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プロローグ

 (わああああ!)


 最悪だった。なぜか突然、前世を思い出した。


 「アリア?どうしたの?」


 目の前にはアリアの大好きな王子様が大きな蛇の抜け殻を持って立っていた。

 異様にでかい抜け殻だ。真っ白で美しい。そしてクサイ。

 アリアが森の近い家の庭で見つけたものだ。そして見つけた瞬間から王子様にあげることを決めていた。

 王子様はそのクサイ抜け殻をできるだけ触らないように、だが渡したアリアの気持ちを無下にしないように大切に持ってくれている。


 (消えたい!)


 「アリア?」


 王子様が動くと美しい青色の髪がさらりと光る。

 王子様はコバルトという名前の通り美しいコバルトブルーなのだ。

 心配そうにアリアを覗き込む美しい青色の瞳を見ながらアリアはぶっ倒れた。

 最後の記憶は美しい青色の光が白い物体を投げたところだった。

 おそらく王子様が抜け殻を投げて私を助けてくれたのだろう。



******


 アリア・グレイ、6歳。

 好きなものは、外で遊ぶことと王子様。

 森に囲まれた大きすぎる城のような家に住む。

 お姫様と呼ぶには勇ましすぎる貴族のご令嬢だった。

 

 「ひー」


 アリアは広すぎるベットに顔を埋めて号泣していた。

 17歳まで日本で女子高生をしていた私。17年分の人生が私に押し寄せてきた。

 17歳の私は都会育ち。高層マンションに住み虫などほとんど出会うことはなかった。


 「好きな子に虫をあげるなんて信じられない!」


 3歳下の弟が好きな子に自分の大切にしていたカブトムシをあげて振られた話を聞いた小学生の私の言葉である。


 「…っ!虫は無理!」


 高校の教室に突然入ってきた大きなハエから逃げている私の言葉である。


 「汚いから触っちゃダメだよ」


 道路に落ちた蝉の死骸を触ろうとした甥っ子を止めながら出た私の言葉である。


 17年分の人生の虫事件が頭を駆け巡っている。

 それもそのはず。今世のアリアは物心ついた頃から王子様に虫をあげまくっていた。

 しかも日本とは生態系が違うのかこの国の虫は異様にでかい。

 子どものアリアの手には余るようなでかい虫を手づかみで王子様にプレゼントし続けた。


 虫以外にも濡れた雑草(キラキラ光ってアリア基準では美しく見えた)、落ちた鳥の羽(キラキラ光ってアリア基準では美しく見えた)、反射する素材が入った石(キラキラ光ってアリア基準では美しく見えた)美しい羽の鳥の死骸を上げようとした時には流石に必死で止められた。


 ありとあらゆるとんでもないものをプレゼントしてきた。

 お金持ちなのだから買えばいいのになぜかアリアにはプレゼントは自分で取ったものでなければならないという信条があった。

 そして森に囲まれた(日本で言えば田舎育ちの)野生児にあげられるものなど限られているのだ。

 6歳までのアリアの行動と17歳までの女子高生の前世を比べて大号泣である。

 冷静に考えればこの国でも好きな人へのアプローチで虫をあげまくっている人などいない。


 「アリア大丈夫か?」


 号泣するアリアのもとに兄がやってきた。

 8歳の兄は見るからにイタズラ坊主という見た目でブロンドの髪を短く刈り上げ肌は真っ黒に焼けている。


 「お前どうしたんだ?!なんでスカートなんて履いてるんだ?」


 大号泣するアリアを見て一番の疑問はスカートらしい。

 アリアはスカートが嫌いで家では侍女の薦めを全て無視していつも兄のおさがりを着ていた。

 今日は気を失ったアリアに侍女がワンピースを着せてくれたようだった。


 「今日からスカートにします!」


 「えぇ?!」


 「アリアはもう虫も触りません!」


 目が飛び出そうなほど驚く兄。

 その後ろで侍女は驚きつつちょっと嬉しそうな顔をしていた。


 「あ、アリア、そうだ、コバルト殿下に会いに行こう!」


 様子がおかしいアリアを心配したのか兄が慌てて提案してくれる。

 アリアが王子様を大好きなことを知っているので提案してくれているのだろう。


 そう。アリアが王子様が大好きなのは家中の人が知っているのだ。

 家中どころか王宮中の人も知っているだろう。

 その事実にもアリアは恥ずかしくて倒れそうになる。


 「コバルト殿下もしんぱ…」


 「無理です!」


 「え?」


 「ブル様にはもう二度と会いません!」


 「えぇ?!でも今、家に…」


 「アリアはもう無理なのです!」


 そしてまた大号泣である。


 「アリア…」


 兄はあたふたと慌てている。

 それもそのはずだ。

 兄が王子様の遊び相手に選ばれたのをいいことにアリアはわがままを言っていつも連れて行ってもらっていたのだ。

 兄が困ろうが嫌そうにしようが御構い無しだったのである。

 アリアは野生児ではあったが基本的にはいい子だったので両親も両陛下もなんとか許してくれていた。

 そしてコバルト殿下も。


 虫をあげた時のコバルト殿下の若干引きつった笑顔を思い出す。


 「アリア、でもコバルト殿下も困るだろ…」


 「困りません。もともと呼ばれていたのはお兄様だけです。」


 「い…」


 「アリアが行くのはご迷惑だったはずです。

  お兄様もアリアがいるから行けないところがあると怒っていらしたはずです。」


 「それは、そうだけど…」


 「アリアももう女の子らしくします」


 大号泣しながらマシンガントークを始め、昔自分が言った小言まで持ち出した妹に兄は何も言えなくなったらしい。


 「そ、そうか。

  …まだ元気じゃなさそうだし、元気になったら会いに行こうな。」


 いつもはガサツな兄の優しい言葉にアリアはまた号泣してしまう。

 前世の記憶が一気に蘇ったことで記憶が混乱し精神が安定していないみたいだ。


 アリアはもう王子様には会わない。


 自分で言ったくせに悲しいのである。



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