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ミッションコード・Scorch Snow-white  作者: 稲狭などか
第1作戦 仲間を見つけろ、世界を見よ
5/13

名前 3

世界と言う名のフィールドに


 ビルに入ると、そこは正に別世界だった。

 彼女が記憶に残している世界と比べても、技術の発展を感じられる作りになっている。受付の近くに見える掲示板はホログラム映像だ。これは、彼女の時代には無かった代物だ。建物の周りも駐車場がなく、車などはまるで服の様にアンカーに吊るされて収納されているのだ。

 収納自体は地下で行い、空いた土地に建物を建てているのだろう。

 スラム街とは百年以上の技術の隔たりを感じる。


「未来都市って感じだな。俺の時代にもここまでの技術は無かったぞ?」


 感心したかのようにクルクルと周りを見渡す彼女は子供の様にワクワクしていた。

 そんな彼女に凛は少し呆れたような声で質問する。


「そもそも、お前の時代って? 何年前の事なんだ?」

「さあ? 今は西暦何年だ?」

「今は2090年だ」

「げっ、げぇ!? 2090年!?」


 そう聞いた彼女は変な声をあげると少し固まってしまう。

 その後に頭を抱えると大きく深呼吸してから自分の記憶にある年を話した。


「俺の記憶の中では……2025年だ。65年……俺が寝ていた時間。いや? でも、俺の寝てたカプセルには2040って」


 凛はその言葉に少し考えると、ハッとした顔をする。


「その年は、戦争が始まった年だ。お前、いくつなんだ?」

「20後半? いや、記憶ではもっと若かったような? んん? どういう事だ?」

「記憶が所々抜けているんだな。機密保持か、それにしてはお前の性格は……秘密を持つのに向いてない」

「改造人間は年取るのが速いのか? 10代のはずが、起きてから急激に老化したのか!?」

「多分それはない。私は23だが、20で見た目の変化が無くなるようだ。寿命は常人よりも遥かに長い」

「へぇー。なら、大丈夫だな! 目覚めて直ぐに、ばーちゃんって泣けるからな!」

「お婆さんになっても変わらなそうだな」


 その時に凛はまた彼女と楽しく話している自分に気が付いた。

 思わずに、素を出してしまいそうだと内心で焦りながら隊長としての仮面を必死に作り上げる。


「俺も少しは大人しくなるだろうぜ? はははっ、身体が若いと心も若いままだな」

「それは……そうかもな。私は、昔から変わらない」


 彼女の言葉に、凛は少しだけ悲し気で自嘲気味にそう言うとエレベーターに乗った。ビルはエントランスに日の光が入るような構造をしており、吹き抜けの様に見えるそれはガラス張りなのだ。その先に見える街を見ながら彼女は記憶の中にある街の景色が蘇って来ていた。

 

「やっぱり、似ているな。東京だ……ここは、東京だったんだな」


 静かにそう言う彼女は哀しみを隠す様子もなく街を眺めていた。

 

「トーキョー……昔の地名だ。お前の故郷は、この街だったんだな」


 凛は街を見つめる彼女にそう言うと、彼女は笑って振り返る。


「そうだな。凛と同郷だ! はははっ、俺の方が世代はだいぶ上だけどな!」

「今は第一番街と言う。戦争で崩壊した後でようやく、都市にまで戻せたのが数年前だ。後で過去の街も教えてくれ。着いたぞ、我がデウス・インダストリアル総帥の元だ」


 エレベーターの扉が開く。気が付くと外の景色は見えなくなっていた。どうやらガラスが張られているエリアを抜けて登って来たらしい。

 豪華な装飾が施された廊下の先には大きな扉が見えた。

 扉と言うには門にも思えるそれは、威圧的な雰囲気を持っている。


「父上、凛です。アンノウンを連れて参りました」


 扉の前で凛がそう言うと、扉が自動的に開いた。

 いや、内側から使用人と思われる人物が開けたのだ。扉から光が漏れ、その先にはただっ広い部屋の中央に高級そうな執務机が置かれていた。

 そこには年齢にして60にも近い、初老の男性が立派な椅子に腰かけていた。その堂々としている上に、抜け目の無さそうな釣りあがった目。奇麗に整えられた髭が威厳のある顔つきを更に引き立たせている様にも見える。

