剛の者 2
私は騎士が好き
2
日が昇る前にニバリスと凛は拠点から出た。辺りは暗いが、2人の改造人間には暗闇は苦にならない。夜目が効くどころか、問題なく見えてしまうのだ。スラムは街に明かり1つ無かった。
空から来る敵に居場所を悟られては本末転倒だからだ。
まだ避難は完全ではない。だが、それでも攻撃はデウス・インダストリアルへと向かうだろう。
「宣戦布告して来たと言うことは、鼻から目的はデウス・インダストリアル。いや、デウスエクスマキナって言うスーパーロボットだよな」
「そうだね。私はデウスエクスマキナを使うつもり、武器はないけど腕を振り回すだけでも前の船レベルなら簡単に壊せる」
「よし、俺は今回は地上で戦う。これは勘だけどよ、相手さんきっとスゲー強い奴が船を曳いてくる。そんな奴がいたら、俺がぶっ倒す! まぁ、何とかなんだろ」
ニバリスは拳をガシッと合わせて笑顔で空を見上げる。
白に碧いメッシュ交じりの髪が夜明け前の風で揺れる。そして、凛は刀の位置を直しながらニバリスに並ぶと同じく空を見上げる。
「ニバリス。負けないでね? まだ、付き合い短いんだから。死んだらダメだよ? 沢山、教える事あるし……それに」
凛の言葉をニバリスは彼女の口を手で覆って遮る。
「短い付き合いだから、わかんないだろうな。なら、教えてやるよ」
ニバリスは黄色の瞳から光を放つ。
「俺は不死身だ。この世に、俺の存在を刻みつけるまで! 生きていたぜって胸を張れるその日まで、永遠に」
その言葉に凛は吹き出してしまう。
「ふっ、あはははは! 永遠って、ははは……また生き足りないって感じだね」
「勿論さ、まずは機械の敵をぶん殴りに行くぜ!」
ジェットで少し浮いたニバリスに凛は飛び移る。
そして、2人は夜空に飛び上がると第一番街へと向かって行く。
*
それは突然現れたように見えた。
空に浮かび上がるのは、飛空艇の大船団だった。地上からは空が消えたようにも見えただろう。海の底から雑多に船が泊められた港を見上げれば似た様な光景を体験できるのだろうが、それらがこちらを認識した上で殺意を向けてきているのだ。
戦いの火蓋は人間サイドが切った。
姿を現した船団に向けて一斉砲火を始めたのだ。だが、人間の砲撃は殆ど効力は見られなかった。飛空艇は船体の周りに薄緑色の球状のバリアを展開してミサイルや砲弾を防いでしまう。
だが、人間側も一筋縄ではない。
次いで放たれたミサイルは爆発と同時に電磁パルスを周囲にばら撒いた。その瞬間にバリアに変化が起きた。
薄緑色から薄橙色に変わったのだ。
その途端に、砲弾やミサイルが飛空艇へと次々と突き刺さった。
「うわー、凄すぎでしょ? こりゃー予想以上だね」
タバコに火を付けたニバリスがビルの屋上から船団を見上げて驚愕したと言わんばかりに拍手をしている。だが、その顔には楽しそうな笑顔を浮かべている。
凛は既にデウスエクスマキナの元へと向かっていた。
爆発の中で、敵側もビームを街へと放ち始めた。会社の周りに集結していた兵器や街にビームが降り注いでお互いの陣営にも被害が出始めた。
だが、まだまだ相手もデウス・インダストリアルも戦力は衰えてはいない。それに、電磁フィールドでビームを曲げている事で被害も防げている。
そんな光景を見ていたニバリスだが、自分の頭上の船から大量のNEXT達が降下して来た。
重々しい金属の音を響かせ、足をコンクリートにめり込ませて多数のロボット達がニバリスを取り囲んだ。その手、いや、腕その物が銃や近接武器の形状を持っている。
「……5人目の、改造人間。ACEと見た」
その声は機械音ではない。
人間が声を当てている様に聞こえる。
「おう、そう言われているよ。ならどうする? ここには、俺一人だぜ?」
その瞬間、ビームがニバリスの頭部へ向けて放たれた。彼女は半歩後ろに下がる。すると、吸っていたタバコが弾け飛んだ。
フィルターだけになったタバコをペッと吐き捨てると、紫煙を吐きながらニバリスはビームを腕に付いていた銃口から撃ったNEXTを睨んで告げる。
