEXTの一個大隊が、地球圏へ侵入する。3日後に、ここへ総攻撃を仕掛けると」


 その言葉に凛は驚きに固まってしまった。

 

「過去最大規模の進軍だ。かつての戦争時代レベルの地獄が待っているだろう……デウスエクスマキナの起動を行う必要があるだろう」


 秀雄の言葉に凛は声を荒げる。


「北欧区へ救助要請はしないんですか!? 敵対しているとはいえ、それは緊急事態です! 仮に極東区が墜ちるようなことがあれば、デウスエクスマキナはNEXTへと戻るのですよ!?」


 その言葉に、秀雄は更なる怒号を飛ばす。


「そんな恥知らずな真似ができるか! 貴様、あのニバリスに絆されて狂ったか!!」

「狂ってるのは貴方の方です! 離れて見て、ゾっとする毎日ですよ。どれだけ無謀な真似をしているのか、どれほどその思考が危険なのかも! デウスエクスマキナだけでは、勝てないんですよ!」

「黙れ、お前とニバリスがいれば勝てる! 我々は弱みを見せてはいけないのだ!」


 凛は黙って通信を切った。

 そして、デバイスを机にかけていた脇差で叩き斬ってしまった。


「……あの人は、いつもそう! 変わらない! ふざけたプライドで、全部ダメにする! 母上だって、あのくだらないプライドの所為で! 私は嫌! あんな奴の為に戦うなんて!」


 ギリッと歯を食いしばる凛を見ていたニバリスは、飲んでいた酒を飲み干すと立ち上がる。


「あの野郎。いい案件を持ってきたな」


 ニバリスの言葉に、凛はポカンとした顔を彼女に向ける。

 飲み終えた酒瓶を、瓶のゴミ箱に入れたニバリスは言葉を続ける。


「デウス・インダストリアル代表取締役社長からの、直々のご依頼だ。お助け料1億万円、ローンも可。吹っ掛けてあのクソ親父から金を巻き上げて、設備や装備代にしてやる」


 悪い顔でニバリスはそう言って拳をバキバキッと鳴らす。

 凛はそんな彼女に複雑そうな、何かを言いたげな顔をする。そんな彼女にニバリスは言葉を投げる。


「凛、あの親父の為に働くのが嫌なら……別のモノの為に戦うのも、悪くないんじゃないか?」


 そう言うと、ニバリスは凛の近くまで歩み寄る。


「お袋さんの事は聞かない。でも、お前も守りたいものはあるだろ?」


 凛は脇差を鞘に納めると、荒々しく息を吐く。

 その目は怒りに我を忘れた顔ではない。戦士のモノだった。そして、落ち着きを取り戻した凛は笑顔を見せた。


「ニバリスは読めないね。はははっ、お金の為?」

「金もあるし、あの子供たちも遊べなくなるだろ? スラム街には情報が来てないようだな?」

「NEXTは熱探知で攻撃をする時がある。スラム街をデコイ代わりにするつもりなんだろうね」

「スラム街にネタバレぶち込むぞ。シェルターとかはあるのか?」


 ニバリスがそう言うと、凛は携帯端末からスラムの地図を広げた。


「私達の家の近くにもある。スラムにも前時代のシェルターも含めると結構な数はあるよ」


 凛はシェルターをAIで割り出すと直ぐにその場所がわかりやすくマーキングした。空中に浮き出ているマーカーを見てニバリスは腕を組んで短く息を吐くと、一言。


「避難間に合わないだろ」


 スラム街はかなりの広さを誇っており、今から情報を流しても襲撃時には街合わないだろう。こればかりはマンパワーの問題だ。


「でも、何もやらないよりはまし。絶対にパニックになるけど……皆殺しに遭うよりは」


 凛はそう言うと、情報をスラムの情報掲示板へと送信する。パレードを行う時に、突然道を通行止めにするために隊員達は、スラムの情報掲示板への書き込みが可能なのだ。凛はまだその機能を持っている端末を組織に返していない。

 スラムの人々はいつでもデウス・インダストリアルの命令を聞けるように、掲示板は見ている。そうこうしている内に、外が騒がしくなった。


「お姉ちゃん達! NEXTが来るよ! 逃げなきゃ!」


 突然、子供たちが拠点の扉を叩いて呼びかけて来た。


「優しいな。子供は純粋だ」


 ニバリスは扉へと凛と一緒に向かうと、扉を開けた。そこには不安気な顔で震えている子供たちがいた。

 

「よう。ヤベー奴がまさか、上から来るとはな!」

「お姉ちゃん、逃げよう! シェルターまであんないするから!」


 ニバリスの手を掴んで引くのは10歳ほどの女の子。始めてスラムに来た時に、ニバリスが助けた女の子だった。

 だが、ニバリスはしゃがむとその子のほっぺを優しく撫でる。


「ありがとな。でも、姉ちゃん達はアイツらと戦うんだ」

「だめ! 死んじゃうよ!」


 女の子にとっては自分を助けたヒーローであるニバリスが死ぬ事が怖いのだろう。

 だが、ニバリスは優しい笑顔を女の子へと向けて安心させようとしていた。


「心配すんな。悪い奴らは俺と凛がやっつけてやる」


 女の子は凛を恐る恐る見上げる。凛もしゃがんで彼女と目線を合わせる。かつての恐ろしいACEではなく、1人の女性としての優しさを凛も見せる。


「私はもう意地悪しないよ。私もニバリスと一緒に、みんなの為に戦うよ」


 凛がそう言うと、女の子は驚いた様な顔をした。

 

「俺と凛なら負けない。この区の改造人間でも最強のタッグだぞ? 兄ちゃんと友達と逃げろ」


 ニバリスの力強い言葉に、女の子は頷く。

 凛はそんな彼女に一言だけ、照れ臭そうに呟く。


「今度、その、ニバリスと遊びに行っても良い?」


 その言葉に、女の子は嬉しそうに凛に抱き着いた。


「ホント!? 約束! 凛お姉ちゃん、優しくなったってみんなに嘘じゃないって言える!」


 凛は女の子の頭を撫でると、友達と共に避難していく彼女を見送った。


「ねぇ、ニバリス」

「ん?」

「あの子、私を優しくなったって」

「元々の凛として、受け入れてくれるさ」


 ニバリスと凛は部屋に戻って準備を始めた。

 新たな居場所を守るために。

身体が未完成と上は言う

バカの集まりと呆れてしまったよ

コントロール出来てないだけだ

彼女は素晴らしい

断言してもいい、彼女以外に有り得ない


彼女は、姿を変えずに……変身する

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