 服装は黒いスーツとシンプルだが、その肩にはマントが着けられている。


「凛……先の、NEXT討伐だが」

「はい」


 彼女はその父親の声に怒りの感情を覚えていた。


「何故、単騎で討伐出来なかった?」

「父上、今回の敵は戦艦。しかも、街の上空に現れました。私一人では」

「いいか! 我が区は、全ての区に残存する外宇宙のオーバーテクノロジーでも最上の兵器を保有する! そのACEである貴様が、そんな何処のスパイかもわからんアンノウンと共闘など! 恥をさらすにもほどがある!」

「っ……申し訳ありません」

「いいか! お前は、最強で在らねばならない! 我が区があの忌々しいNEXTどもを討ち滅ぼし! 人類の救世主となるために!」

「はい、父上」


 凛は頭を下げてただただ謝るだけだ。

 そんな彼女に彼は早歩きで迫ると、頭を下げる彼女を蹴り飛ばした。


「その力は誰が与えてやったと思っている! 恩知らずめが! 貴様は兵器だ! 最強の兵器でなければならないのだ! この情報は辺りの区にも出回るだろう! 他の区から舐められてはいかんのだ!」


 そう叫んで凛の父親は彼女に拳を振り上げるが、そんな彼の顔のスレスレを装甲に固められた左拳が通過する。そのおかげて彼の拳は凛に届くことは無かった。


「おい、おっさん。アンノウン様が訪問中だぜ? 茶でも出させろや。名前も聞いてねぇぞ」


 彼女は凛の父親を睨む。

 だが、負けじと彼も彼女を睨み返した。


「我は皆月 秀雄。お前も、どこぞの区の回し者か?」

「凛にも言われたな。俺は改造人間だが、この街にある廃墟で2日前に目が覚めた。彼此、50年? 寝ていたらしい。今の世界の事情も、何が起きてるのかも、ACEってのも、NEXTって奴らも知らない」


 その言葉に皆月秀雄はニヤリと笑みを浮かべる。


「廃墟? アレか……そうか、そうか。なら、我が区の2人目のACEとして迎え入れてやろう。世界の現状も教えてやるし、衣食住も面倒を見よう! その変わり、娘と一緒に極東区を人類再起の英雄にしよう!」


 その提案は一見魅力的だった。

 だが、彼女の眼は酷く濁っている様に見えた。少なくとも、隣にいた凛はその目つきが危険なものであると直感する。


「おい! よせ! お前にはいい話のはずだ!」


 凛は反射的に父親の前に割り込んで彼女を抑える。

 だが、その行動に腹を立てた秀雄は背後から凛の髪を掴んで床に叩きつける。そして、追撃として顔を踏みつけようとする。

 その足を彼女は軽く蹴って凛を守った。


「さっきから何故コイツを守る!?」


 秀雄が癇癪を爆発させる。

 周りに待機している衛兵がじりじりと距離を詰めているのが見える。


「昨日は殺し合いをして、今日は一緒にNEXTって奴らの船をぶっ飛ばした。十分長い付き合いだ……キツイ口調と、強い力で隠れているけどよ。本当は滅茶苦茶、イイ奴だぜ? そいつを守って悪いかよ」