「……高くつくぜ」
瞬間。
ニバリスはジェットでそいつの懐に潜り込んでアッパーを胴体へとぶち込む。硬い感触を覚えるが、それをぶち抜いて彼女の拳はそいつの身体を粉砕した。
「やっぱり、俺のパワーが通用する。人間よりは硬いが、特別頑丈って訳ではないようだな」
そう言いながら、彼女は敵の攻撃を躱す。近接攻撃には攻撃の起動を逸らしながら、肘打ちで顔面を粉砕。遠距離攻撃をして来る敵には仲間の残骸を盾にして、ジェットで高速移動して距離を詰めるとパンチでバラバラに壊していく。
「戦闘力に大きな差がある。我々では捕獲は困難!」
半数以上を破壊したところで敵の一体がそう言うと、直ぐに敵は上空の船に撤退していく。
全員が飛行能力を持っている様だが、それはニバリスも同じことだ。彼女は船まで敵を追いかけて、そのまま敵が入っていくハッチの中へと突っ込んで船の内部に侵入する。
その中には以前入り込んだ船以上に中は広く、乗組員も武装をしていた。
「ネームドクラスであると判断する。戦闘部隊、指定エリアへ集合!」
館内のアナウンスが響き渡る。
その声は緊迫した様子だ。機械の身体であるが、何処か妙な相手だった。
「こいつら、通信で情報を仲間内だけで共有できないのか?」
ニバリスは敵をなぎ倒しながらも、そう疑問を口に出していた。
「声も人間らしい。それに、言葉もアナウンスするときは母星の言葉にした方が人間は分かり難いだろ? ん? そうか」
何かを察したニバリスはスパルタンスタイルへと変化する。
そして、迫り来る敵を圧倒的なパワーで次々とスクラップにしていく。話にならない程に敵は弱いが、武器や動きは普通の人間の動きのそれではなかった。敵は単純な力やスピードではニバリスに勝てていないと言う状態だろう。人間なら、簡単に殺されてしまう程に相手の力は強い。
戦い続けていたが、船員が逃げていく事もない。
その代わりに、船が方向を変えたことをニバリスは感じていた。
「ん? 何処かに俺を運ぶのが目的か! そう言えば、捕獲とか何とか言っていたな!」
ニバリスは船体にジェットをぶつけて穴を開けようとするが、敵が攻撃を身体で受けてそれを妨害して来た。彼女は困惑するが、敵は次々と彼女に組み付いてくる。そして、何かの液体が入った注射器を腕の中から取り出して針を彼女にあてがってくるが、彼女はナノマシン装甲で針を通さない。
「ロボットのクセに薬品か!? メタルども、俺達の事勉強してんだな!」
ニバリスは組み付いて来た一体の頭を握りつぶして他の連中も腕や足を握りつぶして拘束から逃れると、彼女はスパルタンスタイルを解いて、近くにいる全員に連続でジェットの衝撃をぶつけて吹き飛ばす。
その時だった。
船が大きく揺れた。
「うおっ、なんだ!?」
ニバリスが焦ってバランスを取りながら辺りを見渡すと、船の窓に巨大な戦艦とも見れる船が見えた。
そこに船が横付けされて、通路を伸ばしてドッキングしたようだ。
「更に増えるって訳か!」
ニバリスは笑顔でそう言うと次の攻撃に構える。だが、周りの連中は攻撃をやめてまるで道でも作るかのように整列した。その様子にニバリスは構えを解いて肩を竦める。
「おい、どうしたんだ? お前ら、もういいのか? おい」
ニバリスは馴れ馴れしくも、整列する奴の1人の肩を揺らすが、そいつは目に当たるカメラをキュイィと彼女に向けるだけだ。だが、何となく迷惑そうな顔をしている様な気がして「あ、悪かったよ」と言って下がるが、意味が分からない。
そうしていると、整列で造られた道の先の扉が開く。
ガギン、と重々しい音が響いた。
「5人目のAECと見受ける。現在の名前は、ニバリスだったか? 手荒いファーストコンタクトとなってしまった事を、我らが主の言葉として謝罪しよう」
現れたのはまるで甲冑姿の騎士の様なロボットだった。
オレンジ色を主に使われたメタリックな姿には他の連中とは違う気品が溢れており、背中には白いマントをしておりそこには金属の両手の上でギロリと前を睨む両目の様な模様をあしらった紋章があった。目に当たる部分は白い光を放ち、鋭く釣りあがったそれは威圧感と威厳を感じさせる。
腰には剣を携えており。その他には武器の様なモノは見当たらない。
「ん? お前、他の奴とは違うのか? ネームドクラスってお前の仲間が言っていたが……あっ、お前がそのネームドクラスって奴か?」
ニバリスはニッと口角を釣り上げながら懐からタバコを取り出すが、相手を見てタバコを仕舞った。
「いかにも、私がNEXT種の中でも上位と認められた存在が一人。ネームド・アクターと言う。これからは、そう呼んでもらえると嬉しい」
「へぇ、なるほど。お前らの種族にとって名前は特別なものなのか」
「理解が早くて助かる。そして、一見粗暴だが貴女は繊細そうだ。我らが機械とわかってタバコを吸う事をやめたように見えた。何故、気を使う? 我らは敵同士、気を使う必要などあるか?」
アクターと名乗ったNEXTは興味深そうに腕を組んでから右手を顎に当てる。
ニバリスは前髪をかきあげて、答える。
「別に、俺は襲ってくるなら戦う。でも、今はこうして話してる。だから、あー、なんだ? よく分かんねーけど、アンタが堂々とした奴だから敬意ってーのを見せたくなった? って奴か。ははっ、俺でも何でタバコ吸うのやめたのか説明できねー」
少し照れ臭そうにニバリスは口元を抑えながら話すと、アクターは笑った。
「ふはははは! 人間と落ち着いて話すのは初めてだが、面白いな! 貴女は自分でもわからん事をするのか!? だが、何だろうな。強い人間とは面白いものだ……皆月秀雄と言う者とはまるで逆だ。あの者は自分の欲望とプライドを秤にかけてプライドを選んだ。虚栄心で死を選ぶとは、弱き男だ」
アクターは心底楽しそうに話す。
「だが、貴女は自分に正直だ。プライドもあるだろうが、行動自体は素直だ。私が現れた時に、嬉しそうな顔をした。戦うのが好きなのだろう? だが、私と話しながらも敬意まで示そうとした。それも無意識で、はははは! こんな妙な事は無い! 貴女を気に入った!」
「はははは! アンタ、スゲー笑うんだな! 俺もアンタとは違う形で出会いたかった」
ニバリスがそう言うと、アクターは目の光量を落として声も少し暗いものに変わる。
「あぁ、そうだな。本当に、惜しい。だが……貴女は私の任務を阻むだろう。そして、共に来ることも」
アクターは肩のマントを止めていく金具を外す。部下がマントを回収するとアクターは左腕を上げる。すると、前腕の装甲が肥大化して盾になり、直ぐに元の装甲へと戻る。起動の確認をしているのだろう。他にも細かなパーツが開閉したりするモーター音が聞こえてくる。
「ニバリス、貴女の事は気に入った。だが、私には主より授かった任務がある。デウスエクスマキナの回収と貴女の確保……あえて聞く、私と共に主の元へと来てはくれないか?」
「ごめんなアクター。それは出来ねぇ、付き合いは短いけどよ……ここは友達の故郷なんだよ。守るって決めたし、それは裏切れねぇよ」
アクターは目の光を少し消すと、ギラッと再び光らせる。
「ニバリス、貴女の事をもっと知りたくなったぞ。だが、我が誇りにかけて任務は遂行する! それは貴女の裏切れぬと言う思いと同じなのだ!」
剣を引き抜くと、アクターは腰にスカートアーマーを展開する。
そして、剣を身体の前で掲げると叫ぶ。
「我はNEXT! ネームド・アクター! 参る!」
落雷の様な見込みでアクターはニバリスに迫る。それにニバリスは閃光の様なジェット加速で迎え撃つ。
船内で両陣営の主力の激突が密かに行われた。
今の時代では珍しいタイプだ
私の認識では彼女をそう評価できる
感情、特に怒りを自分の為ではない誰かの為に爆発させる
彼女自身は否定しているが、観察の結果は真逆を示している
嘘が下手な彼女は必ず定期的に一人になる
そこで本音を呟いているのだろう。吐き出せない優しさと、灼熱の闘争心を