「コイツは兵器だ! お前もそうだろう!」

「なら、話は無しだ! 俺は、友人殴る奴には付かねぇ! お前をぶん殴らねぇのは、凛の親父だからだ!」

「勘違いするなよ! 小娘が! 捕まえて無理やりにでも従わせてやるわ!」


 秀雄が叫ぶが、それ以上の声量で彼女が吼える。


「やって見せろよ‼ クソジジイ‼‼」


 その瞬間に衛兵が刀を抜いて襲い掛かるが、彼女は奇妙な構えを取る。

 肩から前腕、手甲までをアーマーで覆った左半身を前にして、右拳を後ろに構えている。まるで、左腕を盾に、右手を武器に見立てているかのようだ。

 彼女の見せていた先制で殴りつけたり、ジェットでの高軌道での攻撃や射撃でもない。

 まるで逆、どっしりと構えて敵を待っている。

 秀雄は彼女から距離を取り、衛兵が戦い易い状況を作る。それと同時に衛兵の刀が振り下ろされる。その刀は凛の刀と同じく紅い光を放っている。

 高周波の出力を高くしているため、刀が紅く光っているのだ。

 その刃を彼女はアーマーで受け止めた。と同時に、攻撃した隊員が沈んだ。高速で右拳をねじ込まれたのだろう。


「なんだ? その格闘技?」


 秀雄が怪訝な顔をするが、彼女はあっけらかんと答える。


「今、考え付いた」


 衛兵では彼女を止めることは出来ない。次々と倒される衛兵は、たまらずに銃を構えるが彼女は構えを解いて倒れた兵士の刀を2本蹴り上げる。

 その行動にその場に居る凛以外が、ギョッとする。

 刀を掴むと、彼女は笑って突然刀を振り始めた。まるで、演武でもしてるかのような。しかし、流れる様に美しい動きで刀を操っている。それに兵は一瞬魅入られていたが、直ぐに引き金を引く。

 彼女はグン! と突然の加速を見せて兵士の懐に飛び込むと一瞬で斬り伏せてしまう。そして、次々に兵士は彼女の刀の餌食になっていく。高周波も流していないのに、その刀は銃も真っ二つにしてしまう。


「安心しろ、ギリギリ死なない。さて、次は」


 すっかり衛兵は腰が引けていた。その時に、秀雄が叫ぶ。


「凛! そいつを鹵獲しろ! これは命令だ!」


 その命令に凛は刀を抜くと構える。

 だが、その目に戦意はない。


「おい、もういいだろ? 大人しくしてくれ……今日だけで、私はもうどうにかなりそうだ」


 凛は弱々しくそう呟く。


「全部初めてだ。こんなに、嫌な気持ちになったのも……お前にイライラしたのも、悔しいって感じたことも、戦いたくないって気持ちも」

「……そうだったな。どうだ? 最悪か?」

「最悪だ! なんでこんな事を教えた。今までの方が、楽だった!」


 凛は叫ぶと衛兵とは段違いの速度で彼女に斬りかかった。

 彼女はその攻撃を左腕のアーマーで受ける。そのアーマーは凛の刀ですら切断できない程の強度を見せていた。

 昨日まではナノマシンを集中して防いでいた攻撃を、今は防いでしまっている。

 凛はぐしゃぐしゃの感情の渦の中でも、鋭く直感した。

 コイツのナノマシンは成長している。


「楽だよな! 親父の言う事だけ聞いていればよ!」

「うるさい! 解ってる、そんなの言われなくても!」

「直ぐに変えられる事じゃねぇよな」


 アーマーと刀が火花を散らして2人は膠着状態になる。


「頼む、言う事を聞いてくれ。悪いようにはしない!」

「俺にも譲れないものがある。俺と俺の気に入った奴の敵には、最後まで中指立ててやるって事だ! お前、何か無いのか? 今見せてる姿も本音じゃないだろ? 抑え込むのがクセになってんだよな」

「この、分からず屋!」


 凛は刀を再び振り上げると、力任せに叩きつけてくる。彼女はジェットで躱すと、再び防御の構えを取る。

 お互いに能力を使わないのは、先の戦闘で体力の消耗が激しいせいだ。


「凛! また来るぜ」


 また来る。

 その言葉を凛だけに聞こえるように呟いた彼女は部屋の窓にジェットで加速してぶつかる。粉々になった窓から外に飛び出した彼女は空中で身体を捻ると、碧い火球を投げつけて来た。

 それは爆発し、秀雄や周りの衛兵を焦がした。

 そいつらの叫ぶ声を聴きながら、彼女は叫ぶ。


「マシな条件考えておけや! クソジジイ‼‼」


 良く通る声は直後にジェットの噴射音となって、彼女は遥か彼方へと消えていった。その背中に秀雄は悪態を吐く。


「兵の報告にあった通りだ。まるで、災害!」


 小さくなっていく碧い光を凛はただ黙って見ていた。

 そして、心の中で呟いていた。

 だただた、「羨ましい」と。

やぁ、今日は不機嫌だね

時々、そんな時があるけど

なんでその時は大人しいのかな? 

とても悲しそうな眼をしている

悩みの事はわかってるよ。君の力は、近い内に目覚める

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